第9回「AIが音声合成の領域で病院に貢献する日へ」

病院 音声合成 脳波 バーチャルヒューマン 音声合成

厚生労働省の2017年の資料によれば、日本の雇用者総数は約5800万人であると言われています。産業別にその雇用者数を分類しますと、製造業が約1006万人でトップを走り、それに続くのが卸売業・小売業の約988万人、そして医療福祉の約786万人となります。この3つの分野は日本社会を支える重要な柱ですが、少子高齢化により、慢性的な人手不足に悩まされている現状があります。

私たちの健康を支える病院は特にそうした人手不足課題と先細りの問題が指摘されている組織の一つです。この人手不足は病院経営の問題だけではなく、医療サービスの品質にも直結する大きな問題となります。日本医療労働組合連合会の調査資料によれば、医療事故の原因として報告されている最も高い原因項目は「人手不足による忙しさ」とあります。ひとりの医師や看護師にキャパシティを超える仕事が課せられている結果、医療ミスのリスクが高まる事を意味しています。

厚生労働省の資料にも「病床あたりの看護師数が高い程、患者の安全性が高まる」という統計が示されていますから、病院の人手不足問題はこれから先、必ず解決に向けて歩まねばならない社会課題だと言えます。この気難しい社会課題に対して、限られた作業の効率化と正確性を絶え間なく行えるAIというテクノロジーは大変有効であり、活路となり得ます。

病院においてAIが活躍する領域は、第一にルーティンワークを伴う場所です。一定のルールのもとに特定の反応が要求される医療事務の領域は、特にAIが得意とする動作性を有しています。単純作業とルーティンワークが減少すれば、余剰分の人員や予算を他の場所に回せますので、安定した病院経営と医療サービスの品質維持に貢献をします。

そうした段階を踏まえて、更に病院で活躍するAIが開拓しなければならない領域があります。それが「アート思考」に関する領域です。このアート思考というのは、美学・感性・直観を示す思考状態となります。これはビジネスパーソンのロジカルシンキングの分類に準拠する項目です。

ロジカルシンキング

一般的に、ビジネスの世界では「経験と勘に基づくアナログ思考」からステップアップする形で、「事実と論理に基づくデジタル思考」、「仮説と実践を行えるデザイン思考」と駆け上がり、最終的に「スタイルや美意識を創造できるアート思考」に至ります。

AIがそうした創造的な世界に足を踏み込むのは早いのではないかという考えもあるでしょうが、それは開発の方向性次第です。もちろん、人間のアート思考そのものを再現するような汎用性の高いAIを魔法のように作り出す事は出来ませんが、領域を限定すれば、そうしたアート思考を表現できるAIを生み出す事は十分に可能であると弊社は考えます。

病院の現場では、医師や看護師の「声」や「仕草」が、患者にとって非常に重要な意味を持ちます。柔らかな声や仕草によって自然な会話が行われれば、診断や治療も促進される事になるのです。そこで、弊社が焦点を当てているひとつの領域が「音声合成」です。弊社は対話AIDeepAICopy」に代表されるように、自然な声を自動生成する音声合成の分野に力を入れています。現在は実在する人間の声や容姿、そして仕草を取り込むという深層学習を行っていますが、ゆくゆくは音声を脳波と連携させるアプローチも視野に入れています。音声合成の品質をより高める事で、より自然なコミュニケーションのスタイル確立を目指すのです。

そのようにAIがアート思考の領域の一端を担い、いわば「バーチャルヒューマン」として現場で活躍する事が出来れば、病院は人手不足や医療サービス品質維持の問題を解決するだけではなく、そこに新しい価値を生み出す事が出来るかもしれません。このような医療支援に役立つAIを開発し、実用化に結びつける事は開発側としても大きなメリットがあります。病院は社会インフラとして機能している非常に重要な機関ですので、例外処理やマーケットが限定された業界とは違い、学習コストが掛かっても、ゆくゆくは十分なリターンを受けられる可能性が高いのです。結果として社会改善やSDGs環境の構築にも貢献できれば、エンジニアとしてこれほど嬉しい事はありません。

AIが音声合成の領域で病院に貢献する日に向けて、弊社は続いて開発を続けます。先細りする未来を怖がるのではなく、どうすれば未来を変えられるのかに焦点を当てて、力強く高みを目指します。