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エルヴィス・プレスリー楽曲の権利者がAnthropicを提訴、274曲・約4,100万ドルを請求

AI著作権侵害と企業リスク:エルヴィス遺産がAnthropicを提訴した4100万ドル訴訟が日本企業に示す法的警告

10月23日に提訴された「ABE EPE LLC v. Anthropic」の中身

エルヴィス・プレスリーの楽曲に関わる権利者が、AIモデル「Claude」を開発するAnthropicを著作権侵害で提訴した。Rolling Stoneは10月25日付の記事で、事件名を「ABE EPE LLC v. Anthropic」と伝えている。報道によれば、提訴は2026年10月23日(金)で、プレスリーの音楽や肖像の権利を管理するAuthentic Brands Groupの関連会社が、楽曲の権利を持つほかの権利者とともに原告に加わった。NMEは「Authentic Brands Groupの子会社と、彼の楽曲の権利を持つほかの企業」と書いており、原告の正式名称の全容や裁判所名は、確認できた報道には出ていない。訴状本文も今回は入手できていないため、以下は報道ベースの内容である。

対象は274曲。報じられている曲には「Can’t Help Falling in Love」「All Shook Up」「Don’t Be Cruel」「A Little Less Conversation」などがある。請求額は、著作権侵害の法定損害賠償の上限とされる1曲あたり15万ドルを274曲に掛けた約4,100万ドル(NMEは約4,110万ドルと表記)である。弁護団の中心は、マーヴィン・ゲイ遺族が勝訴した「Blurred Lines」訴訟を担当したRichard Busch弁護士だ。NMEは、Anthropicが従来「著作物を使ったAIの学習は米国のフェアユースで保護されうる」と述べてきたことを付記している。

AIの学習や生成物が著作権でどう扱われるかは、生成AIと著作権の3つの論点で解説しています。

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訴えの三つの柱――学習、出力、そして防止策の穴

報道が伝える主張は三つに整理できる。一つ目は、許可も対価もなく274曲の楽曲(歌詞を含む)をClaudeの学習に使ったという点。二つ目は、Claudeが既存の楽曲に近い内容を出力できるという点。三つ目は、歌詞の生成を止めるための防止策(ガードレール)を設けた後でも、曲を「現代の聴き手向けに」作り直すよう頼むと、原曲によく似た内容が出てきたという点だ。この三つ目が、学習段階だけでなく出力の段階にも責任を問う主張であることが、企業ユーザーにとっての関心事になる。

2023年以降の歌詞訴訟とは別の事件

Anthropicは今年に入り、音楽出版社からも複数の訴えを受けている。報道では、Universal Music、Concord、ABKCO、BMG、Sony Music Publishing、Warner Chappellなどが同種の訴状を出したとされる。このうち、Universal Music Publishing Group、Concord、ABKCOが2023年に起こした歌詞の訴訟は、Anthropic社への歌詞訴訟の経緯で整理した別の事件である。今回のプレスリー楽曲の訴訟は、権利者も対象曲も違い、10月下旬に新しく提起されたものだ。2つを同じ話として読むと、請求額や争点を取り違えるので注意したい。

権利者・遺産管理著作権者AI開発者Anthropic等無断学習→提訴対象企業ユーザー日本企業含む出力物利用→間接リスク法的責任損害賠償リスク①著作物の無断学習②モデル配布・API提供③生成物の業務利用・公開④訴訟・損害賠償AI著作権侵害リスクの連鎖構造権利者による提訴は企業ユーザーの出力物利用にも間接的に波及する
図:AI著作権侵害リスクの連鎖構造。著作権者による提訴はAI開発者だけでなく、生成物を業務利用・公開する企業ユーザーにも間接的な法的リスクが及ぶ可能性を示す。

日本企業が直面するAI著作権侵害の具体的な企業リスク

日本の著作権法は、AIの情報解析目的での著作物利用(著作権法第30条の4)を一定の条件下で認めているが、その適用範囲は現在もグレーゾーンを抱える。文化審議会での議論を経ても、特に次の2点は解釈が定まっていない。

  • 「享受目的」の解釈:著作権法第30条の4は「著作物の表現上の創作的特徴の享受を目的とする場合」を除外している。生成AIが著作物の創作的特徴を出力に反映させる場合には免責が外れるとする解釈が有力視されているが、判例の蓄積は限定的だ。
  • 出力物の著作権帰属と侵害責任:AIが生成したテキスト・画像・コードを外部公開・商業利用する場合、出力物が既存著作物を実質的に再現していれば、利用企業が侵害主体とみなされうる。本訴訟がこの論点を米国司法の場で争うことで、日本国内の議論にも影響を与える可能性がある。

米国での訴訟動向は日本の裁判所の判断に直接拘束力を持たないが、国際的な権利者団体が主張を強化する中で、日本の企業が海外著作物をAIで利用するシナリオ(海外楽曲・文学・映像を学習させたモデルの業務活用など)では、日本法に加えて米国著作権法・EU著作権指令の適用リスクも視野に入れる必要が生じる可能性がある。

以下の比較表は、AI生成物を業務利用する際の代表的なシナリオ別に著作権リスクの程度を整理したものだ。法的結論は個別事案・管轄・利用条件によって異なるため、あくまでリスク評価の参考として用いられたい。

表:AI生成物の業務利用シナリオ別・著作権リスク比較(日本企業向け参考)
利用シナリオ 著作権リスク目安 主な懸念事項
社内限定の情報整理・要約 低 外部公開なし。社内利用にとどまる限りリスクは限定的とみられる。ただしベンダーの利用規約確認は必要。
マーケティング文章・コピー生成→外部公開 中 既存著作物を実質的に再現した出力物を公開・商業利用した場合、侵害主体となりうる。
音楽・映像・画像の生成・商業利用 高 本件訴訟の直接的な争点領域。学習データの権利処理が不明なモデルの利用は特に要注意。
ソースコード生成→製品組み込み 中〜高 オープンソースライセンスの複製問題が別途発生しうる(GitHub Copilot関連訴訟が先行事例)。
自社データのみでファインチューニング 低〜中 ベースモデルの学習データ由来リスクは残存する。ベンダーの免責・補償条項の確認が不可欠。

日本企業が今すぐ取るべき実務対応――AI著作権侵害リスクの管理策

本訴訟の核心は「許可なく学習→実質的な複製を出力」という二段階の侵害主張にある。企業ユーザーとしての対応は、この二段階のうち後段(出力の管理)を中心に設計するのが実務上の出発点となる。

1. 利用するAIモデルの学習データポリシーとインデムニティ条項を確認する。契約前に、ベンダーが著作権侵害訴訟リスクに対してどのような免責・補償条項を提供しているかを法務部門と精査する。Microsoft、Google、OpenAIなど主要ベンダーは一定の補償プログラムを設けているが、対象範囲・補償上限額・適用条件は各社で異なる。特に音楽・映像・文芸作品を出力に活用する用途では、この確認を契約締結の前提条件とすべきだ。

2. 生成物の著作権チェックプロセスを業務フローに組み込む。外部公開・商業利用する生成物については、既存著作物との類似性チェックを担当者が実施する手順を明文化する。音楽・画像・映像分野は本件訴訟の直接的な争点領域であり、優先的に対応する。テキスト出力についても、特定の著作物に酷似した表現が含まれていないかのレビューを怠らない。

3. AI利用に関する社内ガイドラインを整備し、法務レビューを標準プロセスとする。「どのAIツールをどの用途に使えるか」「生成物をどの範囲で外部公開できるか」を文書化する。全社展開前に法務・コンプライアンス部門のレビューを経ることを標準化することで、担当者個人の判断に依存したリスクを組織として管理できる体制を整える。

4. 日本の法制度動向を継続的に追う。文化庁は著作権法第30条の4の見直しを含む議論を継続しており、今後の政令・ガイドライン改定が企業の対応義務に直接影響する可能性がある。内閣府AI戦略会議や文化審議会の公表資料を定期的に参照することが望ましい。

「使っているだけ」という認識は、AIの学習データをめぐる訴訟が組織的に追求される時代においては経営リスクの管理として機能しない。著作権リスクをAI調達・運用の標準チェック項目に位置づけることが、今この局面で求められる経営判断だ。

参考文献

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監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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