blog
AIブログ
公開AIモデルでChromeの攻撃チェーンを6日で構築——XBOWに報奨金25万ドル、企業が見直すべき点
文:クリスタルメソッド編集部 監修:河合 継(代表取締役)

公開モデルのAIエージェントでChromeの攻撃チェーンを6日で構築
AIを使ったセキュリティ診断を手がける米XBOWは2026年10月13日、OpenAIの公開モデル「GPT-5.6 Sol」で動くAIエージェントを使い、Google Chromeの未知の不具合3件をつないだ攻撃チェーンを6日間で作ったと発表した(出典:XBOW)。Webページを開くだけで、Chromeの外側(Windows上)でコードが動く「フルチェーン」と呼ばれる攻撃で、クリックやダウンロードは要らない。
Googleは3件すべてを確認して修正し、XBOWにChromeの脆弱性報奨金プログラムの最高額である25万ドルを支払った。XBOWによると、2026年4月に導入された新ルールのもとでのフルチェーンへの初めての報奨で、AIを使うセキュリティ企業への支払いも初めてだという。不具合が実際の攻撃に使われた形跡はないとしている(出典:The Hacker News)。
関連記事VOICEVOX 使い方|インストールから音声生成まで【2026】 / Grokとは?できること・料金・始め方をやさしく解説【2026年版】 / ディープフェイクとは?仕組み・悪用リスク・見分け方と対策を専門家監修で解説【2026年版】
6日間で何をしたか:AIと研究者の役割分担
技術解説を書いたXBOWのブレンダン・ドラン=ガビット氏によると、受賞したチェーンは2026年8月2日(日)から7日(金)にかけて、ラスベガスのBlack HatとDEF CONの会期中に作られた(出典:XBOW Labs)。ただし6日間の前には準備期間がある。XBOWは1月の社内会議でこの課題を決め、最初のフルチェーンの完成には2か月かかっていた。
XBOWはAIと人間の役割を次のように分けて説明している。
- AIエージェント:Chromeのソースコードの調査、仮説の検証、概念実証(PoC)の作成、攻撃コードの初稿
- 研究者:狙う箇所の選定、文脈の提供、AIの結果への疑義、どの部品をつなぐかの判断
利用記録から計算したAIの利用料は、6日間で約4万ドルだった。ドラン=ガビット氏は「LLM以前は、Chromeのフルチェーンは4人のチームで6〜9か月かかった。最初の提出は2か月、受賞したものは6日だった」と書いている。
途中では、使っていた不具合の1つがGoogleに既に報告済みと分かり、チェーンが成立しなくなりかけた。各段階を差し替えられる部品として作り、予備も用意していたため、その段階だけを入れ替えて完成させたという。
3つの不具合と修正済みのバージョン
チェーンは、Chromeの別々の部分にある3つの不具合で構成されていた。Chromeはページのコードを2重のサンドボックス(隔離環境)で動かしているが、それを順に破っている。
| 段階 | 不具合の場所 | 役割 | 修正 |
|---|---|---|---|
| 1 | V8(JavaScriptエンジン)のコンパイラ | ページ上のコードからメモリを読み書きする | CVE-2026-85045。Chrome 152.0.7977.82(9月3日) |
| 2 | アニメーションWebP画像の処理 | V8のサンドボックスを抜ける | Chrome 152の更新で修正(公開の識別番号は確認できない) |
| 3 | Crashpad(クラッシュ報告の仕組み) | レンダラーのサンドボックスの外でコードを動かす | CVE-2026-78952。Chrome 152.0.7977.65(8月25日) |
Crashpadの不具合は、Googleの8月の安定版リリースノートで、XBOWのドラン=ガビット氏が報告した「重大度:高」の不具合として記載されている。
XBOWは、修正前はWindowsでChromeを使う推計10億人がこの種の攻撃を受けうる状態だったとしている。Chromeは自動で更新されるが、修正はブラウザを再起動して初めて反映される。バージョンが152.0.7977.82以降になっているか確認し、なっていなければ再起動するのが対処になる。
企業にとっての意味:攻撃にかかる時間と費用が下がった
今回の件は正規の報奨金制度の中で報告・修正まで進んだ事例だが、XBOWが強調しているのは速さだ。創業者のオーゲ・デ・ムーア氏は「推計4万ドルの計算資源と6日間で、研究者1人が以前なら数か月かかったチェーンを作れた」と述べ、ドラン=ガビット氏も「Chromeのチェーンが手に入るなら、6日と4万ドルは大した時間でも金額でもない。それを前提に守るべきだ」と書いている。
使われたのは誰でも使える公開モデルで、同じことは悪意ある攻撃者にも可能になりつつある。企業が見直しておきたいのは次の点だ。
ブラウザの更新を「再起動まで」管理する
自動更新が有効でも、再起動していない端末は古いバージョンのまま動いている。管理ツールでバージョンを集計し、一定期間を過ぎたら再起動を促す設定にしておく。
修正前の期間を前提にした多層防御
今回の攻撃はページを開くだけで成立し、修正が出るまでは更新では防げない。端末の振る舞いを監視するEDRや、機密情報を扱う部門で外部サイトを隔離環境で開く仕組みなど、侵入されたあとに気づき、被害を広げない対策を組み合わせる。
防御側もAIを使う
XBOWの事例は、AIエージェントが脆弱性の発見を大幅に速めることを示している。自社のWebサービスやアプリの診断にAIを使ったツールを取り入れるかどうかも、検討の対象になる。AIを使った攻撃と防御の全体像はAIセキュリティ対策とは?企業が知るべきリスクと今すぐできる対策、2026年7月以降の主な事案はAIハッキングで情報漏洩が相次ぐ?日本・世界の主な被害一覧で解説している。
読むときの注意点
「6日間」は受賞したチェーンの作成期間で、その前に数か月の準備と最初のチェーン(2か月)がある。AIだけで自動的に作れたわけではなく、熟練した研究者が判断を担っていた点も、XBOW自身が明記している。約4万ドルという利用料もXBOWの自己集計だ。
参考文献
- XBOW「XBOW Built a Chrome Full-Chain Exploit Affecting a Billion Users in Six Days」:xbow.com
- XBOW Labs「Zero to Calc in Six Days: Inside XBOW’s Chrome Full Chain」(2026年10月13日):xbow.com
- Google Chrome Releases「Stable Channel Update for Desktop」(2026年8月):chromereleases.googleblog.com
- The Hacker News「Researchers Used a Public OpenAI Model to Build a $250,000 Chrome Full-Chain Exploit in Six Days」(2026年10月14日):thehackernews.com
監修
河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)
AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
運営会社について | 編集方針
Read next
あわせて読みたい
-
VOICEVOX 使い方|インストールから音声生成まで【2026】
VOICEVOXは無料?商用利用・クレジット表記の結論 VOICEVOXは、商用・非商用を問わず無料で使える音声合成ソフトです。ただし「VOICEVOXを利用し...
-
Grokとは?できること・料金・始め方をやさしく解説【2026年版】
「Grokって最近よく聞くけど、何ができるAIなの?」「ChatGPTと何が違うの?」——そんな方に向けて、このページではGrokのできること・料金・始め方を、...
-
ディープフェイクとは?仕組み・悪用リスク・見分け方と対策を専門家監修で解説【2026年版】
ディープフェイクは、深層学習で実在する人物の顔・声・動作を精密に合成・改変する技術です。映画制作や広告、バーチャルヒューマンといった正当な活用が広がる一方、なり...
