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AIx医療、Cancer Care Monitorが実現する在宅がんケアの可視化

患者とAIの対話内容から症状を可視化できる新ツールが記録した実際のデータをもとに、これからの医療現場ついて。
病院の外で何が起きているのか
患者の精神状態の実態
外来診療を受けるがん患者が医師と顔を合わせる時間は、1回の受診につき多くの場合10〜15分です。訪問診療であっても、それは2週間に一度の「点」にすぎません。その間に患者が経験する168時間の生活——痛みの波、夜中の倦怠感、食欲の変化、眠れない夜——は、医師の目には原則として届きません。
ユタ大学のMooney博士らの研究が示すように、中等度〜重度の症状を経験している患者のうち、医療者に自発的に連絡するのはわずか5%です。残りの95%は、症状を抱えたまま自宅で一人対処しています。
「なんとなく体調が悪い」が医師に伝わらない構造的な問題
診察室で「最近どうですか」と聞かれた患者が、2週間分の症状変化を短時間で整理して報告することは、認知的に難しい作業です。結果として「まあ、普通です」という曖昧な報告になりがちで、医師が正確な状態を把握するための情報が失われます。
これは患者の能力の問題ではありません。診察と診察の「空白」に、情報を収集・蓄積する仕組みが存在しないというシステムの問題です。

Cancer Care Monitorのダッシュボードが提供する4つの視点
「Cancer Care Monitor」は、患者とAIとの対話内容から症状を可視化するツールです。
「なんとなくしんどい」を「0〜4のスコア」として表示する
ダッシュボードには「平均症状スコア(0〜4)」と「重症日数」が表示されます。
患者がAIとの対話の中で語った日常の言葉が、医師と患者が共有できるスコアとして表示される——診察室で「最近どうですか」と聞かれても思い出せないような、日々の体調のアップダウンが、共通言語に変換されているという点がこの機能の核心です。
「痛みの所在」と「時間軸」の同期
「身体マップ」タブと「対話履歴」タブが連動しており、「いつ」「どこが」「どのように」痛んだのかを時系列で確認できる構造になっています。
月次グラフで全体の傾向を把握しながら、特定の日付に何が起きたのかを対話履歴で掘り下げられる——この二層構造が、診察の文脈を豊かにします。

「生活の質(QOL)」の変動の可視化
「生活レベル」タブでは、活動レベル・睡眠品質・食欲が対話から抽出され、グラフとして表示されます。ダッシュボードには「QOLスコア」「現在の活動レベル(0〜3)」「睡眠品質(0〜3)」が数値として表示されています。
痛みスコアだけでなく、生活全体への影響が同時に見えることで、ケアプランの根拠となる情報の次元が広がります。
数字の根拠としての「対話ログ」への即時アクセス
Cancer Care Monitorの重要な設計の一つが、数字をクリックすると対話内容を確認できるという機能です。
医師はまずグラフと数値で全体像を把握し、気になった箇所の数字をクリックして、患者がAIと交わした対話の原文を直接確認できます。AIが独自に判断して数値を生成しているのではなく、あくまで患者自身の言葉(一次データ)に基づいているという透明性が、このツールへの信頼の根拠になります。
この方向性はRCTで実証されている
Cancer Care Monitorが体現するアプローチ——患者の自己報告を継続的に収集し、医療チームと共有する——の有効性は、複数のランダム化比較試験(RCT)によって実証されています。
Memorial Sloan Kettering Cancer Centerで行われたRCT(766名)では、症状を定期的にデジタルで報告して医師・看護師と共有した群は、通常ケア群と比較してQOLの改善率が約2倍(34% vs 18%)、救急受診率が有意に低く(34% vs 41%)、1年生存率でも有意な差が見られました(Basch et al., Journal of Clinical Oncology, 2016)。
ユタ大学のRCT(358名)では、自動化された症状モニタリングシステムの介入群において、重篤な症状日数が67%減少、中等度の症状日数が39%減少するという結果が得られています(Mooney et al., Cancer Medicine, 2017)。
「症状を継続的に記録・共有する仕組みを整える」だけで、生存率を含む臨床アウトカムが改善する——これは査読済み研究が示す事実です。
医療現場に起きる変化
医師:診察前に「2週間分の文脈」を持てる
Cancer Care Monitorのダッシュボードが診察前に手元にあることで、「今週の月曜日に症状スコアが急上昇し、対話ログを確認すると夜間の痛みを繰り返し訴えている」「食欲スコアが先週から継続して低下している」という文脈を持った上で患者と向き合うことができます。限られた診察時間を、データ収集ではなく対話に使えます。
患者:漠然とした不安が「整理」される
症状が記録・スコア化されることは、患者自身にとっても「自分の状態を客観的に把握する」助けになります。
家族・ケアチーム:「異変の早期発見」に根拠が生まれる
「症状改善状況」タブの改善・悪化傾向の表示は、「いつ医療者に連絡すべきか」という在宅ケアの難しい判断に、感覚ではなく数値的な根拠を与えます。
課題と前提条件
通知設計が実用性を決める
症状データが日々蓄積されても、医療者が毎日全てを確認しなければならないとなれば負担が増します。重要な変化のみをアラートとして通知する設計が、ツールの実用性を左右します。Mooney博士らの研究でも「アラート閾値の設計」がシステムの実効性の中心であることが示されています。
センシティブデータへの信頼が前提
患者の日々の症状・睡眠・精神状態が記録されるこのツールでは、「この対話は誰が見るのか」「どう使われるのか」が患者に明確に伝わることが、正直な語りを引き出すための前提条件です。透明性と患者によるデータ管理の権利保障が、技術と同等に重要です。

最後:医師が患者と「対話」するための時間を取り戻すために
Cancer Care Monitorが解決しようとしている問題はシンプルです。医師は24時間、患者の枕元に立てない。しかし患者の症状は24時間変化している。
これまでの診察:患者の記憶頼みの「点」。 Cancer Care Monitor後の診察:AIが日常を拾い集めた「線」を医師が持った状態で始まる対話。
RCTが示す通り、症状の継続的な共有はQOLの改善、救急受診の減少、そして生存率の改善という、臨床的に意味のある成果に繋がります。その仕組みを実現するための具体的なツールが、Cancer Care Monitorです。
参考文献
- Basch E et al. (2016). Symptom Monitoring With Patient-Reported Outcomes During Routine Cancer Treatment: A RCT. Journal of Clinical Oncology, 34(6):557-565.
- Basch E et al. (2017). Overall survival results of a trial assessing patient-reported outcomes for symptom monitoring. JAMA, 318(2):197-198.
- Mooney KH et al. (2017). Automated home monitoring and management of patient-reported symptoms during chemotherapy: SCH RCT. Cancer Medicine, 6(3):537-546.
- Mooney KH et al. (2024). Essential Components of an Electronic Patient-Reported Symptom Monitoring System: A RCT. JAMA Network Open, 7(9):e2433153.
- Cancer Care Monitor. https://medical-phr.dev.deepai.jp/cancer-monitor-dashboard.html
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