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AI著作権侵害の企業リスク――Reddit対Perplexity訴訟が問う法務の死角
文:クリスタルメソッド編集部 監修:河合 継(代表取締役)

Reddit対Perplexity訴訟が示すAI著作権侵害の企業リスク
2025年10月22日、Reddit, Inc.はSerpApi、Oxylabs、AWMProxy、そしてPerplexity AI, Inc.を相手取り、連邦地裁南部ニューヨーク(担当:Paul A. Engelmayer判事)に提訴した(事件番号:No. 1:25-cv-08736、出典:fiund.com)。主な法的根拠はDMCA反迂回条項違反と不当利得(州法)の二本立てである。
Redditの主張の核心は「データロンダリング」だ。自社コンテンツがGoogleのインデックスを経由して収集され、その結果がPerplexityの回答生成に利用されたと訴える。証拠として提出されたのが「ハニーポスト」——Googleクローラーにのみアクセスを許可した投稿——がPerplexityの検索結果に表示されたという事実である(出典:kr.law)。直接アクセスではなく第三者経由の二次取得であっても権利侵害が成立しうると主張する点で、AI業界全体に波及する論点を含んでいる。
Engelmayer判事は2026年7月31日、請求の大部分の継続を認めた(出典:lawcommentary.com)。訴訟は本案審理へと移行しており、AI著作権侵害を巡る先例形成の場として注目が集まっている。
AI学習の著作権訴訟で企業が負うリスクは、Google提訴と日本企業の防衛策で解説しています。
AI著作権侵害の企業リスクを深刻化させる「利益相反」の構造
この訴訟が単なるスクレイピング紛争を超えて注目される理由の一つが、弁護士利益相反(コンフリクト・オブ・インタレスト)を巡る攻防だ。AI著作権侵害訴訟という先例の少ない分野では、専門性を持つ法律事務所が限られる。その結果、同一事務所が競合当事者を過去・現在に代理するという構造的な問題が生じやすい。
法律事務所Proskauer Roseはかつて、Redditを内部告発訴訟で代理した。その訴訟にはRedditのGoogleおよびOpenAIとのライセンス契約に関する情報が含まれていた(出典:lawcommentary.com)。その後、PerplexityがProskauer Roseへの乗り換えを希望し、同事務所はRedditに同意を求めたが拒否された。
2025年11月、ProskauerはRedditの同意のもと内部告発訴訟から撤退した。Redditは「撤退条件としてPerplexity案件に関与しないとの保証を受けた」と主張する。これに対しProskauerはそのような拘束的制限はないと反論し、2026年10月9日に競合書面が提出された(出典:lawcommentary.com)。
Redditが援用するのは「ホットポテト法理」だ。現クライアントとの委任関係を自ら打ち切って利害対立する相手方を受任しようとする行為を倫理違反とみなす法理論であり(出典:lawcommentary.com、rallies.ai)、AI関連訴訟の法務リスクが技術・契約の次元だけでなく代理人管理の次元にまで及ぶことを示している。
Perplexityの現代理人であるKeker, Van Nest & Petersは撤退申請中だが、Engelmayer判事はProskauer問題が解決するまで判断を保留している(出典:lawcommentary.com)。代理人選定という手続き的側面が訴訟進行そのものを左右している構図は、AI著作権侵害訴訟特有のリスクとして法務担当者が認識すべき点だ。また、ProskauerはSerpApi対Google訴訟でSerpApiを代理した経験を持つことも判明しており(出典:lawcommentary.com)、AI関連紛争における事務所の経歴管理の複雑さを示している。
次に読む:OpenAI著作権侵害と企業対策とは?
日本企業にとってのAI著作権侵害リスクが持つ三つの意味
日本企業がこの訴訟から読み取るべき含意は、米国法の直接適用にとどまらない三層で整理できる。
技術的制限回避のリスク:DMCAの反迂回条項は米国固有の規定だが、日本の著作権法においても技術的保護手段の回避(著作権法30条の2)は違法行為となりうる。robots.txtや利用規約による制限を迂回してコンテンツを取得する行為は、日本法でも権利侵害リスクを生じさせると考えられる。ただし日本法の具体的な適用範囲は解釈が発展途上であり、断定的な判断には慎重を要する。
「経由取得」の法的評価:Redditは直接スクレイピングではなく、第三者(Google)のインデックスを介した二次的利用を「データロンダリング」として法的問題に仕立てた。AI学習データが複数のプラットフォームを経由する場合、どの段階で侵害が成立するかという問いは、日本の企業・開発者にとっても今後の法務判断に影響する可能性がある。日本著作権法第47条の5(情報解析のための複製)の適用範囲はまだ判例が少なく、この論点への回答は現時点では得られていない。
AIサービス契約上の表明保証:AIツールやデータの提供を受ける契約において、学習データの合法性に関する表明保証条項とインデムニフィケーション(補償条項)を求める実務は、今後の契約交渉の標準になる可能性がある。本訴訟の展開は、AIサービス提供者側が負う責任範囲の解釈に影響を与えると考えられる。
機械学習・深層学習の基盤技術を理解することは、こうしたリスクの技術的背景を把握する上で有用だ。
企業法務・経営層が今すぐ取り組むべき実務的対応
1. 利用中のAIサービスの学習データポリシーの確認
外部のAIサービスを業務利用する際は、そのサービスの学習データがどのような権利処理のもとで収集されたかを利用規約・公開ポリシーに基づいて確認する。確認できない場合は、サービス提供者への文書による照会を記録として残すことが、万一の紛争時に有効な証跡となる。
2. 社内AIシステムの学習データ取得プロセスの監査
自社でAIモデルを開発・ファインチューニングする場合、学習に使用するデータの収集方法を文書化し、各データソースの利用許諾状況を記録する。外部Webコンテンツをクロールして収集する場合は、技術的制限(robots.txt・利用規約等)の遵守状況を法務部門が定期的に確認する体制を整える。
3. 弁護士選任における利益相反チェックの強化
AI関連の法務案件では、担当事務所が過去に相手方や競合他社を代理したケースが増えている。委任前のコンフリクトチェックを徹底し、機密情報が漏洩するリスクに備える。本訴訟が示すように、撤退の条件について文書で合意を得ることも検討に値する。
4. AI関連契約への表明保証・補償条項の導入
AIツール・データの提供を受ける契約には、著作権侵害を含む第三者権利侵害がないことの表明保証と、侵害が発生した場合の補償条項(インデムニフィケーション)の組み込みを交渉する。特に大規模な言語モデルを利用するSaaS契約では、この交渉は今後の必須項目になると考えられる。
5. 訴訟動向のモニタリング体制の整備
Reddit対Perplexity訴訟をはじめ、AI著作権を巡る訴訟は米国・欧州で複数進行中であり、今後の判決が日本の法解釈に影響を与える可能性がある。法務担当者は主要訴訟の進捗を定期的に把握し、自社のリスクアセスメントに反映する体制を整えることが有効だ。
生成AIの基盤技術を理解することはリスク評価にも役立つ。
AI著作権侵害の企業リスクに関わる主要論点の比較
| 論点 | 米国(本訴訟の文脈) | 日本(現行著作権法) | 企業対応の優先度 |
|---|---|---|---|
| 技術的制限の回避 | DMCA反迂回条項違反の明示的根拠あり(本訴訟の主要請求) | 著作権法30条の2で保護手段回避を規制(適用範囲は解釈発展中) | 高 |
| 情報解析目的の複製 | フェアユース(107条)で争い中・判例形成の焦点 | 47条の5で一定範囲を許容するが判例が少なく不確実 | 中〜高 |
| 第三者経由の二次取得 | 「データロンダリング」論として本訴訟で提起(ハニーポストが証拠) | 明示的規定なし・判例形成待ち | 中 |
| 弁護士利益相反 | ホットポテト法理・弁護士倫理規則に基づく申立(訴訟進行を直接左右) | 弁護士職務基本規程25条等で規律・AI案件での事例蓄積なし | 中(法律事務所選任時) |
| 契約上の表明保証 | AIサービス契約での論点化進む・インデムニフィケーション条項の整備が課題 | SaaS契約での個別交渉段階・標準条項化は途上 | 高 |
AI著作権侵害の企業リスクはもはや技術部門だけの問題ではない。本訴訟が示すように、法務・コンプライアンス・経営層が一体となってリスク評価と契約管理を行う体制が不可欠だ。
参考文献
- Law Commentary「Reddit Accuses Former Law Firm of Switching Sides to Defend Perplexity AI」lawcommentary.com
- fiund.com「Reddit, Inc. v. SerpApi, LLC, et al.(No. 1:25-cv-08736)事件情報」fiund.com
- kr.law「Reddit訴訟・データロンダリング論とハニーポストに関する解説」kr.law
- rallies.ai「ホットポテト法理とAI関連訴訟の動向」rallies.ai
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