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カスハラとは?意味・定義・具体例とどこからがカスハラかをわかりやすく解説

カスハラとは(結論)

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客や取引先などからの言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境を害するものです。暴力や暴言だけでなく、理由のない要求、長時間の拘束、SNSでの名指しの中傷なども当たり得ます。一方で、正当なクレーム(苦情・申入れ)はカスハラではありません。2026年10月1日からは、法律で企業にカスハラ対策が義務付けられています(厚生労働省・政府広報オンライン)。

カスハラとは?意味・定義・具体例とどこからがカスハラかをわかりやすく解説

目次

カスハラとは――「カスタマーハラスメント」の意味

カスハラは「カスタマーハラスメント(Customer Harassment)」の略称です。

厚生労働省のカスハラ防止指針およびカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)は、次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。

  1. 顧客等による言動であること
  2. その言動が、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. その結果、労働者の就業環境が害されること

電話やSNS等のインターネット上で行われるものも定義に含まれます。顧客からのすべての苦情がカスハラに当たるわけではなく、客観的にみて社会通念上の範囲内で行われた申入れは正当なクレームであり、カスハラには該当しません。

2026年(令和8年)10月1日から、改正労働施策総合推進法により、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置が義務化されました。企業が講ずべき具体的な措置の内容と進め方は、カスハラ対策(2026年10月から企業に義務化された措置と進め方)で詳しく解説しています。

顧客からの言動がパワハラとどう違うのかは、カスハラとパワハラの違いと判断基準で解説しています。

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法律上の定義を構成する3つの要素と、キーワードの意味

定義を正確に理解するには、「職場」「労働者」「顧客等」それぞれの範囲を把握しておく必要があります。用語の解釈が広く設定されている点が、カスハラという概念の実務上の射程を決定します。

カスハラの定義を構成する3要素と対象範囲(厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)より)
用語 対象範囲
職場 通常の就業場所のほか、取引先事務所、打合せのための飲食店、顧客の自宅など、労働者が業務を遂行する場所全般
労働者 正社員のほか、パート・契約社員等の非正規労働者を含む全ての労働者。派遣労働者については派遣先事業主も措置を講ずる必要がある
顧客等 商品・サービスの購入者、問い合わせをする者、取引先担当者、施設(駅・病院・学校・福祉施設等)の利用者およびその家族(訪問看護・訪問介護先の自宅を含む)、施設近隣住民など。将来の購入・利用の可能性がある者も含む

「顧客等」にBtoBの取引先担当者が含まれる点は見落とされがちです。小売・飲食・医療・福祉・公共サービスといった対人業務だけでなく、企業間取引における過度な要求もカスハラの対象となり得ます。

「労働者の就業環境が害される」とは、身体的・精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します(同マニュアル)。つまり、不快感を覚えた程度では足らず、就業継続に具体的な支障が生じるかどうかが判断の軸になります。

カスハラ成立の3要素(①②③すべてを満たす場合のみ該当)①顧客等の言動(取引先・施設利用者等も含む)②社会通念上許容される範囲を超えた言動③就業環境が害される1つでも欠ければ定義上はカスハラに当たらない出典:厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)
カスハラは「①顧客等の言動」「②社会通念上の許容範囲を超えること」「③就業環境が害されること」の3要素がすべてそろって初めて成立します。①だけでなく、②③に当たる行為の有無と併せて判断されます。

カスハラに当たる言動の典型例

厚生労働省のカスハラ防止指針およびマニュアル、政府広報オンライン(gov-online.go.jp)は、「言動の内容」と「手段・態様」の2軸で典型例を整理しています。両軸のどちらか一方だけが許容範囲を超える場合でも、カスハラに該当し得ます。

カスハラに当たる言動の典型例(厚生労働省カスハラ防止指針・マニュアルより)
区分 言動の種類 具体例
内容が許容範囲を超える 理由のない要求・業務と無関係な要求 性的な要求、労働者のプライバシーに関わる要求
契約を著しく超えるサービスの要求 契約内容を大幅に超えた対応の強要
対応が著しく困難または不可能な要求 契約金額の著しい減額要求
不当な損害賠償要求 過失のない事案への高額賠償の要求
手段・態様が許容範囲を超える 身体的な攻撃 殴る、蹴る、叩く(傷害罪・暴行罪に当たり得る)
精神的な攻撃 脅迫、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要、人格否定の言動
威圧的な言動 大声で威圧する、睨む、物を叩く
継続的・執拗な言動 同様の質問を執拗に繰り返す、頻繁に来店してそのたびにクレームを行う
拘束的な言動 長時間の居座り・電話での拘束、退去要求を無視して居座る

判断に当たっては、言動の目的、言動を受けた労働者の問題行動の有無・内容・程度を含む経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮します(同指針)。要求内容が正当であっても大声で威圧し続けた場合は手段の面でカスハラに当たり得ますし、穏やかな口調でも不可能な要求を繰り返す場合は内容の面で該当する可能性があります。

どこからがカスハラか――正当なクレームとの線引き

正当なクレームとカスハラの境界は、「社会通念上許容される範囲か否か」という一点にかかっています。政府広報オンラインが示すとおり、顧客からのクレームは不満を訴えるものであってそれ自体は問題とはいえず、業務改善や商品開発につながる意見でもあります。過剰な要求や不当な言いがかりがカスハラに該当する可能性があります。

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例Q&A(hataraku.metro.tokyo.lg.jp)は、要求内容の妥当性のみでカスハラを判断せず、手段・態様との組み合わせで総合的に判断するよう示しています。つまり、「要求の中身に理由があるか」と「伝え方が常識の範囲内か」の2つを分けて見るのが基本です。

正当なクレームとカスハラの線引きを、要求に理由があるかと伝え方が常識の範囲内かの2軸で示した図
図:要求の中身と伝え方の2軸で見た線引き(厚生労働省マニュアルの判断の観点をもとに作成)
カスハラに当たるもの・当たらないものの対比(厚生労働省マニュアル・東京都条例Q&Aより)
カスハラに当たり得る言動 カスハラに当たらない言動
欠陥のない商品の交換を執拗に要求する 品質への不満を具体的に伝え、対応を求める
大声で罵声・暴言を繰り返す 落ち着いた口調で、事実に基づいて苦情を述べる
担当者の氏名をSNSで名指し中傷する 従業員個人を特定せず、事実に基づくサービスの感想を投稿する
「誠意を見せろ」「法律を変えろ」など抽象的・不可能な対応を強要する 責任者への取次ぎや書面での回答を合理的に求める
契約等で想定しているサービスを著しく超える対応を要求する 合理的配慮や社会的障壁の除去を必要としている旨を伝える

障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めること、または社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体はカスハラに当たりません(厚生労働省マニュアル)。消費者の正当なクレームは不当に侵害されてはならないという原則は、東京都条例第5条でも確認されています。

判断に迷うときの確認の順番

厚生労働省のマニュアルは、業種や業態によって判断基準に違いが出ることから、企業ごとに判断基準をあらかじめ決めて現場と共有しておくことが重要だとしたうえで、次の観点で判断する考え方を示しています。

  1. 言動の内容は妥当か:まず事実関係・因果関係を確認し、根拠のある要求かを見ます。たとえば購入した商品に瑕疵があれば、謝罪とともに交換・返金に応じるのは妥当です。商品と無関係な損害賠償の要求は、範囲を超え得ます。
  2. 手段・態様は相当か:要求に理由があっても、暴力的・威圧的・継続的・拘束的な言動であれば範囲を超えると考えられます。長時間の苦情で従業員を拘束することも、業務に支障が出るため範囲を超える場合が多いとされています。
  3. 就業環境が害されていないか:働く人が身体的・精神的に苦痛を受け、就業する上で見過ごせない程度の支障が出ているかを確認します。

①と②のどちらか一方だけが範囲を超える場合でも、カスハラに当たり得ます(厚生労働省マニュアル)。

マニュアルには、判断の細かな目安も書かれています。

  • 1回でも当たる場合がある:殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスハラに当たると判断され、犯罪にもなり得ます。強い苦痛を与える言動なら、1回だけでも就業環境を害する場合があります。
  • 断ってすぐ引き下がった場合:要求に理由がなくても、会社が断った時点で顧客が取り下げたような場合は、就業環境が害されたとはいえず、カスハラに当たらない可能性があります。
  • 判断がつかなくても守る:カスハラとして扱うかどうかにかかわらず、働く人の仕事に支障が出るおそれがあれば、会社は相談に応じる・複数人で対応するなどの措置が必要とされています。
  • 判断に使う記録:疑いがある段階で、録音・録画、対応記録、対応にかかった時間など、第三者があとから確かめられる記録を残しておくと、内容と手段・態様を落ち着いて見直せます。

現場では、この線引きがいちばんの悩みどころです。厚生労働省のスーパーマーケット業向けマニュアルの実態把握調査では、カスハラ対策を進めるうえでの課題として「迷惑行為と正当なクレームや要求とを区別する明確な判断基準を設けることが難しい」と答えた企業が77.2%で最も多くなっています(業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル スーパーマーケット業編、n=101)。次の章で、迷いやすい場面を例にして考え方を確かめます。

パワハラとの違いについては、カスハラとパワハラの違いで整理しています。

判断に迷う12の場面で考える――正当なクレームとカスハラの判断例

ここでは、よくありそうな場面を例にして、前の章の2軸(要求の中身・伝え方)と就業環境への影響で考えた目安を示します。場面は説明のために作成した例で、実際の出来事ではありません。判断の考え方は、厚生労働省のカスハラ防止指針とマニュアル、介護現場のマニュアルの記載に沿っています。実際の判断は、業種や会社が定めた基準、前後の経緯によって変わります。

判断に迷う場面と判断の目安(場面は説明用の例。考え方は厚生労働省の指針・マニュアルより)
場面(例) 目安 理由
1. 購入した食品に異物が入っていたため、レシートを持って来店し、落ち着いた口調で返金を求める 正当なクレーム 要求に理由があり、伝え方も常識の範囲内です。事実を確かめて誠実に対応します。
2. 同じく商品に欠陥があったが、店長に土下座を求め、30分以上大声で怒鳴り続ける カスハラに当たり得る 要求に理由があっても、土下座の要求や威圧的な言動は手段・態様が不相当です(類型②)。
3. 欠陥のない商品の交換を求めたが、交換できない理由を説明すると納得して帰った 当たらない可能性 要求に理由はありませんが、断った時点で取り下げており、就業環境が害されたとはいえない可能性があります。
4. 欠陥のない商品の交換を、断られた後も毎日電話して繰り返し求める カスハラに当たり得る 理由のない要求を、継続的・執拗な方法で迫っています。
5. 荷物の配達が半日遅れたことに対し、遅延の補償として高額な金銭を求める カスハラに当たり得る 遅れへの不満自体は正当でも、要求が妥当な範囲に比べて著しく過大です(類型③)。
6. 具体的な要求を示さず、「誠意を見せろ」と繰り返して対応を引き延ばす カスハラに当たり得る 抽象的な要求は、手段・態様が要求の妥当性に照らして不相当とされる例に挙がっています(類型③)。
7. 窓口で担当者の顔と名札をスマートフォンで撮影し、「ネットにさらす」と告げる カスハラに当たり得る 無断での撮影や、SNSへの投稿をほのめかして脅すことは、手段・態様が範囲を超える典型例です。
8. 説明を尽くしても納得せず、同じ主張で1時間以上電話を切らない カスハラに当たり得る 長時間の電話で働く人を拘束する言動です。マニュアルは、膠着してから30分程度を超えたら電話を切る対応例を示しています(時間は各社で決める目安)。
9. 取引先の担当者が、契約の範囲を大きく超える無償の追加作業を、強い口調で何度も求める カスハラに当たり得る 「顧客等」には取引先も含まれます。契約を著しく超えるサービスの要求に当たります。
10. 会計の不満から、レジ台に商品を1回投げつけた カスハラに当たる 物を投げつけるのは身体的な攻撃です。暴力は1回でも直ちにカスハラと判断され、犯罪にもなり得ます。
11. 障害のある客が、手続きの方法を変える配慮を求める カスハラに当たらない 不当な差別をしないよう求めることや、社会的障壁の除去を求める意思を伝えること自体は、カスハラに当たりません。
12. 介護の利用者が、認知症の症状から「財布を盗られた」と職員を責める ハラスメントとしては扱わない 認知症などの症状として現れた言動は、ハラスメントではなく医療的なケアで向き合うとされています。ただし職員の安全への配慮は別に必要です。

例からわかるのは、「怒っているかどうか」ではなく「何を求め、どう伝えているか」で判断するということです。同じ不良品への申し出でも、伝え方しだいで正当なクレームにもカスハラにもなります。反対に、理由のない要求でも、断ってすぐに収まれば直ちにカスハラとはいえません。

判断の目安は会社ごとに決めて、現場で共有しておくことが求められています。基準の作り方や社内での決め方は、カスハラ対策のページで解説しています。

業種別に起きやすいカスハラ――スーパー・宅配・宿泊・介護・電話窓口

カスハラの防止指針の考え方では、業種や業態によって被害の実態や必要な対応も異なるとされています。厚生労働省は業界ごとのマニュアル作りを支援しており、令和6年度にスーパーマーケット業編、令和7年度に宅配業編が公表されました。ここでは、公的資料に載っている行為の例を業種ごとにまとめます。

スーパーマーケット業と宅配業でカスハラと判断された行為の上位3つの割合を示した棒グラフ
図:スーパーマーケット業と宅配業で多かった行為(厚生労働省の業種別マニュアルの実態把握調査より作成)

スーパーマーケット業

厚生労働省の業種別マニュアル(スーパーマーケット業編)の実態把握調査(令和6年9月、スーパーマーケット業を中心に営む企業、回収107件)では、過去3年間に従業員からカスハラの相談があった企業は76.2%でした。カスハラと判断した行為は「継続的な、執拗な言動」84.9%、「威圧的な言動」75.3%、「精神的な攻撃」65.8%の順です(カスハラを受けた企業 n=73、複数回答)。

企業へのヒアリングでは、次のような行為が挙がっています。

  • 何度も来店または電話をして、同じ内容のクレームを繰り返す
  • ミスをした従業員本人からの直接の謝罪を執拗に求める
  • レシートがないなど販売の事実を確認できない商品の交換・返金を求める
  • セルフレジに通していない商品を指摘すると逆上し、脅す
  • 従業員の処罰や解雇を求める、「トップを出せ」と理不尽な主張を繰り返す
  • 店外(客の自宅など)で5〜6時間に及ぶ拘束、特定の従業員への付きまといや待ち伏せ

宅配業

厚生労働省の業種別マニュアル(宅配業編)の実態把握調査(令和7年9〜10月、宅配業を営む企業で顧客対応業務がある従業員)では、過去3年間にカスハラを受けた人は42.6%でした。職種別では「カスタマーサービス職(電話窓口)」が73.9%で最も高く、「管理職」67.6%、「カスタマーサービス職(対面窓口)」64.1%が続きます。受けた内容は「威圧的な言動」70.3%、「継続的な、執拗な言動」61.8%、「精神的な攻撃」58.1%の順です。

マニュアルは、場面ごとに次のような例を挙げています。

  • 集荷・配達時:「今すぐ荷物を持ってこい」などの強い命令口調、配達遅れに対する過度な謝罪の要求、着払い料金や配達した物品の代金などの金銭を理由なく要求する
  • 営業所の窓口:繰り返し来店して要求が通るまで主張を続ける、長時間の居座り
  • 電話窓口:要求が通るまで電話を繰り返す、長時間の電話や切電の拒否、「誠意を見せろ」などと言って金銭や物品を要求する
  • 配達前に必ず電話を入れる、営業時間外に配達するなど、想定を著しく超える特別扱いの要求

宿泊業(ホテル・旅館)

宿泊業では、法律で対応が定められています。厚生労働省の改正旅館業法の解説によると、2023年(令和5年)12月13日施行の改正で、宿泊サービスの従業員に対して次のような行為を繰り返す場合に、宿泊を断れるようになりました。

  • 不当な割引、契約にない送迎など、過剰なサービスの要求
  • 対面や電話などで、長時間にわたり不当な要求を行う
  • 要求の内容に照らして手段・態様が不相当なもの(暴行・傷害、脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言、土下座の要求など)

介護の現場

厚生労働省のウェブサイトで公開されている「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和4年3月改訂、株式会社三菱総合研究所)は、利用者や家族等からの行為を次の3つに分けています。

介護現場でのハラスメントの分類(介護現場におけるハラスメント対策マニュアルより)
分類 例
身体的暴力 コップを投げつける、蹴る、唾を吐く
精神的暴力 大声を発する、怒鳴る、特定の職員にいやがらせをする、「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する
セクシュアルハラスメント 必要もなく手や腕を触る、抱きしめる、入浴介助中にあからさまに性的な話をする

介護ならではの注意点として、認知症などの病気や障害の症状として現れた言動は、ハラスメントとしてではなく医療的なケアで向き合う必要があるとされています。そのうえで、症状による暴言・暴力であっても職員の安全への配慮は欠かせず、一人で抱え込まずに報告・共有することが大切とされています。

コールセンター・電話窓口

電話は相手の顔が見えず、長時間の拘束や繰り返しの電話が起きやすい場面です。宅配業の調査でも、電話窓口の担当者がカスハラを受けた割合は職種別で最も高くなっていました。厚生労働省のマニュアルは、対応できない理由を伝えたうえで膠着してから30分程度を超えたら電話を切る、複数回かかってくる場合は対応できる時間をあらかじめ伝える、といった対応例を示しています(具体的な時間は業種・業態を踏まえて各社で決めるものとされています)。電話窓口の担当者が受けたわいせつ発言や暴言をめぐる裁判例は、次の章で紹介します。

公的資料で確認できるカスハラの事例

厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアルおよび政府広報オンラインは、企業が実際に受けた行為として次を例示しています。いずれも典型例として反復・継続性または強度の高さが共通して認められます。

  • 長時間の電話による拘束
  • 頻繁に来店し、そのたびにクレームを行う
  • 大声での恫喝・罵声・暴言を繰り返す
  • 当初の話からのすり替え・揚げ足取り・執拗な攻め立て
  • 物を壊す・殺すといった発言による脅し
  • インターネット上に労働者の氏名を公開する投稿

名札に関しては、飲食業の店舗スタッフが名札の情報をもとにSNSで検索され付きまとわれるトラブルをきっかけに、名札の表記をイニシャルに変更した事例が政府広報オンラインで紹介されています(同マニュアルより)。業務上の個人情報管理とカスハラ防止が実務上連動していることを示す事例です。

裁判例としては、長崎地裁令和3年1月19日判決において、保育士が保護者による一連の追及等によって強い心理的負荷を受けうつ病を発症・自殺した件で、使用者の対応が十分でなかったとして社会福祉法人の安全配慮義務違反が認められています(同マニュアル3.2)。一方、東京高裁令和4年11月22日判決では、コールセンターのコミュニケーターがわいせつ発言や暴言を受けた件で、法人がマニュアルの作成・周知や転送・切断ルールを整備していたため、安全配慮義務違反は認められませんでした(同)。対応体制の有無が法的評価を分けた点は、企業の実務上重要な示唆を持ちます。

2つの裁判例を比べると、会社がマニュアルや転送・切断のルールを事前に整えていたかどうかが、結論を分けたことがわかります。業種ごとの行為の例は、前の章「業種別に起きやすいカスハラ」にまとめています。

犯罪になり得るカスハラ

カスハラの行為が刑法上の犯罪を構成する場合があります。被害を受けた側は不法行為に基づく損害賠償請求も可能です。行為の種類と該当し得る罪名を整理します(厚生労働省マニュアル・TOKYOノーカスハラ支援ナビ)。

カスハラに関連し得る刑法上の罪名と法定刑(罪名は厚生労働省マニュアル・TOKYOノーカスハラ支援ナビ、法定刑はe-Gov法令検索の刑法より)
行為の例 該当し得る罪名 法定刑
殴る・蹴るなど身体への攻撃 傷害罪(刑法204条) 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
(同上で、けがに至らない場合) 暴行罪(208条) 2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
「殺す」などの脅迫的発言 脅迫罪(222条) 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
土下座・謝罪文の強要 強要罪(223条) 3年以下の拘禁刑
事実を挙げて人前で名誉を傷つける 名誉毀損罪(230条) 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
SNS等での侮辱的投稿 侮辱罪(231条) 1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
長時間・度重なる電話で業務に支障 偽計業務妨害罪(233条) 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
大声で秩序を乱す・脅迫的言動で業務妨害 威力業務妨害罪(234条) 233条と同じ(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
金品を要求し脅す 恐喝罪(249条) 10年以下の拘禁刑
退去要求を無視して居座る 不退去罪(130条) 3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
行動の自由を拘束する 逮捕・監禁罪(220条) 3月以上7年以下の拘禁刑
性的な言動・接触 不同意わいせつ罪(176条) 6月以上10年以下の拘禁刑

法定刑はe-Gov法令検索の刑法で確認したものです(2026年10月29日参照)。2025年6月1日から、懲役と禁錮は「拘禁刑」にまとめられています。実際にどの罪に当たるかは、個別の事情によって捜査機関や裁判所が判断します。

ネット上の誹謗中傷については侮辱罪として認められる可能性があります(TOKYOノーカスハラ支援ナビ nocushara.metro.tokyo.lg.jp)。カスハラが刑事・民事の両面で責任を問われ得る行為であることは、顧客側の認識としても重要です。

カスハラが働く人・企業・ほかの客に与える影響

厚生労働省のマニュアルは、カスハラの影響を次のように整理しています。

カスハラによる影響(厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」より)
影響を受ける人 主な影響
働く人 業務のパフォーマンスの低下、健康不良(頭痛・睡眠不良・精神疾患・耳鳴りなど)、現場対応への恐怖や苦痛による配置転換・休職・退職
企業 苦情対応・謝罪訪問・社内検討・弁護士への相談などの時間の消費、ほかの業務が行えない業務上の支障、離職に伴う採用・教育コストなどの人員不足、値下げや慰謝料要求への対応などの金銭的損失、ブランドイメージの低下
ほかの客 店内の利用環境や雰囲気の悪化、業務の遅れによってサービスを受けられない

企業には従業員に対する安全配慮義務があり、カスハラへの対応を怠った場合も安全配慮義務違反となり得ます(同マニュアル)。対応の差で結論が分かれた裁判例は、前の「公的資料で確認できるカスハラの事例」で紹介しています。

カスハラの現状――厚生労働省の実態調査

厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」(全国の従業員30人以上の企業・団体、回収7,933件)によると、過去3年間にカスハラの相談があった企業は27.9%で、前回の令和2年度調査から8.4ポイント増加しました。パワハラ(64.2%)・セクハラ(39.5%)に次ぐ水準ですが、相談があった企業のうち実際に該当事案があったとする割合はカスハラが86.8%と最も高く、依然として多くの企業でカスハラに該当する事案が発生していることがわかります(同マニュアル)。

労働者調査(20〜64歳・8,000名)では、過去3年間に勤務先でカスハラを一度以上経験した割合は10.8%(パワハラ19.3%、セクハラ6.3%)。受けた行為の内訳は「継続的・執拗な言動」が57.3%で最多、「威圧的な言動」が50.2%で続きます(同調査)。

スーパーマーケット業界を対象とした厚生労働省の実態把握調査(令和6年・企業調査)では、カスハラに発展した原因の上位は「顧客対応・サービス等の遅延」71.2%、「対応者の説明・コミュニケーションの不足」63.6%でした(政府広報オンライン)。対応・サービス提供側の不備がきっかけになっている場合も多い、という結果です(政府広報オンライン)。

カスハラに関係する法律・条例の概要

令和7年(2025年)6月に労働施策総合推進法が改正され、令和8年(2026年)10月1日から事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置が義務化されました(政府広報オンライン・厚生労働省マニュアル)。具体的な措置内容はカスハラ防止指針で定められており、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速・適切な対応、悪質なカスハラへの対処方針の策定、プライバシー保護・不利益取扱いの禁止などが含まれます。国・事業主の責務に加え、労働者や顧客等の責務も法律上明記されました。

自治体レベルでは東京都の条例(令和7年4月1日施行)が先行しており、第4条で「何人も、あらゆる場においてカスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と定めます。罰則はない理念型の条例ですが、行為によっては上述の刑法各条が適用され得ます。北海道・群馬県・三重県桑名市・愛知県・静岡県などにも条例が存在します。

企業には労働契約法に基づく安全配慮義務があり、カスハラへの対応を怠ると法的責任を問われ得ることは、前述の裁判例が示すとおりです(同マニュアル3.2)。

企業・働く人・顧客それぞれに求められること

企業(事業主)には、2026年10月1日以降、雇用管理上の措置が法的義務として課せられています。方針の策定・周知から相談窓口の整備、悪質なケースへの毅然とした対処まで、具体的な取組みはカスハラ対策(2026年10月から企業に義務化された措置と進め方)を参照してください。

厚生労働省のリーフレットは「事業主は、以下の措置を必ず講じなければなりません」としており、企業の規模による区別は記載されていません。義務化の内容について事業主が問い合わせる窓口は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です(厚生労働省リーフレット)。

厚生労働省のマニュアルによると、カスハラ対策はもはや努力目標ではなく、取引先を相手にするBtoB企業を含めたすべての事業主の法律上の義務です。対応が不十分な場合は、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり得ます。

企業に義務化された措置(10項目の一覧)

改正法と指針で企業に求められる措置は、次の10項目です(政府広報オンライン・厚生労働省マニュアル)。ここでは一覧だけを示します。

企業が講じなければならないカスハラ対策(概要)
区分 措置
事前の準備 1. カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、周知・啓発する
2. カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
3. 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
4. 相談窓口の担当者が適切に対応できるようにする
5. 特に悪質なカスハラへの対処の方針を定めて周知し、対処できる体制を整える
起きたときの対応 6. 事実関係を迅速かつ正確に確認する
7. 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
8. 再発防止に向けた措置を講ずる
あわせて講ずる措置 9. 相談者等のプライバシーを保護し、周知する
10. 相談したこと等を理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、周知・啓発する

企業の方針に盛り込む要素(厚生労働省マニュアルの例)

  • カスハラは自社にとって重大な問題である
  • カスハラを放置しない
  • カスハラから従業員を守る
  • 従業員の人権を尊重する
  • 範囲を超えた要求や言動を受けたら、周囲に相談してほしい
  • カスハラには組織として毅然とした態度で対応する
  • 本方針は企業のトップメッセージである

マニュアルには、方針の例として次のような文面が載っています(抜粋)。企業のトップの署名を添えて発信すると、会社全体で取り組んでいることをより強く伝えられるとされています。

「(前略)お客様からの要求や言動の中には、従業員の人格を否定する言動、暴力、性的な要求等の従業員の尊厳を傷つけるものもあり、これらの行為は、職場環境の悪化を招く、あってはならない問題です。(中略)このようなお客様の要求や言動に対しては、毅然とした態度で対応し、従業員を保護します。」

(厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」の方針の例より)

このほか、カスハラの判断基準と対応の流れをまとめたマニュアルの整備、研修などを通じた顧客対応力の強化、対応者を一人にしないことも効果的と考えられています(政府広報オンライン)。

対応マニュアルに盛り込む項目(例)

指針は、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知することを求めています。リーフレットはその例として、管理監督者にその場の対応方針の指示を仰ぐ、できる限り一人で対応させない、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する、本社・本部などへ情報共有して指示を仰ぐ、を挙げています。厚生労働省のマニュアルが示す項目の例は次のとおりです。

対処の内容として定める項目の例(厚生労働省マニュアル4.2.2より)
項目 主な中身
現場での初期対応の方法・手順 限定的な謝罪、状況の把握、現場監督者への共有。対面・電話・訪問ごとの注意点
類型別の対応例 身体的な攻撃、精神的な攻撃、つきまといなど、行為の類型ごとの対応例
内部手続の方法・手順 報告・相談、指示・助言の流れ。企業の規模に応じた体制の例
社内対応ルールの教育・研修 全員が受講し、定期的に実施する研修の内容

相談窓口の決め方と運用

マニュアルによると、相談窓口は必ずしも新しく作る必要はなく、現場監督者を担当者にする、パワハラなどを扱う既存の相談窓口や社内ヘルプラインを使う、外部の機関に委託する、といった方法が考えられます。担当者は上司や現場の管理監督者、規模の小さい企業では経営者などが考えられ、その管理監督者自身が相談できる窓口を別に設けることも挙げられています。窓口は、実際に起きた場合だけでなく、起きるおそれがある場合や判断がつかない場合も含めて、幅広く相談に応じる必要があります(指針)。なお、令和5年度の厚生労働省の調査では、顧客等からの著しい迷惑行為を受けた後の行動として「社内の上司に相談した」が38.2%で最も多い結果でした。

録音・録画と個人情報保護法の注意

マニュアルは、疑いがある場合に録音・録画などの第三者が確かめられる記録を残すことを示す一方、録音・録画では個人情報保護法などを守り、顧客等の個人情報を適切に扱うよう求めています。現場での共通の注意点として「必要があれば相手の了解を得て録音する」、電話対応では「通話内容を録音できるようにしておく」が挙げられています。個人情報保護委員会のQ&A(A1-10)によると、通話内容から特定の個人を識別できる場合は個人情報に当たり、事業者は利用目的を通知または公表する義務を負いますが、録音していることを伝える義務までは負いません。

方針・マニュアル・相談体制の作り方と進め方は、カスハラ対策の進め方(方針・マニュアル・相談窓口)で詳しく解説しています。

研修で扱う内容(厚生労働省マニュアルの例)

マニュアルは、社内の対応ルールを研修などで全員に伝え、定期的に実施すること、中途入社やパート・アルバイトにも入社時に説明することが重要だとしています。研修の内容例は次のとおりです。

  • 定義や該当する行為の例、正当な苦情との違い
  • 判断の例(判断基準とその事例)
  • 類型別の対応方法
  • 苦情対応の基本的な流れ
  • 顧客等への接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点など)
  • 顧客等への理解(消費者の心理や障害特性など)
  • 記録の作成方法
  • 事例における顧客対応での注意点
  • よくある質問と模範解答
  • ケーススタディ

特に悪質なカスハラへの対応方針の例

指針は、従業員に過度な要求を繰り返すなど特に悪質なものへの対応方針をあらかじめ定めて周知し、その方針どおり対応できる体制を整えることを求めています。マニュアルが示す方針の例は次のとおりです(業法の定めや業種によって必要な対応は異なります)。

  • 暴行・傷害・脅迫など犯罪に当たり得る言動は、警察へ通報し、警備員と連携して対応する
  • 内容証明郵便などで行為者に警告文を出す
  • 法令の範囲内で、行為者への商品の販売やサービスの提供をしない
  • 行為者に店舗・施設への出入りを禁止する
  • 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる

再発を防ぐための取組

起きた事案に対応するだけでは、同じことが繰り返されるおそれがあります。マニュアルは再発防止の方法として、方針と対処の手順を研修などで改めて周知する、事案の内容と対応の経緯を記録して個人情報に注意しながら関係部門で共有し手順の見直しに使う、商品・サービス・接客の問題や顧客とのコミュニケーション不足が原因になった場合はその改善を図る、といった例を挙げています。

被害を受けた従業員へのケア

カスハラが起きたあと、会社には被害を受けた従業員への配慮の措置が義務付けられています(指針の措置7)。マニュアルは、まず安全の確保を最優先とし、次の対応を例に挙げています。

  • 現場の監督者が顧客への対応を代わる
  • 顧客からその従業員を引き離す
  • 担当者を変える、複数人で対応する
  • 状況に応じて警察に通報する、弁護士と連携する

そのうえで心の面への配慮として、メンタルヘルス不調の兆しがある場合は、産業医・産業カウンセラー・臨床心理士などの専門家に相談対応を依頼する、または医療機関の受診を促すとされています。定期的なストレスチェックなどで状況を確かめることも望ましいとされています。

自社の状況を確かめるチェック(厚生労働省のチェックシートから抜粋)

マニュアルの付録「カスタマーハラスメント対策チェックシート」から、まず確かめたい項目を抜き出しました。

  • □ 組織のトップが、カスハラには毅然と対応し従業員を守るという方針をはっきり示しているか
  • □ 報告先や上司への引継ぎ、一人で対応させない、犯罪に当たる場合は警察に通報する、といった対処の内容を従業員に伝えているか
  • □ 相談窓口と担当者を決めて、従業員に伝えているか
  • □ 起きた場合だけでなく、おそれがある場合や判断が微妙な場合も相談の対象にしているか
  • □ 事実関係を速く正確に確かめ、録音・録画などの客観的な資料を確認できる仕組みがあるか
  • □ 配置転換やメンタルヘルス不調への相談対応など、被害者を支える措置がとれるか
  • □ 自社の従業員がほかの会社の従業員にカスハラをしてはならないことを示しているか

働く人がカスハラを受けたら

働く人がカスハラを受けた場合は、一人で抱え込まず上司や社内相談窓口に相談し、日時・内容・相手の言動を記録しておくことが重要です。程度によっては警察への相談も選択肢に入ります。現場での具体的な対応手順はカスハラ対応(受けたときの現場の手順)で解説しています。

起きたときの基本の流れ(概要)

厚生労働省のマニュアルは、苦情への初期対応を次の順で進める例を示しています。正当な申入れを即座にカスハラと決めつけないことも強調されています。

  1. 対象を明確にして限定的に謝罪する:不快な思いをさせたことに謝り、状況が分からない段階で会社の非を認める発言はしない
  2. 状況を正確に把握する:話を遮らず、反論せずにひと通り聞き、不明な点を確認する
  3. 現場監督者や相談窓口に共有する:事実関係を時系列で報告し、対応方針の指示を仰ぐ

威圧的な言動など明らかなケースでは、すぐに管理職などに引き継ぎ、一人で対応しないこととされています。疑いがある段階で、録音・録画・対応記録・時間の計測など、第三者が確かめられる記録を残します。悪質性が高い場合は複数名で対応します。その後、企業は事実関係の確認、被害を受けた従業員への配慮、再発防止を行います(措置6〜8)。

警察・弁護士・公的な窓口に相談する目安

相談先の目安(厚生労働省マニュアル・厚生労働省「総合労働相談コーナー」より)
状況 相談先・対応例
暴行・傷害・脅迫など犯罪に当たる言動 警察に通報する(身体的な攻撃では対応者の安全確保を優先し、複数名で対応して直ちに通報)
ネット上の名誉毀損やプライバシーの侵害 処罰を望む場合は警察へ。損害賠償を求める場合は必要に応じて弁護士に相談し、発信者情報の開示を受けて請求。削除を求める場合は法務局などに相談
つきまとい・待ち伏せ 施設への出入り禁止を伝え、それでも繰り返す場合は弁護士への相談や警察への通報を検討
職場のいじめ・嫌がらせなど労働問題全般の相談 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・全国の労働基準監督署内など378か所。労働者・事業主どちらからの相談も受付、予約不要・無料)

顧客・消費者の側に求められること

顧客・消費者の側にも適切なクレームの伝え方が求められます。政府広報オンラインが紹介する消費者庁の啓発冊子「ぼのぼのと考えよう カスハラってなんのこと?」では、上手な意見の伝え方として次の5点を示しています(政府広報オンライン)。

  • ひと呼吸おく
  • 具体的に伝える
  • 相手の話を最後まで聞く
  • 相手(労働者など)の立場を理解する
  • 相手に敬意を持って接する

よくある質問

取引先の担当者からの無理な要求もカスハラになりますか?
なり得ます。「顧客等」にはBtoBの取引先担当者も含まれます。要求の内容・手段・態様が社会通念上の許容範囲を超え、就業環境を害する場合は定義上カスハラに該当します(厚生労働省マニュアル)。
SNSでの誹謗中傷はカスハラですか?
カスハラの定義は電話やSNS等のインターネット上の言動を含みます。名指しの中傷投稿や顔・名札の無断公開などは東京都条例が例示する典型的な類型でもあり、侮辱罪・名誉毀損罪に問われ得ます。
強くクレームを言うことは全部カスハラですか?
感情の強度だけでカスハラと判断されるわけではありません。要求内容の妥当性と手段・態様の両面を総合的に考慮します。要求に理由があり、伝え方も社会通念上の範囲内であれば、正当なクレーム(申入れ)です。
客側が加害者になりますか?
なり得ます。改正労働施策総合推進法では顧客等の責務も定められており、東京都条例第4条は「何人も」カスハラを行ってはならないとしています。
カスハラと認定されるとどうなりますか?
厚生労働省のマニュアルでは、言動の内容に応じて、退去を求める、出入り禁止を伝える、弁護士への相談や警察への通報を検討するといった対応例が示されています。行為が犯罪を構成する場合は刑事・民事両面の責任が問われ得ます。
一度だけ大声を出された場合もカスハラですか?
回数だけでは決まりません。厚生労働省のマニュアルは、強い身体的・精神的な苦痛を与える言動なら1回でも就業環境を害する場合があるとしています。暴力行為は1回でも直ちにカスハラと判断されます。一方、断ってすぐに収まった場合は当たらない可能性があります。
電話は何分くらいで切ってよいのですか?
法律で決まった時間はありません。マニュアルは、対応できない理由を伝えたうえで膠着してから30分程度を超えたら電話を切る、という対応例を示しつつ、時間は業種・業態を踏まえて各社で決めるべきとしています。
認知症の方からの暴言もカスハラになりますか?
介護現場のマニュアルでは、認知症などの症状として現れた言動はハラスメントとしてではなく、医療的なケアで向き合う必要があるとされています。ただし、職員の安全への配慮は別に必要です。

まとめ

カスハラは、顧客や取引先などからの言動が社会通念上の許容範囲を超え、働く人の就業環境を害するものです。正当なクレームとの線引きは、要求の中身に理由があるかと伝え方が常識の範囲内かの2つを分けて見て、働く人への影響とあわせて判断します。

  • 要求に理由があっても、暴言・威圧・長時間の拘束・土下座の要求などはカスハラに当たり得ます。
  • 理由のない要求でも、断ってすぐに収まれば直ちにカスハラとはいえません。暴力は1回でも当たります。
  • スーパーでは執拗な繰り返し、宅配では威圧的な言動、宿泊では過剰なサービスの要求の繰り返し、介護では利用者・家族からの暴力やセクハラなど、業種によって起きやすい行為に違いがあります。
  • 行為によっては脅迫罪・威力業務妨害罪・名誉毀損罪などの犯罪になり、損害賠償の責任も生じ得ます。

2026年10月1日からは、すべての企業にカスハラ対策が義務付けられています。会社として何をすればよいかはカスハラ対策、現場で受けたときの手順はカスハラ対応のページで解説しています。

参考資料

上記の資料はいずれも2026年10月29日に参照しました。本文の定義・数値・事例・裁判例は、これらの原文で確認した内容に限っています。「判断に迷う12の場面」の場面は説明用に作成した例で、実在の出来事ではありません。

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監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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