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DeepSeek搭載ARTEXで韓国金融7社に被害、CrowdStrike分析と日本の対策

DeepSeek サイバー攻撃と金融機関対策——韓国7行被害から日本が学ぶべき教訓

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韓国の金融7社に続いた侵害、CrowdStrikeはDeepSeek搭載の「ARTEX」を特定

2026年9月末から10月初めにかけて、韓国の金融機関で外部からの侵害が相次いだ。韓国メディアの報道では、被害が確認されたのは新韓銀行・KB国民銀行・ハナ銀行・BNK釜山銀行・イェガラム貯蓄銀行・ウェルカム貯蓄銀行・現代キャピタルの7社。新韓銀行では融資仲介業者向けの照会サービスから約2万5千人分、KB国民銀行では社員向けのモバイル業務支援システムから119人分、ハナ銀行では営業支援システムから89人分の個人情報が流出したとされる(CBSノーカットニュース 2026年10月6日、SBS Biz 2026年10月2日)。新韓銀行の流出は2万5,729人分と調べられている。金融当局によると、7社の侵害では同じ攻撃者のIPアドレスが複数の場所で見つかった。

この攻撃について、CrowdStrikeは2026年10月7日に分析を公開した。攻撃者が管理するサーバーの公開ディレクトリから、Claude Codeのセッション履歴、ARTEXの設定ファイル、Claudeのメモリファイルが見つかった。ARTEXは中国で開発され最近公開された、AIエージェント型のオープンソース侵入テスト(ペネトレーションテスト)ツールだ。CrowdStrikeによると、ARTEXはDeepSeek v4.1-flashを主なLLMとして動いており、DeepSeekへは API の代理・再販業者とみられる xcai[.]pro を経由していた可能性が高い。さらに攻撃者は別のClaude Codeセッションで、Zhipu AIのGLM-5.3とGrok 4.6も使っていた(CrowdStrike公式ブログ)。

サーバー上のCLAUDE.mdには、LLMに侵入テストの進め方を指示する中国語のプロンプトが書かれていた。攻撃者の主要拠点は香港のIPアドレスで、ARTEXは別のサーバー(38.244.50[.]120)で動いていた。CrowdStrikeは特定の攻撃グループには結びつけておらず、「中国語話者で金銭目的の可能性が高い」と中程度の確信度で評価している。記録からは、攻撃者がClaudeに「韓国の流出データはどこで売られているか」を尋ね、韓国のTelegramのデータ売買グループを探す手助けを求めていたこともわかった。

韓国側の確認状況は報道によって差がある。ヘラルド経済は、金融保安院の関係者の話として、最初に届け出があった新韓銀行のログと攻撃者のIPを逆にたどった結果、ARTEXを使った痕跡が見つかったと報じた。一方で、金融当局や銀行による公式な発表としてはARTEXの使用はまだ確認されていない(BleepingComputer、2026年10月5日)。被害を受けた機関の総数もCrowdStrikeは「未確定」としている。現時点で言えるのは、「攻撃者の環境にARTEXとLLMがあり、それが韓国の金融機関を狙った活動に使われたとCrowdStrikeが分析した」ところまでだ。

攻撃者(人間)中国語プロンプトClaude Code活用操作ARTEX AIDeepSeek v4.1-flashオープンソースで公開経由香港サーバー攻撃者の主要拠点攻撃指令・中継標的内部・提携先システム融資仲介・社員向け韓国の金融7社で被害総数は未確定オープンソースAIツール × 低コストLLM × 人間主導の組み合わせが攻撃を高度化顧客向けではなく「境界部分(内部・委託先接続)」を精密に標的
図1:CrowdStrikeの分析をもとにした攻撃の流れ。攻撃者はDeepSeek v4.1-flashを使うオープンソースの侵入テストツールARTEXを操作し、香港の拠点などを経由して、韓国の金融機関の内部・提携先向けシステムを狙った。顧客向けのネットバンキングではなく「周辺のシステム」が狙われた点が、防御を考えるうえで重要になる。

何が変わったのか:既製ツールとLLMで「1人でも短期間に複数侵入」

CrowdStrikeは今回の件について、AIツールによって金銭目的の攻撃者が短期間に複数の侵入を行えた、と評価している(DigitalToday 2026年10月8日)。ポイントは、攻撃者が独自のマルウェアや高度な技術を持ち込んだのではなく、公開されているオープンソースの侵入テストツールと、市販のLLM(DeepSeek・GLM・Grok)、そしてClaude Codeを組み合わせて使っていたことだ。

ARTEXのような「AIエージェント型の侵入テストツール」は、本来はセキュリティ担当者が自社の弱点を調べるためのものだ。情報収集、脆弱性の発見、攻撃経路の組み立て、ツールの実行、検証までを自動でこなす。今回の件は、こうしたツールが入手しやすくなったことで、攻撃側の作業量と必要な技術の水準が下がっていることを示している。CrowdStrikeも、攻撃者は今後もAIツールを取り入れて作業の速度と能力を高めようとするだろう、と見ている。

狙われた場所にも特徴がある。融資仲介業者向けの照会サービス、社員向けのモバイル業務支援システム、営業支援システムと、いずれも顧客向けのネットバンキングではない。韓国の金融委員会は緊急会議を開き、金融機関に「顧客向けでないものも含め、外部からアクセスできるすべてのITシステムとサービスを点検する」よう指示した(BleepingComputer)。

日本でも、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織編)で「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれ3位に入り、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」は2位だった(IPA、2026年1月29日公表)。今回の韓国の件は、この二つが重なった実例と言える。DeepSeekそのものの業務利用リスクはDeepSeekの危険性と企業が取るべき対策で整理している。

日本の金融機関が確認しておきたい3つのこと

今回の件から日本の金融機関が引き出せる教訓は、少なくとも次の三つだ。

1. 顧客向け以外の外部公開システム(委託先・提携先向けを含む)の棚卸し

今回の被害は、融資仲介業者向けサービスや社員向けモバイルシステムなど、顧客向けではないシステムから生じた。日本の金融機関もフィンテック企業・決済代行業者・業務委託先との接続を増やしており、「外部からアクセスできるが、顧客向けほど守られていない」システムがどれだけあるかを洗い出す必要がある。韓国当局の指示と同じく、まず外部からアクセスできるシステムを一覧にし、認証とアクセス制御を確認するところから始めたい。委託先管理は金融庁の監督指針でも求められている項目だ。

2. 正規の診断ツールと見分けにくい通信を前提にした監視

ARTEXのようなツールは、正規の脆弱性診断と同じような動きをする。決まったパターンで検知する方式だけでは見逃しやすいため、普段と違うアクセス(深夜の大量照会、普段使われない経路からのログイン、短時間に続く認証の失敗など)に気づける仕組みが要る。振る舞い検知(UEBA)は有効だが、誤検知の調整に運用の手間がかかるので、段階的に入れるのが現実的だ。

3. 「LLMを使う攻撃者」を想定した演習

攻撃者がClaude CodeやDeepSeekを使って偵察やコード作成を自動化していた以上、防御側も同じ前提で演習を組む意味がある。AIを使った侵入テストは攻撃者だけのものではなく、防御側が自社の穴を先に見つける手段にもなる。なお、Claude Codeを社内で使う側の安全設定はClaude Codeのセキュリティ対策にまとめている。

金融機関が優先順位をつけて進めたい対策

経営・事業責任者の立場から、稟議や判断の優先順位として次を検討したい。

AI悪用攻撃への対策:優先度・コスト・効果・限界の比較
対策項目 優先度 主なコスト要因 期待される効果 限界・注意点
委託先・API連携先のセキュリティ監査 高 外部監査費用・人件費 境界部分の脆弱性を早期に特定できる 委託先の協力が得られない場合は実施困難
UEBA・振る舞い検知の導入・強化 高 ツール導入・チューニング費用 シグネチャ非依存の異常検知が見込める 誤検知の調整に継続的な運用工数がかかる
ゼロトラストアーキテクチャへの移行 中〜高 インフラ刷新・長期投資 内部侵害後の横展開を抑制しやすくなる 既存システムとの統合に時間を要する
LLM想定シナリオのレッドチーム演習 中 演習設計・外部ベンダー費用 攻撃者視点のギャップを把握しやすくなる 定期的な実施が前提。単発では効果が薄い
インシデント対応計画(IRP)の見直し 中 主に人件費・訓練費用 被害発覚後の初動を迅速化できる 計画の形骸化を避けるために定期訓練が必要

どの対策も「これで防げる」というものではない。ARTEXのようなオープンソースのツールは改良が続き、似たツールも今後出てくると考えられる。単発の投資で終わらせず、脅威情報を継続的に集め、防御を見直し続ける体制が問われる。

国内の公式情報は、国家サイバー統括室(cyber.go.jp)の新着情報や、金融ISAC・金融庁の注意喚起を定期的に確認する運用を決めておくとよい。金融機関向けのAIセキュリティ施策の動向は米政府のAIサイバーセキュリティ施策と金融機関の対策でも扱っている。


参考文献

監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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