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AIブログ
第13回「AIとビッグデータによるマッチングビジネスの世界」
[ハウス・オブ・カード]
2018年3月、フェイスブックの個人データが不正な方法で取得され、アメリカ大統領選挙で用いられたのではないかと報道され、世界的な大問題に発展しました。2年を経た我々が既に忘れかけているニュースですが、実はこの騒動は極めて深刻な問題をはらんでいます。
報道によれば、トランプ陣営が契約していたデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカ(CA)が、フェイスブックユーザー約5000万人の個人情報を不正収集し、こちらを選挙戦に活用したというのです。問題は、何を分析し、どうやって活用したかという点です。この分析・活用には、当時ケンブリッジ大学教授だったマイケル・コシンスキイの研究が応用されていました。フェイスブックで人々がどのような記事に「いいね!」を付けているのか、その点をビッグデータから抽出し、プロファイリングを行ったのです。
「いいね!」のデータから、その人の「人種」「性別」「政治的至高」「宗教」などを推定するモデルを抽出する事で、人格が分かる。そんな事が可能なのかと首をかしげたくなりますが、本当にある程度の成果が上がってしまっています。例えば、『ゴッドファーザー』『モーツァルト』『指輪物語』といった映画を好む者は、知能指数が高いという結果が生まれています。「その蜘蛛は、君よりも怖がっている」というウェブサイトに「いいね!」を付けるのは、非喫煙者が多い。このような具合に、通常の人間的思考では明らかにならなかった、より大規模な「傾向」が、くっきりと浮かび上がって来るのです。
傾向が分かれば、あとはその傾向、つまり好みにあった事を口にすれば、非常に大きな効果を上げられます。CAは、「個人の性格を切り口にして、一人ひとりの有権者に対してターゲット広告を打つ方が、マスメディアでブランド・イメージを形成しようとしたら、人種、年齢、地域、所得などの大雑把な属性でキャンペーンを考案したりするより、遥かに効果的」だと述べています。
トランプ陣営のそうした不正な政治的マーケティングが存在したかどうかは不明ですが、そのような「AIとビッグデータによるマッチング」に効果があるという事が示されたのは事実です。実は、Netflixも似たようなAI応用を用いて、自らのビジネスに直接反映をしています。無数のデバイスに組み込まれたアプリから、「どのように映画を探しているか」「どの場所で観ているか」「何時に観ているか」「1日何時間観ているか」といった膨大なビッグデータを把握し、これを「あなたにオススメ」などのマッチング・サービスに活用しているのです。
Netflixを全世界に押し出す事になったオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード』もまた、このAIマッチングの可能性から誕生した成功事例です。ビッグデータをAI解析した結果、彼らは「デヴィッド・フィンチャー監督(代表作:『ファイト・クラブ』『セブン』など)」の視聴者層が、「俳優ケヴィン・スペイシー」の視聴者層と、非常によくリンクしている事に気づきました。また、この共通視聴者層は、1990年にイギリスで放送された政治テレビドラマ『ハウス・オブ・カード』に興味があるという事も分かっていました。そこで、Netflixがデヴィッド・フィンチャー監督に打診をしてみたところ、監督は前から『ハウス・オブ・カード』のリメイクを行いたいと思っていた事が明らかとなりました。
こうして、成功するべくして成功したドラマシリーズは、Netflixの事業を飛躍的に向上させる結果をもたらしたのです。もっとも、AIとビッグデータは、その後に俳優ケヴィン・スペイシーが、醜悪なセクシャル・スキャンダルを巻き起こして降板せざるを得なくなるという未来までは見いだせなかった、という皮肉な結末付きですが…
[可能性をどこまで見極めるか]
とにかく、AIとビッグデータが連携する事には、様々な輝かしい未来性があると言えます。「AIがエージェントとなり選考を支援する」「交流サロンの親和性をチェックする」「オススメの広告や商品をピックアップする」「最適なタイミングでプッシュ通知を行う」など、様々な応用が考えられます。
しかし、あくまでも、AIは全知全能のゼウスでは無いという事を念頭に置いておかねばなりません。ケヴィン・スペイシーのゴシップを想定出来なかったように、AIは答えではなく、あくまで私たちに判断を促すだけなのです。私たちには、そのAIの反応を適切に見極める目と心が必要です。
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