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人工知能学会金融情報学会第19回での発表について
FXチャートのCNN分析:AIチャート(AI Chart)による為替予測の研究報告
本記事では、人工知能学会 金融情報学研究会(第19回)にて発表した研究「FXにおけるチャートのCNNによる最適化」の内容を詳しく解説します。近年、ディープラーニング技術の急速な発展により、金融市場の価格予測への応用研究が世界中で活発化しています。本研究では、USD/JPYの為替チャート画像および数値データをCNN(畳み込みニューラルネットワーク)に学習させ、AIチャート分析の精度向上を目指しました。前回研究からの改善点、使用したデータ・モデルの詳細、そして検証結果と今後の課題まで、段階的に説明します。
1. 研究の背景と目的
近年、人工知能分野の技術を金融市場の分析・予測に応用する動きが急速に活発化しています。情報技術の発達により、これまで蓄積されてきた膨大な金融市場のデータをインターネット経由で容易に取得し、機械学習の学習データとして活用できる環境が整ってきました。こうした背景から、AIチャート分析の研究領域は学術的にも実務的にも注目を集めています。
前回の研究では、為替レート(USD/JPY)のチャート画像を用いた15分後の値動き予測に取り組みました。具体的には、15分足のチャート画像のみを入力データとして使用し、2006年のデータで学習、2007年から2016年のデータで検証を実施しました。その結果、年率約2%のリターンが得られましたが、予測精度のさらなる向上が課題として残りました。
今回の研究では、その課題を克服するために以下の2点を改善しました。第一に、入力データを日足・4時間足・15分足の3種類のチャート画像に拡張しました。実際のFXトレードでは複数の時間軸チャートを参照しながら売買判断を下すのが一般的であるため、モデルにも同様の情報を与えることで予測精度の向上を図りました。第二に、チャート画像(視覚的データ)に加えて、時系列の数値データを入力とするCNNモデルも構築し、両者の結果を比較・考察することで、AIチャート分析における最適なアプローチを探りました。
2. 研究手法
2.1 基本的な前提設計
実際のFXトレーダーは、エントリーの判断を下す際に日足・4時間足・15分足という複数の時間軸のチャートを組み合わせて参照することが一般的です。本研究でも、この実際のトレード手法を模倣する形で、3種類の時間軸データを1つのモデル入力として統合しました。
データの取り込みにあたっては、学習データに未来のデータが混入しないよう、厳密なルールを設けました。日足については前日分のデータを使用し、4時間足については予測対象とする15分足が含まれない時刻までのデータを学習データとして取り込みました。また、現在の日付途中までの未確定足(リアルタイムで形成中のローソク足)は、実際のトレードでは重要なシグナルとなりますが、本研究では4時間足・15分足の確定データにその情報が含まれているとみなし、前日の日足データを使用してデータを構築しました。
本研究で使用したデータの仕様は以下の通りです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 通貨ペア | USD/JPY |
| 日足データ数 | 3,115本 |
| 4時間足データ数 | 18,956本 |
| 15分足データ数 | 304,567本 |
| 画像サイズ | 892×500ピクセル |
| チャート画像1枚あたりの足本数 | 211本 |
| チャート数値データファイル数 | 199ファイル |
| 利用フレームワーク | Chainer |
| 使用言語 | Python |
2.2 データの準備
2.2.1 学習環境とラベル設計
今回の検証では画像データ量が約30万枚に上るため、GPUを活用した高性能な学習環境が必要でした。使用したGPU環境はNvidia GTX 1080 TiおよびNvidia GTX 1060 Tiで、学習用マシンの構成は以下の通りです。
- 数値学習マシン:GTX 1080 Ti 1枚+GTX 1060 Ti 1枚
- 画像学習マシン:GTX 1080 Ti 2〜3枚
画像データ・数値データ共通の準備として、価格データをSQLデータベース化し、検証時にクエリを発行して売買タイミングでの損益データを抽出できる仕組みを構築しました。データベースには15分足のデータを格納し、当該15分足の終値で約定、次足終値でポジションをクローズするルールを設定しました。値幅の計算についても同様に、当該足の終値と次足終値の差を使用しています。
ラベルの振り方については3種類を用意し、それぞれの振り分けに対して学習・検証を実施しました。ラベルの具体的な分類基準は以下の通りです。
| ラベル種別 | 値動き幅の閾値 | 分類カテゴリ |
|---|---|---|
| パターン1 | 5pip以上 | 買い / 売り / 何もしない |
| パターン2 | 10pip以上 | 買い / 売り / 何もしない |
| パターン3 | 15pip以上 | 買い / 売り / 何もしない |
2.2.2 画像データの取得・加工・学習プログラム
チャート画像の取得には、MQL4およびC++で作成したプログラムを使用しました。MetaTrader2のチャートをコマ送りにし、USD/JPYの15分足チャート画像をスクリーンショットとしてPNG形式で約30万枚保存しました。同様の手順で、各15分足の日付・時間に対応する日足・4時間足のチャート画像も取得しています。
取得したPNG形式の画像に対しては、ビット深度の変換やサイズ変更を行う加工プログラムを別途作成・実行しました。日足・4時間足・15分足のチャートはそれぞれ8bitグレースケール画像として生成し、同時刻の3種類のチャート画像をRGBチャンネルにマッピングして統合することで、1枚のRGBカラー画像にまとめています。この統合画像をCNNに入力することで、3つの時間軸の情報を同時に学習させる仕組みです。
学習プログラムの構成は以下の通りです。
- Chainer CNNプログラム:統合した3時間軸チャート画像をCNNで学習するプログラムをPythonで作成
- Chainer学習結果返却プログラム:学習済みモデルに未学習データを入力し、「買い」「売り」「何もしない」のいずれかを返却するプログラムをPythonで作成
- チャート価格取得プログラム:各チャート画像に対応するチャート開始時刻(左端)・現在時刻(右端)・次足時刻(右端+1)、右端の終値・右端+1の終値・両者の価格差を全15分足分取得
- 結果検証プログラム:学習済みモデルが返却した売買情報とSQLデータベースを照合し、損益をExcelにまとめるプログラムをPythonおよびPostgreSQLで作成

2.2.3 数値データの取得・加工
数値データについては、MetaTraderを使用してUSD/JPYの日足・4時間足・15分足データをCSV形式で取得しました。取得後、対象とする15分足・4時間足・日足のデータをそれぞれ200本分ずつ1ファイルにまとめる加工プログラムを作成・実行しました。
出力データの特徴量については、各ローソク足の高値・安値・始値・終値を組み合わせた以下の値を計算しています。
- 高値と安値の差分(値幅)および平均値
- 始値と終値の差分(実体部分)および平均値
これらの特徴量を数値ベクトルとして構成し、CNNに入力しました。画像データと比較して、数値データはファイルサイズが格段に小さく、学習に要する計算リソースも大幅に削減できました。一方で、視覚的なパターン認識という観点では画像データとは異なる性質を持ちます。
2.2.4 検証に用いたCNNモデルの構造
検証には、数値データ・画像データいずれもCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を使用しました。画像データ用CNNでは、日足・4時間足・15分足の3チャンネルをRGBにマッピングした統合画像を入力とし、使用する画像データ数に応じて入力層のサイズを調整しました。
各モデルのアーキテクチャの概要は以下の通りです。
数値ベクトル
→
①×4回
→
②×2回
→
3クラス
RGB画像
→
①×3回
→
②×2回
→
3クラス
出力は「買い・売り・何もしない」の3クラス分類であり、いずれのモデルも同一の出力形式を採用することで、画像データと数値データの結果を公平に比較できるように設計しました。
2.3 検証方法
学習データと検証データの分割は、時系列の順序を厳守した上で以下のように設定しました。2006年〜2008年のデータで学習させたモデルを構築し、学習させた年度以降のデータを使って逐次検証を実施しています。また、前述の3種類のラベル付け(5pip・10pip・15pip)をそれぞれ独立して検証しました。
| モデル | 学習期間 | 検証対象期間 | ラベルパターン |
|---|---|---|---|
| 数値データCNN | 2006〜2008年 | 2009年以降 | 5pip/10pip/15pip |
| 画像データCNN(3時間軸) | 2006〜2008年 | 2009年以降 | 5pip/10pip/15pip |
| 画像データCNN(15分足のみ) | 2006年のみ | 2007〜2016年 | 前回研究との比較用 |
3. 検証結果
3.1 数値データによる結果
数値データを用いて2006年〜2008年を学習させたモデルの検証結果では、ラベルパターンによって損益に差が見られました。5pip・10pipのラベル付けでは一定のプラスリターンが得られた一方、15pipのラベル付けではマイナスの損益となりました。損益グラフ(縦軸:円)では、年度によって上下動があるものの、全体として緩やかな右肩上がりのトレンドが一部のパターンで確認されました。
数値データモデルの特徴として、画像データと比べて学習に要する計算時間が大幅に短縮された点が挙げられます。30万枚の画像を処理する画像データモデルに対し、数値データモデルはファイルサイズが格段に小さく、より少ないGPUリソースで学習を完了できました。
3.2 画像データによる結果
画像データを用いて2006年〜2008年を学習させたモデルについても同様に検証を行いました。損益グラフでは検証期間を通じて一定の損益推移が見られました。また、前回研究との比較のため、2006年の15分足・4時間足・日足のみで学習させたモデルの結果も並べて確認しています。
前回研究(2006年の15分足のみ学習)では損益が約1,000pip・年利1%程度でしたが、今回の3時間軸を統合したモデルでは1,500pip・年利約1.5%と改善が見られました。ただし、こちらも15pipのラベル付けではマイナスとなっており、閾値設定の違いが結果に大きく影響しています。

4. 考察
4.1 前回研究からの改善効果
前回研究(2006年の15分足画像のみで学習)では年利約1%のリターンでしたが、今回の日足・4時間足・15分足を統合した画像データモデルでは年利約1.5%となり、マルチタイムフレーム情報の追加が予測精度の向上に寄与することが示唆されました。これは、実際のトレーダーが複数の時間軸を参照しながらエントリーを判断するという行動を、CNNモデルがある程度再現できた結果と解釈できます。
4.2 数値データと画像データの比較
画像データと数値データの結果を比較すると、若干数値データの結果が上回りました。ただし、いずれの場合も勝率において統計的な有意性は確認されておらず、結果の差は誤差の範囲内である可能性も考慮が必要です。また、数値データ・画像データともに15pipのラベル付けではマイナスとなっており、この原因は現時点では特定できていません。
数値データと画像データのそれぞれのメリット・デメリットを整理すると以下の通りです。
| データ種別 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 数値データ |
・より正確な価格情報を直接入力できる ・計算量が格段に少なく、学習コストが低い ・ストレージ消費も最小限 |
・CNNは本来、画像の空間的パターン認識のために開発された手法であり、本来の目的に合致しない ・視覚的なチャートパターン(三角持ち合い・ヘッドアンドショルダー等)の表現が難しい |
| 画像データ |
・人間が目で見てトレードするという実際の判断プロセスを模倣できる ・CNNの本来の強みである画像認識能力を最大限に活用できる ・視覚的なチャートパターンをそのまま特徴量として学習させられる |
・入力の次元が多次元になり、計算コストが非常に大きい ・30万枚規模の画像データはストレージ・メモリ要件が高い ・前処理(スクリーンショット取得・RGB統合)の工程が複雑 |
4.3 発見された課題と今後の研究方針
今回の研究を通じて、複数の改善すべき課題が明らかになりました。
課題①:3時間軸画像の統合方法
現在は日足・4時間足・15分足の3枚の画像をRGBチャンネルに単純にマッピングして1枚のカラー画像に統合していますが、この方法では各時間軸のコンテキスト(文脈)を適切に学習できていない可能性があります。今後は、3つの時間軸を別々の画像として入力し、それぞれの特徴マップを後段で統合するマルチブランチCNNアーキテクチャの採用を検討したいと考えています。
課題②:数値データモデルの再現性
数値データを使用したモデルにおいて、複数回学習を実行した際に結果が完全に一致しないケースがありました。乱数シードの初期化方法やDropout処理の実装方法が原因として考えられますが、詳細な原因特定は今後の課題です。
課題③:経済指標データの統合
現在のモデルは純粋な価格データのみを入力としていますが、米国雇用統計・FOMC声明・日銀政策決定会合などのマクロ経済指標をモデルに組み込むことで、予測精度がさらに向上する可能性があります。経済指標の発表タイミングと価格変動の関係を学習させることが今後の研究テーマの一つです。
課題④:より深いアーキテクチャの検討
本研究でのCNN構造は比較的シンプルなものでしたが、ResNetやInceptionなどの深層アーキテクチャ、あるいはCNNとLSTMを組み合わせた時系列対応のハイブリッドモデルの適用も検討の余地があります。LSTMは時系列データの長期依存関係の学習に優れており、為替レートの長期トレンド把握に有効である可能性があります。
まとめ
本研究では、USD/JPYの為替チャートを対象に、AIチャート分析におけるマルチタイムフレームCNNモデルの有効性を検証しました。主要な成果と知見は以下の通りです。
- 日足・4時間足・15分足の3時間軸データを統合した画像CNNモデルは、前回の15分足のみのモデルと比較して損益が1,000pip→1,500pip、年利1%→1.5%へと改善された
- 数値データを用いたCNNモデルは、画像データモデルをわずかに上回る結果となり、計算コストの面でも大きな優位性を持つことが確認された
- ラベル付けの閾値(特に15pip設定)においてはいずれのモデルもマイナスとなり、適切な閾値設定が予測性能に大きく影響することが示された
- 統計的な有意性の確認、3時間軸画像の統合方法の改善、経済指標の組み込みが今後の主要な研究課題として特定された
AIチャート分析は、機械学習・ディープラーニング技術の進歩とともに急速に発展している分野です。本研究で得られた知見と課題を踏まえ、より精度の高い為替予測モデルの構築に向けた研究を継続していきます。
監修
河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)
AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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