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VPNの脆弱性を狙う侵入とは?手口・事例と対策、AIで防ぐ方法【2026年】

VPN脆弱性対策の要点:外部公開機器の侵入リスクとAI活用の実際

結論:VPN脆弱性対策で最初に着手すべきこと

VPN機器・ルーター・ファイアウォールなど外部に公開している機器の脆弱性を突く侵入とは、インターネットから直接届く機器の未修正の欠陥や弱い認証を入口にして社内ネットワークへ入り込む攻撃である。

警察庁が令和8年1月に公表したリーフレット「サイバー攻撃の被害に係る企業・団体を対象としたアンケート調査結果及び対策」によれば、ランサムウェア被害企業への調査で侵入経路はVPN機器62.2%、リモートデスクトップ22.2%であり、この2経路だけで約84%を占める(警察庁リーフレット、令和8年1月)。同調査では、VPN機器を利用している組織の52%が最新パッチを未適用と回答している。

AIで防ぐ要点は二つある。第一は、外部公開資産を自動で洗い出して修正の優先順位を付けること(ASM)。第二は、侵入後の不審な通信を異常検知で早く見つけることである。ただしAIだけで全てを防ぐことはできず、パッチ適用・多要素認証・ログ取得といった基本対策が前提になる。

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外部公開機器の脆弱性を突く侵入とは:攻撃の流れと手口の種類

CISAはエッジデバイスを「組織のネットワーク境界にあり、公衆インターネットから到達できるすべての機器」と定義している。ファイアウォール、ルーター、VPNゲートウェイ、IoT機器、インターネットに公開されたサーバーなどが含まれる(CISA BOD 26-02、2026年2月5日)。

下図は、CISAがIvanti Connect Secureの事例をもとに整理した侵入の典型的な流れである(CISA AA24-060B、2024年2月29日)。

VPN機器への侵入から横展開までの5段階の流れ①脆弱性を連鎖させて侵入未認証RCE②Webシェル設置・認証情報収集③緩和策を回避追加マルウェア展開④標準ツールで社内ドメインへ横展開⑤管理者権限奪取・リセット後も残存ドメイン全体が侵害VPN機器
図:Ivanti Connect Secureの事例(CISA AA24-060B)をもとに整理した、VPN機器への侵入から社内ドメイン全体の侵害に至る5段階。工場出荷時リセット後も攻撃者が残存できることが確認されている。

この攻撃フローが成立する条件は、機器のパッチ未適用・弱い認証・設定の不備の組み合わせである。手口の種類を以下の表に整理する。

外部公開機器を狙う主な手口の種類(2026年10月時点)
手口 代表的な事例・根拠 出典
未修正の既知の脆弱性の悪用 Ivanti Connect Secure(CVE-2023-46805等)、NetScaler ADC/Gateway、Cisco SD-WAN Managerで修正済み脆弱性の悪用を確認 CISA AA24-060B;JPCERT/CC Weekly Report 2026年10月7日号
認証の弱さ・設定の不備の悪用 Check Point製VPN(CVE-2026-50751):IKEv1使用・機器証明書未要求の構成が対象。遅くとも2026年5月7日には悪用が観測 JPCERT/CC JPCERT-AT-2026-0016(2026年6月10日)
サポート終了(EOS)機器の放置 CISAはEOSエッジデバイスへの脅威は「大きく、常に存在する」と指摘 CISA BOD 26-02(2026年2月5日)
公開されたシステム全般への既知脆弱性の探索 JPCERT/CCは、WebサービスやAPIを含む公開システムに既知脆弱性を探索する試みと、設定ファイル・バックアップファイルの窃取を試みる例を確認 JPCERT/CC JPCERT-AT-2026-0030(2026年10月8日公開・10月9日更新)

警察庁も、ランサムウェアの侵入口の例としてVPN機器などインターネットに露出した箇所を挙げている(警察庁「ランサムウェア被害防止対策」、2026年10月時点で閲覧)。

実際の被害事例:何が起きたか

抽象的な説明だけでなく、2025年以降に公表された具体的な事例を見ておく。

アサヒグループホールディングス(2025年9月〜)

2025年9月29日にランサムウェアが動作したことが確認されている。侵入はその約10日前、拠点のネットワーク機器からと公表されているが、VPN経由と明記はされていない。本社データセンターではパスワードの弱点を突かれて管理者権限を奪われ、営業時間外を中心に内部が探索された。

公表された再発防止策として、同社は次を挙げている:リモートアクセス用VPN機器の全面廃止、ゼロトラスト対応の専用端末への全PC移行、全PCとクラウドへのEDR強化、パスワード変更と権限管理の強化、ペネトレーションテストと脅威ハンティングの継続。個人情報の漏えいについては、2026年2月18日時点で従業員5,117件・取引先役員等110,396件(件数は記録件数)の漏えいを確認、2025年11月26日時点の漏えいのおそれは問い合わせ者152.5万件ほかと公表されている(アサヒグループホールディングス、2026年2月18日)。

この事例で注目すべきは、再発防止として修正の徹底にとどまらず、VPN自体の廃止とゼロトラスト型への移行が選ばれたことである。

Check Point製VPN(CVE-2026-50751)

VPNのリモートアクセス/モバイルアクセスで認証を回避され、不正にVPN接続を確立されるおそれがある脆弱性。ベンダー公表(2026年6月4日現地時間)の前、遅くとも5月7日には悪用が観測されており、6月上旬に試行が増加した。JPCERT/CCは影響を受ける可能性のある製品が国内で広く使われていることを確認している(JPCERT/CC JPCERT-AT-2026-0016、2026年6月10日)。

修正公表前から悪用が始まっているという事実は、「公表されたら直す」という対応の限界を示している。AIを含む検知体制をいかに早く構築するかが問われる。

NetScaler ADC/GatewayおよびCisco Catalyst SD-WAN Managerでも、修正済み脆弱性を悪用した攻撃が確認されている(JPCERT/CC Weekly Report 2026年10月7日号)。関連する事例の動向についてはAIハッキングと情報漏洩の被害一覧も参照されたい。

AIで防ぐ方法:段階別の仕組みと限界

AIが働く4つの段階1事前:公開機器を洗い出すASMで忘れられた機器も見つける2事前:直す順番を決める悪用中の脆弱性と照合する3侵入後:早く見つけるNDR・UEBA・EDRで通信と操作を監視4侵入後:広げないゼロトラスト型で接続を判断
図:VPNの脆弱性を狙う侵入に対して、AIが働く4つの段階。

AIが有効な段階と仕組み

VPN脆弱性対策におけるAI活用の段階・仕組み・限界(2026年10月時点)
段階 仕組み・技術 何をするか 限界・注意点
事前(入口を減らす) ASM(アタックサーフェス管理) インターネット側から見える自社のIT資産(VPN機器・ルーター・忘れられた検証機など)を継続的に洗い出し、機器の種類・バージョンから脆弱性の可能性を判定。AIが資産の突き合わせ・機器名の判別・リスクの順位付けを担う 外部から見える情報だけでは「ありそう」かどうかしか判定できない。内部の実態までは把握不可
事前(直す順番を決める) AIによる脆弱性優先順位付け CISAのKEVカタログ(実際に悪用された脆弱性一覧)と自社の資産情報を突き合わせ、修正の優先順位を自動で付ける 公表された脆弱性にしか効かない。ゼロデイ攻撃には無効
侵入後(早く見つける) NDR・UEBA・AI SOC・EDR VPN機器から社内への見慣れない通信、営業時間外の管理者アカウントによる探索行動(アサヒの事例で確認された動き)を、平常時の振る舞いとの差で検知。EDRは端末側で不審な動作を止める 侵害を受けた機器自身の点検ツールでは見抜けない場合がある(後述)。機器の外側からの観測を併用する必要がある
侵入後(広げない) ゼロトラスト型アクセス制御 誰が・どの端末で・どこからアクセスするかの文脈を見て許可や遮断を判断。アサヒはVPN廃止とゼロトラスト対応端末への移行を再発防止策として公表 既存のVPN環境からの移行には計画とコストが必要

経済産業省は「ASM導入ガイダンス」(2023年5月29日取りまとめ)を公表しており、外部公開資産の自動棚卸しの考え方を整理している(経済産業省、2023年5月29日)。CISAのKEVカタログは「脆弱性管理の優先順位付けの枠組みへの入力として使うべき」とCISA自身が述べている(CISA KEVカタログ、2026年10月時点で閲覧)。

AIの限界:過信が生む死角

CISAはIvantiの事例で、ベンダー提供の整合性チェックツール(ICT)の結果は「過去の侵害を示す信頼できる指標ではない」と明記している。攻撃者がファイルの上書き・タイムスタンプの改ざん・ランタイムパーティションの再マウントで機器を「クリーン」に見せかけたためである(CISA AA24-060B)。AI検知にも同種の死角があり得る。機器の外側であるネットワーク・ログの観測を必ず併用する。

また、Check Pointの事例が示すように、ベンダー公表の前から悪用が始まるケースがある。AIによる優先順位付けは公表された脆弱性にしか機能しないため、ゼロデイ攻撃への対応は検知体制に頼らざるを得ない。サポートが終了した機器は修正が提供されないため、AIでは対応不可能であり、入れ替え以外に選択肢はない(CISA BOD 26-02)。

AIセキュリティ対策全体の考え方についてはAIセキュリティ対策の解説を参照されたい。

AIだけに頼らない基本対策と導入の順番

導入の順番1公開している機器の棚卸しサポート終了の機器も把握2修正の適用と多要素認証悪用中の脆弱性を最優先3ログの取得とバックアップオフラインの控えも用意4異常検知(NDR・EDR)の導入平常時との差で見つける5ゼロトラスト型への移行を検討中長期の計画で進める
図:VPNの脆弱性への対策の導入の順番。

以下は、警察庁・JPCERT/CC・CISAの公的機関の推奨を組み合わせた対応の順序案である。公的機関が示した推奨の順序を参考に整理したものであり、個別の環境によって優先度は異なる。

  1. 外部に公開している機器の棚卸し:EOS機器の把握を含む。CISAはBOD 26-02で、サポート終了のエッジデバイスについて棚卸しと廃止のフローを示している。公開が不要なサービス・管理機能は停止する(JPCERT/CC JPCERT-AT-2026-0030)。
  2. 修正の適用・MFAの導入:CISAはIvantiの事例で既知の悪用脆弱性を優先して24〜48時間以内の適用を推奨している。すぐに適用できない場合はIKEv1の無効化などの軽減策を検討する(JPCERT/CC JPCERT-AT-2026-0016)。多要素認証の導入と、異動で使わなくなったIDの削除も同時並行で進める(警察庁リーフレット)。
  3. ログの取得とバックアップ:警察庁は、被害調査に不可欠なログの取得と、オフラインを含むバックアップの取得を未然防止・拡大防止の両方で挙げている。
  4. 異常検知(NDR・EDR)の導入:VPN機器からの不審な通信や、営業時間外の管理者権限による探索行動を平常時の振る舞いと比較して検知する体制を整える。アサヒはEDRの全PCとクラウドへの強化を再発防止策として公表している。
  5. ゼロトラスト型への移行の検討:VPN機器への依存度を下げ、アクセスの文脈による判断に移行する方向性を中長期計画として持つ。

SSL VPN機器からの外向き通信は必要なサービスに限定し、SSL VPN接続を特権のないアカウントのみに限定する。ADやLDAP連携のバインドアカウントは低権限にする。露出した可能性のある認証情報は侵害済みとみなしてリセットを検討する(CISA AA24-060B)。

よくある質問

VPN機器は危険なのか

危険というより、インターネットに公開されて狙われやすく、修正が遅れがちな点が問題である。警察庁のアンケートでは、ランサムウェア被害企業の侵入経路の62.2%がVPN機器であり、VPN機器を利用する組織の52%が最新パッチを未適用だった(警察庁リーフレット、令和8年1月)。

脆弱性が公表されたら、どれくらいの期限で直すべきか

CISAはIvantiの事例で、既知の悪用脆弱性を優先して24〜48時間以内の適用を推奨している。Check Pointの事例ではベンダー公表の前から悪用が観測されており(2026年5月7日)、公表を待って対応するだけでは間に合わない場合がある(JPCERT/CC JPCERT-AT-2026-0016)。

サポートが終わった機器はどうすればよいか

修正が提供されないため、入れ替えが必要である。CISAはEOSのエッジデバイスへの悪用の脅威は「大きく、常に存在する」としている(CISA BOD 26-02)。AIを含むいかなる検知ツールも、パッチがない機器の脆弱性そのものを解消することはできない。

多要素認証は必要か

警察庁のアンケートでは、社外からの業務アクセス時の認証方法としてID・パスワードのみとの回答が39.8%を占めた。警察庁は未然防止策として多要素認証の導入を明示している(警察庁リーフレット、令和8年1月)。認証の強化は、設定の不備を突く攻撃への直接的な対策になる。

VPNをやめるべきか

アサヒグループは再発防止策としてリモートアクセス用VPN機器の全面廃止とゼロトラスト型への移行を公表した。ただし、すべての組織が直ちにVPNを廃止する必要があるわけではない。使い続ける場合は修正の適用と多要素認証を徹底し、ゼロトラスト型への移行は計画を立てて進める。


参考文献

監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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