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第9回「第3次AIブームが製造業活用の事例を円滑に行うには?」

二度潰えた夢と理想

先述の通り、チューリングによって提唱されたAIは数々の夢と理想を生み出す事になりました。日本では1960年代から1970年代にかけて、AIという概念に基づくプログラム開発が積極的に行われるようになりました。これが第一次AIブームという言われ方をします。この第一次AIブームから「開発したAIを製造に活かせないか?」という着想は存在していたのですが、この当時に生み出されたAIは「判断基準を持った単なるプログラム」に過ぎず、実用レベルには全く至りませんでした。

続く1980年代、日本製造業が世界に激しい衝撃を与えていた時期とあって、積極的なAI研究が再び幕を開ける事となりました。これが第二次AIブームと評されます。医療・製造業界の叡智をAIに組み込むべく、570億円という予算を投じる計画(第5世代コンピュータ国家プロジェクト)が大々的に進められたのです。しかし、ここではある程度の「判断基準」を持ち得たものの、人が持つグレーゾーンの活動(熟練の者が持つ直感・経験等)の可視化・学習を十分に行う事が出来ないという結果に終わりました。その後も研究を続けていれば何らかの発見があったかもしれませんが、バブル崩壊によって予算が破綻し、計画は頓挫する事となりました。

こうしたかつてのブームの終焉を乗り越え、再び日本がAI開発に注力し始めたのが2000年以降となります。これが第三次AIブームです。AIが自律的にデータ学習を行える「機械学習」、とりわけ「深層学習」という手法が確立された事から、ようやくここで大きな革新が生まれたのです。2006年には電通大・保木教授が開発した将棋AIソフト「ボナンザ」が優勝するという功績も、そうした革新のひとつでした。何でも出来る万能AIではなく、用途を制約して特化したAIであれば、人間を超えるような能力を出せる事が明らかとなったのです。

AIと現場の特性理解へ

このような道のりを経て誕生した近年のAIは、「判断基準を独自に設け、学習しながらより正確かつ効率的に判断し続ける」という高次の技術性を獲得しています。ただし、先述の通り「何でもこなせるAI」というテクノロジーではありませんから、そこには人間側の確かなてこ入れが必要です。特に製造業においては、「AIの特性」と「製造現場の特性」双方を理解した人間がAI導入の要になる事が求められています。

例えば、「現場状況に見合ったAIサーバー運用」という視点を考える時、非常に重要な要素となるものが「AIサーバーの構成」となります。計算機資源(AIサーバー)の配置構成は、主に「エッジ(生産ラインのすぐ傍に置く)」と「クラウド(オンライン上に置く)」というものがあります。エッジ配置はクラウド配置より遅延が無く、高速処理が可能です。ただし、予め不具合を想定して予備機という安全策を導入しておく必要があります。

クラウド配置の場合はエッジ配置よりも多く遅延が生じる為、高速生産ラインには向いていないと言えます。ただし、エッジのように媒体の機能性に左右されず、常に最先端AIを享受出来るというメリットは大きく、予備機の安全策をほとんど必要としない点でも製造業にとっては魅力があります。また、将来的には遅延を極端に短縮する「5G回線」の登場も見込まれていますので、そのような技術革新点を考慮して導入を検討する事も可能です。

二度潰えたAIと製造業が結び付く夢と理想は、今、徐々にその形を現実のものとして体現しつつあります。AIと現場の特性を理解して導入を行えば、製造業(工場)を支える「Quality:品質・仕様」「Cost:コスト・原価」「Delivery:数量・納期」の管理(QCD管理)に大きな実益をもたらす事になるでしょう。

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