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AIブログ
人工知能学会金融情報学会第18回での発表について
人工知能(AI)を用いた自動売買システム「AI Trader」は、機械学習・深層学習の急速な発展とともに、金融トレードの世界に大きな変革をもたらしつつあります。本記事では、弊社(クリスタルメソッド株式会社)が人工知能学会・金融情報学会第18回にて発表した「AIトレーダー」の開発経緯と技術的アプローチを詳しく解説します。トレードの実経験から生まれた着想、チャート画像の機械学習、そしてシステム構成の詳細まで、開発者本人の視点からお伝えします。
1. トレードの実体験と手法の背景
2009年、私はトレーダーになるべくFXトレーディングスクールに通い始めました。そこで習得したトレード手法は、チャートを緻密に分析し、勝率の高いエントリーポイントを精密に見極め、値動きを逐一注視するというものでした。
手法を覚えてから2〜3か月が経過したころ、私の勝率は95%に到達し、20連勝を記録しました。このトレードはチャートの「形」に強くこだわったものでした。少し相場に詳しい方であれば、トレンドライン・三尊・ダブルトップ・フラッグといったチャートパターンの名称を目にされたことがあるでしょう。
こうしたチャートパターンは古くから多くのトレーダーに活用されてきましたが、その解釈は依然として人間の主観的な判断に依存しています。「同じチャートを見ても、人によって判断が分かれる」という問題は、経験豊富なトレーダーにとっても常に頭を悩ませる課題です。私自身、高い勝率を維持しながらも、「この判断基準を客観化・定量化できないか」という問いを持ち続けていました。
代表的なチャートパターン(概念図)
価格の方向性を示す直線。上昇・下降トレンドを把握する基本手法。
天井圏の反転パターン。3つの山の中央が最も高い形状。
高値を2回試した後に下落する反転パターン。
急騰・急落後の一時的な持ち合いから、同方向に継続するパターン。
2. 動機――チャート画像を機械学習したらどうなるのか?
転機となったのは2012年、Googleが大量の教師なしデータからネコの顔を認識することに成功した「Google猫」の研究が大きな話題になったことです。この研究を知ったとき、私の頭に一つの問いが浮かびました。
「チャート画像をニューラルネットワークに学習させたら、勝ちパターンを自動的に見つけ出せるのではないか?」
チャート画像をニューラルネットワークに入力することで、中間層に「勝ちパターンの特徴量」が自然に浮かび上がってくるはずだと考えました。ディープラーニングの最大の特徴は、人間が意識的に気付かないような抽象的なパターンを自動で抽出できる点にあります。
従来のテクニカル分析では、トレンドラインや移動平均といった「人間が定義した指標」に基づいてシグナルを生成します。しかしディープラーニングなら、そうした人間の先入観にとらわれない、全く新しい取引パターンを発見できる可能性があります。こうして生まれた仮説が、「勝ちパターンを学習したニューラルネットワークは、知性を持ったトレーダーの入り口になり得る」という着想でした。この着想こそが、本プロジェクトの出発点です。

3. システム構成と技術スタック
着想を実証するため、複数マシンを連携させたシステムを構築しました。システムは大きく3つのコンポーネントで構成されています。
MQL4 / C++
MetaTrader上で30万枚以上のチャートスクリーンショットを自動取得・保存
Chainer / Python
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)でチャート画像から特徴を抽出・学習
Python / PostgreSQL / Excel
予測結果を記録・集計し、収益性や精度を統計的に検証
使用したチャートデータの詳細
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 通貨ペア | USD/JPY(ドル円) |
| 対象期間 | 2005年〜2016年(約11年間) |
| 総画像枚数 | 約30万枚 |
| 年間あたりの枚数 | 約24,000枚 |
| 画像サイズ | 654 × 418 ピクセル |
| 時間足 | 15分足(次のスクリーンショットまで15分) |
ラベリングの設計
機械学習において、教師データのラベル設計は精度を大きく左右します。本プロジェクトでは、取得したチャートスクリーンショットの15分後の価格変動に基づいて、以下の3クラスでラベリングを行いました。
| ラベル | 条件 | 意味 | データ比率 |
|---|---|---|---|
| 1(BUY) | 15分後に5PIPS以上上昇 | 買いシグナル | 約15% |
| -1(SELL) | 15分後に5PIPS以上下落 | 売りシグナル | 約15% |
| 0(HOLD) | 15分後に変動が5PIPS未満 | 何もしない | 約70% |
ファイル名には取得時刻情報が埋め込まれており、例えば -12008#01#22#21#00.png(チャート左端時間)と 12008#01#22#21#30.png のように、15分間隔のペアで管理されています。データ全体の約70%が「何もしない(0)」に分類されることは、実際の相場における明確なトレンドの発生頻度を如実に反映しており、クラス不均衡への対応も設計上の重要な課題となりました。
4. CNNによるチャート画像学習のアプローチ
本プロジェクトで採用したCNN(畳み込みニューラルネットワーク)は、画像認識タスクで高い性能を発揮するディープラーニングの代表的なアーキテクチャです。画像内の局所的なパターン(エッジ・形状・テクスチャなど)を階層的に学習する仕組みは、チャートの形状認識と本質的に相性が良いといえます。
通常のテクニカル分析では、人間がチャートを「目で見て」判断します。CNNはこのプロセスを自動化し、さらに人間には視認できないほど微細なパターンや、複数のパターンの組み合わせまで特徴量として抽出できる可能性を持っています。これは既存のテクニカル指標(RSI・MACDなど)とは根本的に異なるアプローチです。
フレームワークには当時先進的だったChainer(チェイナー)を採用しました。Chainerは「Define by Run」という動的計算グラフの概念を世界に先駆けて提唱したPythonベースのフレームワークで、研究・試行錯誤のサイクルを高速化するのに適していました。

5. 本研究の意義と今後の展望
本発表は、FXチャートという「画像データ」に対してCNNを適用するという、当時としては先進的な試みでした。従来の量的ファイナンスでは価格の数値データを統計処理するアプローチが主流でしたが、本プロジェクトはチャートをそのまま画像として扱うという発想の転換を実践しています。
2026年現在、この方向性はさらに発展を遂げており、Transformer系アーキテクチャや強化学習を組み合わせたAIトレーダーの研究が世界中で活発に進められています。その出発点となる「チャートを画像として学習させる」というアプローチの有効性を、弊社は早期から実証的に検証してきました。
今後は以下のような発展が期待されます。
- マルチタイムフレームの画像を同時入力することで、より広い文脈を学習させる
- 価格チャートに加え、出来高・スプレッド・ニュースセンチメントなどのマルチモーダルデータとの統合
- 強化学習(Reinforcement Learning)との組み合わせによる動的なポジション管理
- リアルタイム推論における低レイテンシ化と実取引への応用
弊社クリスタルメソッドでは、こうしたAIトレーダーの研究・開発を引き続き推進しています。ご関心をお持ちの方は、ぜひSNSやお問い合わせからご連絡ください。
まとめ
本記事では、弊社が人工知能学会・金融情報学会第18回にて発表した「AI Trader」プロジェクトの全体像を解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。
- トレーダーとしての実体験から「チャートパターンの客観化」という課題を発見した
- 2012年のGoogle猫の研究に触発され、チャート画像をCNNで学習する着想を得た
- USD/JPY・2005〜2016年の約30万枚のチャート画像を収集し、3クラスでラベリング
- MQL4・Chainer・PostgreSQLを組み合わせた多機能システムを複数マシン間で連携構築
- 人間が定義しない「未知の勝ちパターン」の自動抽出を目指すアプローチは、現在も有効な研究方向性である
AIと金融トレードの融合はこれからも進化し続けます。弊社の取り組みがその可能性を探るひとつの事例として、皆さまのご参考になれば幸いです。
監修
河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)
AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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