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【DXを推進する為に】DXを活用できる人材を育成する方法

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単にデジタルツールを導入するだけでなく、それを使いこなして新たな価値を生み出せる「人材」がいて初めて機能します。経済産業省が2025年の崖問題を警告して以降、DX人材の育成は多くの企業にとって喫緊の経営課題となっています。本記事では、DX人材の定義から日本が抱える課題、育成のポイント、具体的な研修事例まで、体系的に解説します。

DX人材とは?

DX人材とは、デジタル技術を理解したうえで業務改革や新たな価値創出を推進できる人材のことです。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドラインVer.1.0)」では、DX人材を次のように定義しています。

  • DXの推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人
  • 各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードする人・その実行を担っていく人

重要なのは、DX人材が単なる「ITエンジニア」ではないという点です。ITの専門知識だけでなく、自社のビジネス課題を把握し、デジタル技術を活用して解決策を設計・推進できる人が求められます。言い換えれば、技術と経営をつなぐ「橋渡し役」がDX人材の本質です。

また、2026年時点ではDX人材の役割がさらに細分化されており、次のような職種・役割が社内に求められるようになっています。

役割 主な責務
DXリーダー/CDO 経営戦略とDX戦略を統合し、全社的な変革を牽引する
データサイエンティスト 収集データの分析・モデル構築・意思決定支援
デジタルアーキテクト ITシステム全体の設計・最適化・セキュリティ担保
UX/プロダクトデザイナー 顧客体験の設計・デジタルサービスの使いやすさの向上
現場DX推進担当 各部門でのデジタルツール活用・業務プロセス改善

このように、ひとくちにDX人材といっても求められるスキルセットは多様です。自社のDX戦略に応じて、どの役割が必要かをまず整理することが育成の出発点になります。

DXを推進するために日本が抱えている課題

日本では経済産業省をはじめ官民一体でDX推進の取り組みが進められていますが、海外と比較すると遅れが目立ちます。中国では顔認証決済や無人コンビニが普及し、米国では大手企業がデータドリブン経営を標準化しているのに対し、日本の多くの企業ではいまだに紙・ハンコ・FAXが業務の中核を担っています。

DXを活用できる人材が不足している

DXが進まない最大の原因のひとつが、DXを活用できる人材の絶対的な不足です。経済産業省の試算では、2030年には最大79万人ものIT人材が不足するとされています。

問題は人数だけではありません。既存のIT人材が必ずしもDX推進に求められる能力を持っているとは限らず、システム保守・運用に特化した人材が多い一方、ビジネス課題の解決やデータ活用による新規価値創出を担える人材は極めて少ないのが現状です。

また、経営層のDXへの理解・関与が薄いケースも多く、組織の幹部によるリーダーシップの欠如やDXを取り入れた先のビジョンの不明瞭さが現場の推進を阻んでいます。DXはあくまで新たな価値やサービスを創造するための土台であり、それを活用できる人間がいなければ、せっかくのデジタルツールも宝の持ち腐れになってしまいます。

既存システムの老朽化(レガシーシステム問題)

日本企業のもうひとつの深刻な課題が、長年使い続けてきた老朽化したシステム(レガシーシステム)の存在です。複雑にカスタマイズされた基幹システムは、新しいデジタル技術との連携が難しく、DX推進を阻む「技術的負債」となっています。これを刷新・移行できるアーキテクチャ設計の人材も、DX人材育成の文脈では重要な要素です。

課題を解決することで得られるメリット

DX人材不足をはじめとする課題を解決し、本格的なDXに取り組むことができれば、企業・社会の両面で大きなメリットが生まれます。

日本は少子高齢化による人手不足が加速しており、製造業や物流・小売業では特に深刻な状況です。DXによる業務の自動化・効率化が実現すれば、少ない人手で高いアウトプットを維持できます。また、熟練技術者の暗黙知をデータ化・AI化することで、技術継承問題への対応も可能になります。さらに5G・クラウドを活用したリモート教育・遠隔監視により、地理的制約を超えた人材活用も現実となります。

データを可視化するデジタルダッシュボードのイメージ
データを可視化するデジタルダッシュボードのイメージ

DX人材を育成するポイント

DX人材を確保するアプローチは大きく「外部採用」と「内部育成」の2つに分かれます。市場でのDX人材の争奪競争は激化しており、大企業でも採用に苦戦するケースが増えています。そのため、最終的には社内の既存人材をDX人材へと育てるアプローチが現実的かつ持続的な解決策となります。

必要なスキルセットを具体的に定義する

育成を始める前に、自社のDX戦略に必要なスキルセットを具体的に言語化することが重要です。「なんとなくITが使える人」ではなく、どの業務でどんな技術を使いこなせる人が必要なのかを明確にしましょう。

代表的なDX人材のスキルとしては、以下が挙げられます。

  • マネジメントスキル:DXプロジェクトはPDCAを繰り返しながら試行錯誤するケースが多く、チームメンバーへのタスク割り振り・進捗管理・課題解決のリードが求められます。
  • データ分析スキル:DXで収集したデータを読み解き、意思決定や改善施策に結びつける能力。BIツールやSQLの基礎、さらには機械学習の概念理解も有効です。
  • デジタルリテラシー:クラウド・AI・IoT・APIなどの基礎概念を理解し、ベンダーや技術者と対等に議論できる素養。
  • プロジェクトマネジメント:スクラム・アジャイルなどのDXに適した開発・推進手法の理解と実践力。
  • コミュニケーション・合意形成力:経営層・現場・IT部門など多様なステークホルダーを巻き込んで変革を進める力。

必ずしも高度なプログラミング能力が全員に必要なわけではありません。役割や担当業務に応じて、求めるスキルレベルを段階的に設定することが育成効率を高めます。

DXを活用した先のビジョンを想像できる思考力を育てる

スキルと並んで重要なのが「思考力・マインドセット」です。IPA(情報処理推進機構)の調査によると、DX人材に必要な力として、不確実な未来への創造力・柔軟な対応力・失敗を恐れない姿勢が挙げられています。

日本人は安定志向が強く、曖昧なものや新しい挑戦に対して慎重な傾向があります。しかし、DXの本質は既存業務の延長ではなく、ゼロベースで業務・サービスを再定義することにあります。「現状維持が最大のリスク」という意識の転換を促し、小さな失敗を学びとして積み上げる文化を醸成することが、DX人材育成の土台になります。

具体的には、以下のようなアプローチがマインドセット醸成に効果的です。

  • デザイン思考・アジャイル思考のワークショップを定期開催する
  • 小規模なPoC(概念実証)プロジェクトを経験させ、失敗から学ぶ機会をつくる
  • 他業界・海外のDX事例を定期的にインプットする機会を設ける
  • 経営層が率先してDXへの前向きな姿勢を示し、心理的安全性のある組織風土を構築する

育成対象者を適切に選定・分類する

全従業員を同じプログラムで育成しようとすると、リソースが分散して効果が薄れます。育成対象を「DXを推進するコア人材」「DXを活用できる一般人材」「デジタルリテラシーを高める全従業員」の3層に分けて、それぞれに合ったプログラムを設計することが効率的です。

コア人材層

DX戦略立案・プロジェクト推進・技術選定。社内のDXを牽引するリーダー候補。

活用人材層

各部門でデジタルツールを使いこなし、業務改善を実行できる担当者。

全従業員層

DXの概念・目的・基本ツールを理解し、変革に協力できる素地をつくる。

DX人材を育成する具体的な方法・事例

DX人材に必要なスキルとマインドセットを整理したところで、実際に企業・自治体で行われている育成方法の具体例を紹介します。

OJT(On the Job Training)

OJTとは、実際の業務の中で知識・スキルを習得させる教育方法です。デジタル技術は座学で覚えるだけでは実践に活かしにくく、実務を通じた経験の積み上げが習熟への近道です。DX推進プロジェクトに未経験者をアサインし、先輩社員や外部専門家とともに実際の課題を解決しながらスキルを身につけさせる方法が代表的です。

OJTのメリットとしては、即座のフィードバックが得られること・実務直結のスキルが身につくこと・教える側のスキルアップにもつながることが挙げられます。一方で、計画性のないOJTは「放置」になりやすく、育成効果が個人や現場の裁量に依存してしまうリスクがあります。OJTを機能させるためには、事前に育成目標と評価基準を明確にし、定期的なフィードバック面談を設けることが不可欠です。

集合研修・eラーニングの組み合わせ

社内外の講師による集合研修と、自分のペースで学べるeラーニングを組み合わせる「ブレンド型学習」は、DX人材育成で広く採用されています。集合研修ではディスカッションやワークショップを通じて思考力を鍛え、eラーニングでは知識のインプットを効率的に行うという役割分担が有効です。

近年はUdemyやCourseraなどのグローバルなオンライン学習プラットフォームを法人契約し、従業員が自由にDX関連のコースを受講できる環境を整える企業も増えています。受講履歴をデータとして蓄積・可視化することで、育成の進捗管理にも活用できます。

栃木県のDX推進に向けた職員研修事例

自治体レベルでのDX人材育成の好例として、栃木県の取り組みが参考になります。栃木県では、DX支援に実績のある民間企業と連携し、役職に応じた段階的な研修プログラムを実施しています。

この取り組みの特徴は、知事や部局長といった幹部職員も研修に参加する点です。組織全体でDXへの共通認識を持つことで、現場の担当者が動きやすい土台をつくることを重視しています。また、研修動画をアーカイブとして保存・公開することで、業務都合で研修に参加できなかった職員も自発的に学べる環境を整えています。さらに、学んだマインドセットを実践に落とし込むためのワークショップや、課題解決型OJTも並行して実施しており、「知識インプット→思考力向上→実践経験」の一貫したサイクルを実現しています。

デジタル人材育成プラットフォーム・資格制度の活用

経済産業省が推進する「デジタルスキル標準(DSS)」や「DX推進スキル標準」は、DX人材に必要なスキルを体系化したフレームワークです。これを社内の育成ロードマップに取り込み、IPA主催のDX推進パスポートや情報処理技術者試験(データサイエンティスト試験・ITストラテジスト試験など)を活用することで、スキル習得の目標と達成基準を明確にできます。外部の資格・認定制度を活用すると、従業員のモチベーション管理にも役立ちます。

社内DX推進チームの立ち上げと内製化

DX人材育成と並行して、社内にDX推進専門のチームを設立し、外部ベンダーに依存せず自社でデジタル施策を回せる「内製化」を目指す動きが加速しています。内製チームを立ち上げることで、育成中の人材が実際のプロジェクトを通じて急速にスキルを高めることができるほか、ノウハウが社内に蓄積されるため長期的な競争優位につながります。

デジタル変革を推進する社内チームのシルエットイメージ
デジタル変革を推進する社内チームのシルエットイメージ

DX人材育成を成功させるための組織的な条件

個別の育成施策がどれほど優れていても、組織的な条件が整っていなければ定着しません。DX人材育成を成功に導くために、組織として整備すべき要素を確認しましょう。

  • 経営トップのコミットメント:DX推進は「現場の仕事」ではなく経営戦略そのものです。CEOやCDOがDXへの明確なビジョンを示し、人材育成への投資を最優先課題として位置づけることが不可欠です。
  • 人事評価制度との連動:DXスキルの習得・活用実績が評価・報酬に反映される仕組みがないと、従業員の学習意欲は持続しません。DX関連の行動指標をKPIに組み込むことが重要です。
  • 心理的安全性のある文化:DXの推進には試行錯誤が伴います。失敗を責めるのではなく、学びとして組織に蓄積できる文化を醸成することが、継続的なDX人材育成の基盤となります。
  • 育成予算の確保:研修・ツール導入・外部専門家の活用には継続的な投資が必要です。育成コストを「コスト」ではなく「投資」として捉え、中長期視点で予算を確保することが求められます。
  • 外部連携の積極活用:大学・ベンチャー企業・コンソーシアムとの連携、社外副業・出向などを通じて、社外のDX知見を社内に取り込む仕組みも有効です。

まとめ

DX人材とは、デジタル技術とビジネスをつなぎ、組織の変革を推進できる人材のことです。日本企業では深刻なDX人材不足が続いており、外部採用だけで解決することは現実的ではありません。マネジメントスキル・データ分析力・デジタルリテラシーといった具体的なスキルと、不確実性を恐れず挑戦するマインドセットを育てることが育成の核心です。OJTや集合研修・eラーニング・ワークショップを組み合わせたブレンド型の育成プログラムを整備し、経営トップのコミットメントと人事評価制度との連動によって組織全体でDX人材育成を推進することが、中長期的な競争力の維持につながります。「DXを取り入れること」自体が目的になってしまわないよう、DXを活用して何を実現するかというビジョンを明確にしながら、人材育成を進めていくことが最も重要です。

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監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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