blog

Linuxカーネルlibiscsiに脆弱性CVE-2026-99154——修正版へ更新を

Linux 脆弱性CVE-2026-99154――libiscsiの負インデックス問題と修正版対応

Linux 脆弱性CVE-2026-99154の概要――何が起きているか

2026年10月28日、LinuxカーネルのlibiscsiサブシステムにCVSS 9.8の脆弱性CVE-2026-99154が公開された(最終更新:2026年10月31日、採番元CNA:Linux)。CVE公式記録(cve.org)によれば、CVSS 3.1スコアは9.8(CRITICAL)である(評価者:Linux)。

脆弱性が存在するのは、LinuxカーネルのiSCSIプロトコル実装を担うlibiscsiライブラリの、PDU(Protocol Data Unit)からタスクインデックスを取り出す処理だ。この欠陥を放置すれば、外部から操作された負のインデックス値によってカーネルメモリの想定外の領域が読み取られる可能性がある。

同じlibiscsiに潜むもう一つの欠陥は、libiscsiのCVE-2026-99153で説明しています。

関連記事Linuxカーネルmlx5eにCVE-2026-99079——CVSS9.8、修正版へ更新を

CVE-2026-99154の技術的な仕組み――なぜ負のインデックスが危険か

libiscsiでは、transportがPDUを受け取ったときparse_pdu_ittを実装してインデックスをlibiscsiに渡す。渡されたインデックスiは2か所のルックアップで使われるが、いずれも上限チェック(if (i >= session->cmds_max))しか行われていない。

iとcmds_maxは共にint型であるため、負の値はこのチェックをすり抜ける。負のインデックスが通過すると、session->cmds[i]によって配列の先頭より前のメモリ領域(範囲外)が参照される。

be2iscsiドライバが具体的な問題の発生源となっている。beiscsi_parse_pdu()はrawなITT値をそのままインデックスに代入する(*index = (int)itt;)。さらにbeiscsi_complete_pdu()は、ハードウェアの非同期リングから来た非送信請求のNOP-InをITTを置き換えずに転送するため、インデックス値はターゲット側(iSCSIストレージ側)の値になる。加えて、beiscsi_complete_pdu()はセッション自身の年代(generation)を報告するため、iscsi_verify_itt()の年代比較でこのパケットを拒否する根拠がなくなる。これら複数の要因が重なり、不正な負のインデックスが最終的に配列参照まで到達する。

修正の要点は、「両方のルックアップでインデックスの下限を制限すること(Bound the index from below in both lookups)」に集約される(CVE公式記録より)。

CVE-2026-99154 の脆弱性フローPDU受信parse_pdu_ittインデックス取得*index = (int)itt負の値が混入しうる上限チェックのみi < cmds_max?下限チェックなし範囲外メモリ参照cmds[負のi]修正後下限チェックを追加負の値がチェックを通過
図:CVE-2026-99154の脆弱性フロー。PDUから取得した負のインデックスが上限チェックのみをすり抜け、配列の範囲外メモリを参照するまでの経路(赤矢印)と、下限チェック追加による修正(緑)の対応関係を示す。

影響を受けるLinuxカーネルバージョンと修正済みバージョン

CVE公式記録(cve.org)によれば、CVE-2026-99154の影響を受けるバージョンは2.6.33から始まる。以下の修正済みバージョン(unaffected)への更新が必要だ。

カーネルシリーズ 修正済みバージョン(これ以降はunaffected) 備考
5.10.x 5.10.273 以降 長期サポート(LTS)シリーズ
5.15.x 5.15.224 以降 長期サポート(LTS)シリーズ
6.1.x 6.1.191 以降 長期サポート(LTS)シリーズ
6.6.x 6.6.161 以降 長期サポート(LTS)シリーズ
6.12.x 6.12.115 以降 長期サポート(LTS)シリーズ
6.18.x 6.18.59 以降 安定版(stable)シリーズ
7.2.x 7.2.13 以降 安定版(stable)シリーズ
7.3 以降 修正コミット適用済み(全て対象外) メインライン

上記のバージョン情報はCVE公式記録(cve.org)に基づく上流カーネルの値だ。Ubuntu・RHEL・Debian・SUSEなど各Linuxディストリビューションのパッケージバージョンは、各ベンダーが独自にバックポートするため、上流の番号とは一致しない。配布パッケージの版は、各ベンダーの告知の修正版で判断する。

CVSS 3.1スコア9.8の内訳は、ネットワーク越し(AV:N)・攻撃の複雑さ低(AC:L)・認証不要(PR:N/UI:N)・機密性・完全性・可用性すべてへの影響が高(C:H/I:H/A:H)という評価だ(評価者:Linux、出典:cve.org)。

なお、EPSS(悪用される確率の統計的推定)は2026年11月1日時点で0.00514(パーセンタイル約0.44)と報告されている(出典:FIRST EPSS)。EPSSは悪用される確率の統計的推定であり、確定した事実ではない。CISA KEV(既知悪用脆弱性リスト)への掲載は、本記事執筆時点(2026年11月2日)では確認されていない。

Linux 脆弱性CVE-2026-99154への対応――今やること

対応は以下の3点に絞られる。

1. 影響を受けるバージョンの確認と修正版への更新。配布パッケージの版は、各ベンダーの告知の修正版で判断する。

2. 公式の回避策について。CVE公式記録に回避策の記載はない。記録にある「両方のルックアップでインデックスの下限を制限する(Bound the index from below in both lookups)」は、カーネル側の修正の内容である。

3. 修正版が提供されていない場合はベンダー告知に従う。

自社の機器が対象かどうかの判断や、すでに侵入されていないかの確認は、構成やログを見ないと判断できません。


参考文献

重大な脆弱性が出たら、メールでお知らせします

悪用が確認された重大な脆弱性が出たときだけ送ります(頻繁には送りません)。無料・配信停止はメール内のリンクからいつでもできます。

個人情報の扱い

脆弱性への対応・AIセキュリティでお困りの方へ

クリスタルメソッドは、脆弱性情報の監視とお知らせ、AIセキュリティのご相談、AIを業務に取り入れる際のセキュリティを学ぶ研修をお受けしています。「使っている製品が対象か分からない」「社内でAIを使うときの注意点を整理したい」といった段階からご相談いただけます。

AIニュースのまとめをメールで

毎週月曜、海外AIニュースの日次ダイジェストを1週間分まとめてお届けします。無料・いつでも配信を停止できます。

監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
運営会社について | 編集方針

Read next

あわせて読みたい

  • Linux脆弱性CVE-2026-99153——libiscsiのITT検証不備と修正版対応

    Linuxカーネルlibiscsiに脆弱性CVE-2026-99153——修正版へ更新を

    CVE-2026-99153とは——LinuxカーネルlibiscsiのITT検証不備 2026年10月28日、Linuxカーネルのlibiscsiコンポーネン...

  • Linux脆弱性 CVE-2026-99078——CVSS9.8、mlx5eドライバを修正版へ

    Linuxカーネルmlx5eにCVE-2026-99078——CVSS9.8、修正版へ更新を

    CVE-2026-99078とは——mlx5eドライバのバッファ管理に潜む致命的不備 2026年10月23日、Linuxカーネルのネットワークドライバ「mlx5...

  • Linux脆弱性CVE-2026-99079——重大度9.8・mlx5eのバッファ二重解放と修正版

    Linuxカーネルmlx5eにCVE-2026-99079——CVSS9.8、修正版へ更新を

    CVE-2026-99079とは——mlx5eで何が起きたか 2026年10月23日、Linuxカーネルの採番機関(CNA)によりCVE-2026-99079が...

View more