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サプライチェーン攻撃とは?種類・手口・事例と企業の対策【2026年版】

サプライチェーン攻撃対策:AIで防ぐ手順と2026年最新事例

目次

サプライチェーン攻撃とは?委託先・取引先・使っている部品を足掛かりにする攻撃

サプライチェーン攻撃とは、攻撃したい組織を直接狙わず、その組織が信頼してつながっている委託先・取引先、利用中のソフトウェアやライブラリ、クラウド事業者のうち、守りの弱い所を先に侵害して、そこから入り込む攻撃です。「サプライチェーン」とは、部品や原材料の調達から製品・サービスが利用者に届くまでの一連のつながりを指します。攻撃者は、標的組織の守りが堅くても、その組織が信頼して使っているものを先に汚染します。

国内でも重大な脅威として扱われています。IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編では、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃が2位(2019年初選出、8年連続8回目)に位置づけられました(2026年1月29日発表)。IPA

IPAの解説書は、商品の企画から開発・調達・製造・在庫管理・物流・販売までの一連のプロセスと、それに関わる組織や外部サービスをサプライチェーンと呼び、この「ビジネス上の繋がり」を悪用する攻撃には、取引先や委託先も含めた対策が必要だとしています。また、ライブラリ・ツール・開発者・インフラなど、ソフトウェア開発に関わる要素とその繋がりを「ソフトウェアサプライチェーン」と呼び、その繋がりを悪用する攻撃にも対策が求められるとしています。手口の一つとして、標的組織よりセキュリティが脆弱な国内外の関連会社や業務委託先を攻撃し、その組織が保有する標的組織の秘密情報等を窃取するものが挙げられています。IPA 10大脅威 2026 解説書

通常の侵入と違う点は、次の三つです。

  • 正規の経路で届く:利用者は正規の更新や取引先からの連絡を受け取っているだけなので、境界の防御では見つけにくくなります。
  • 自社の守りが堅くても入られる:入口は自社の外にある取引先や部品なので、自社だけの対策では塞げません。
  • 被害が自社の外へ広がる:自社が足掛かりにされると、取引先にも被害が及びます。

この記事では、手口の種類、狙われる理由、国内外の事例、被害のパターン、そして自社と取引先でできる対策の順に整理します。

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サプライチェーン攻撃の種類と手口:攻撃の流れと4つの類型

攻撃者は標的組織が「信頼している供給元」を先に侵害し、そこから正規のルートで悪意あるコードや不正アクセスを届けます。利用者側は正規の更新やライブラリを受け取っているに過ぎないため、一般的な境界防御では検知しにくいです。

攻撃者(脅威アクター)OSS/パッケージ(npm, xz utils 等)ソフトウェア更新(SolarWinds 等)クラウド事業者(IDCFクラウド 等)侵害標的組織(企業・行政機関等)正規経路で侵入情報漏えい/業務停止
図1:サプライチェーン攻撃の侵入経路。攻撃者はOSS・ソフトウェア更新・クラウド事業者を先に侵害し(赤矢印)、そこから標的組織へ正規の経路(青破線矢印)で悪意あるコードや不正アクセスを届けます。

セキュリティ各社は、攻撃の起点で三つに分けて説明することが多く、トレンドマイクロは「ソフトウェアサプライチェーン攻撃」(ソフトウェアの製造や提供の工程を侵害し、更新プログラムなどに不正コードを混入する)、「サービスサプライチェーン攻撃」(MSPなどのサービス事業者を侵害し、サービスを通じて顧客に被害を及ぼす)、「ビジネスサプライチェーン攻撃」(関連組織や子会社、取引先などを侵害し、業務上の繋がりを利用して標的組織へ攻撃する)と整理しています。トレンドマイクロ 確認された事例をもとに、この記事では手口をさらに細かく、次の4類型に整理します(①②がソフトウェア、③がサービス、④がビジネスの起点にほぼ当たります)。

サプライチェーン攻撃の主な手口と代表事例(2026年10月時点)
手口の類型 攻撃の仕組み 代表事例 出典
① ソフトウェア更新・ビルドの改ざん 正規の配布元を侵害し、悪意あるコードを含む更新を正規ルートで配布する SolarWinds Orion(2020〜2021年) CISA
② OSS・パッケージへのコード混入 広く使われるライブラリやレジストリに悪意あるコードを注入する xz utils CVE-2024-3094、npm Shai-Hulud(2025年9月) CISA(xz utils)、CISA(npm)
③ クラウド事業者の侵害による波及 クラウド基盤が攻撃を受け、そこを利用する組織のシステム・データが影響を受ける IDCFクラウドへのランサムウェア攻撃(2026年10月) IDCフロンティア第2報
④ 委託先・取引先経由の侵入 セキュリティ対策が相対的に弱い委託先・関連会社を踏み台にして標的組織へ侵入し、標的の秘密情報等を窃取する IPAが10大脅威2026の脅威名に「委託先を狙った攻撃」と明記しています。 IPA 10大脅威 2026

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サプライチェーン攻撃の侵入経路になりやすいもの・ならないもの

サプライチェーン攻撃の入口になるかどうかは、攻撃が標的に届くまでの道筋に、委託先・取引先・利用中の部品やサービスといった第三者が挟まっているかどうかで見分けられます。標的を直接狙う攻撃は、手口として一般的でも、サプライチェーン攻撃の入口には当たりません。

サプライチェーン攻撃の入口になりやすいものと、なりにくいもの
区分 例 見分けの理由
入口になりやすい 委託先・取引先・子会社のネットワークやアカウント 標的が信頼してつないでいる相手を先に侵害し、その接続を通って入る
入口になりやすい ソフトウェアの更新、OSS・パッケージ(npm、xz utils など) 正規の配布元から届く部品に悪意あるコードを混ぜ、利用者に取り込ませる
入口になりやすい 製品・部品(ハードウェアを含む)に悪意ある機能が組み込まれる、または偽造品が混じる NISTは、悪意ある機能を含みうる製品やサービス、偽造品、開発・製造の不備による脆弱性を、サプライチェーンのリスクとして挙げているNIST SP 800-161 Rev.1
入口になりやすい クラウド事業者・運用委託先(IDCFクラウド、Kaseya VSA など) 基盤側が侵害され、そこを使う組織に影響が広がる
なりにくい 標的組織の公開Webサイトへの直接の攻撃、標的の従業員に直接送るフィッシングメール 第三者を経由せず、標的に直接向けられている(別の手口として扱う)
なりにくい 標的組織の内部の人が自分の権限で行う不正 外部の取引先や部品を介していない(内部不正の問題)

ただし、同じ事件が複数の手口にまたがることはあります。たとえば取引先のアカウントが盗まれたあとにフィッシングで本命へ入る場合は、取引先を経由した時点でサプライチェーン攻撃として数えます。見分けに迷ったときは、「第三者を経由しているか」を確かめるとよいでしょう。

なぜ取引先・中小企業が入口になりやすいのか:経済産業省の調査

攻撃が取引先や部品に向かう理由は、IPAの解説書が端的に述べています。攻撃者は、強固な対策をしている標的組織に直接は攻撃せず、標的が関わるサプライチェーンの中で脆弱な部分を狙い、そこを経由して間接的・段階的に標的組織を攻撃します。このため、強固な対策をしている組織でも、関係組織や導入しているソフトウェアを足掛かりにされるおそれがあります。IPA 10大脅威 2026 解説書

攻撃者は、堅い標的を避けて、つながりの弱い所から入る委託先・取引先関連会社・子会社ソフトウェア提供元OSS・更新・配布サイトクラウド・MSP運用を任せている事業者標的組織(自社)対策は固いが、信頼してつないでいる①先に侵害する②正規のつながりを通って届く直接の攻撃は止まる
図:攻撃者は標的を直接攻撃せず、委託先・ソフトウェア提供元・クラウド事業者のうち弱い所を足掛かりにする(IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書」の整理をもとに作成)。

狙われる側の事情も、数字に表れています。

経済産業省は2025年2月19日、IPAを通じて実施した中小企業等の実態調査(令和6年10月〜12月、中小企業等4,191社の経営層へのウェブアンケートと21社へのヒアリング)の結果を公表しました。数字を並べると、対策が手薄な取引先が攻撃の入口になる理由が見えてきます。経済産業省(2025年2月19日)

中小企業等の実態調査(令和6年度)の主な結果
項目 結果
組織的なセキュリティ体制 約7割の企業が整備できていない
過去3期の情報セキュリティ対策投資 行っていない企業が約6割
不正アクセスされた企業の侵入の経路 48.0%が脆弱性を突かれ、他社経由での侵入も19.8%
インシデントの被害(平均) 被害額73万円、復旧まで5.8日
取引先への影響 サイバーインシデントがあった企業の約7割で取引先にも影響が及んだ
中小企業等の実態調査(経済産業省・2025年2月公表)組織的なセキュリティ体制を整備できていない企業約7割過去3期に情報セキュリティ対策投資を行っていない企業約6割サイバーインシデントがあった企業で取引先にも影響が及んだ割合約7割不正アクセスされた企業のうち、脆弱性を突かれた割合48.0%不正アクセスされた企業のうち、他社経由で侵入された割合19.8%
図:中小企業等4,191社の経営層へのアンケート(令和6年10〜12月)の主な結果。「約◯割」は公表資料の表記どおりで、棒の長さは概数。

経済産業省はこの連鎖を「サイバードミノ」と呼び、被害が取引先やその先の業務停止にまで広がる事態だと説明しています。IPAも2026年4月21日公開の資料で、対策が十分でない中小企業が攻撃の起点となり、取引先を含めた被害が生じる事例が顕在化していると述べています。IPA(2026年4月21日)

つまり、大企業が自社の守りを固めても、取引先のどこか一社が弱ければ、そこが入口になります。逆に中小企業の側から見れば、対策を行っていることが取引の信頼につながります。調査では、普段から対策投資を行っている企業の約5割が、取引につながったと答えています。

実際の事例:2024〜2026年の主な被害

IDCFクラウド(2026年10月):クラウド事業者侵害による495の企業・自治体への波及

2026年10月7日午前3時40分頃、IDCフロンティアが提供する「IDCFクラウド」の一部システムに第三者による不正アクセスが発生しました。東日本リージョン1でランサムウェア攻撃による障害が生じ、IDCFクラウドと契約する495の企業・自治体が影響を受けたとされる(IDCフロンティア第2報、2026年10月7日)。IDCフロンティア第2報

第3報(10月8日)では、東日本リージョン1の4ゾーンの顧客データは復元が困難な見通しが示され、復元は顧客自身のバックアップからのみ可能との見解が公表されました。IDCフロンティア第3報

この事案では利用組織側にも波及が生じました。JR東日本・ビューカード・JR九州などがメールアドレス等の漏えい可能性を公表した(いずれも「漏えいの事実は確認されていない」「閲覧・取得の可能性を否定できない」段階)。日水物流は17拠点で入出荷停止、茨城県・小平市などの自治体サイトにも影響が出た(2026年10月13日時点のまとめによる)。piyolog(2026年10月8日付、10月13日追記)

この事案が示す教訓は明確です。利用者側の設定や監視が適切であっても、クラウド事業者側が侵害されると、利用者単独では防ぎようのない被害が生じることがあります。自社バックアップの有無が、事業継続の可否を左右します。

主なサプライチェーン攻撃の年表2020〜21年SolarWinds Orion:正規の更新に悪意あるコード2021年7月Kaseya VSA:運用管理ソフトからMSPの顧客へ2022年3月トヨタ:仕入先1社の障害で国内全14工場が停止2024年3月xz utils:OSSに悪意あるコード(CVE-2024-3094)2025年9月npm Shai-Hulud:500超のパッケージが侵害2025年11月東海ソフト開発:委託先のランサム被害が委託元へ2025年12月EmEditor:公式サイトのリンクを改ざん2026年10月IDCFクラウド:495の企業・自治体に影響
図:本記事で扱う主な事例の年表(各事例の出典は、事例の節の脚注を参照)。

トヨタ自動車と仕入先(2022年3月):取引先1社のシステム障害で国内全14工場28ラインが停止

トヨタ自動車は2022年3月1日、国内の仕入先である小島プレス工業のシステム障害の影響で、国内全14工場28ラインの稼働を停止していると発表しました。翌3月2日の1直から全ラインの稼働を再開することも同日に決めています。トヨタ自動車(2022年3月1日) 自社が攻撃されていなくても、取引先1社の障害で生産が止まりうることを示す国内の事例です。

Kaseya VSA(2021年7月):運用管理ソフトの脆弱性から、複数のMSPとその顧客へ

CISAとFBIは2021年7月4日、Kaseya VSAソフトウェアの脆弱性を利用したサプライチェーン型のランサムウェア攻撃が、複数のマネージドサービスプロバイダ(MSP:顧客のシステム運用を請け負う事業者)とその顧客に影響していると発表しました。CISA・FBI(2021年7月4日) 運用を任せている事業者のソフトウェアが入口になるため、利用側は自分で何も操作していなくても被害を受けることがあります。

CISAとFBIが示した顧客向けの対策は、組織のネットワークから切り離した場所に最新のバックアップを保管すること、ベンダーの手順に従った修正の適用、多要素認証の導入、重要な管理者アカウントへの最小権限の適用です。

東海ソフト開発(2025年11月):業務委託先のランサム被害が、委託元各社の個人情報漏えいに波及

IPAの解説書によると、2025年11月に東海ソフト開発でランサムウェア被害が発生し、同社に業務を委託していた複数の企業が保有する個人情報が漏えいしました。その一部と思われる情報がダークウェブ上で公開されていると同社が公表し、委託元の各社も、ランサムウェア被害に遭ったことを順次公表しました。IPA 10大脅威 2026 解説書 委託元の自社に侵入されていなくても、預けた情報を委託先で奪われれば、委託元の責任で説明と対応を迫られます。

EmEditor(2025年12月・2026年1月):公式サイトのダウンロードリンクの改ざん

Emurasoft社は、2025年12月と翌1月に、EmEditorの公式サイトでインストーラーのダウンロードリンクが改ざんされ、偽のインストーラーが配信されるインシデントが発生したと公表しました。実行したユーザーは、本来とは異なるWebサイトへ誘導されてマルウェアに感染させられ、パスワード等の情報が窃取されるおそれがありました。同社は一時的にすべてのサイトを閉鎖し、改ざんのおそれがない静的サイトを構築して対処しました。IPAの解説書は、この例と東海ソフト開発の例を、委託先管理とソフトウェア供給網の両面でリスクが現実になった事例として挙げています。IPA 10大脅威 2026 解説書 正規の配布元から取得しても、入手の経路そのものが改ざんされることがあります。

npm Shai-Hulud(2025年9月):500超のパッケージを巻き込んだ自己増殖型ワーム

CISAは2025年9月23日、npmエコシステムへの広範なサプライチェーン侵害として「Shai-Hulud」への注意喚起を公表しました。500超のパッケージが侵害され、感染後は環境内を走査してGitHubのパーソナルアクセストークン(PAT)、AWS・GCP・Azureのクラウド用APIキーなど機密認証情報を収集し、攻撃者管理の先へ送信します。さらに侵害された開発者としてnpmに認証し、他のパッケージにコードを注入して改ざん版を公開することで感染を拡大する仕組みです。CISA(2025年9月23日)

xz utils CVE-2024-3094(2024年):Linuxの圧縮ライブラリへの悪意ある混入

XZ Utilsのバージョン5.6.0と5.6.1に悪意あるコードが組み込まれていると報告された(CVE-2024-3094)。XZ UtilsはLinuxディストリビューションに含まれうるデータ圧縮ソフトウェアであり、影響システムへの不正アクセスにつながるおそれがあるとされました。CISAは5.4.6 Stableなど侵害されていないバージョンへのダウングレード、悪意ある活動の調査、問題発見時のCISAへの報告を推奨しました。CISA(2024年3月29日)

SolarWinds Orion(2020〜2021年):政府・重要インフラを標的にした高度なAPT攻撃

CISAは、SolarWinds Orionのソフトウェアサプライチェーンが高度な持続的脅威(APT)の攻撃者に侵害されたとして緊急指令(ED 21-01)を発令し、連邦民間機関にSolarWinds Orion製品の即時切断または電源停止を求めました。対象は連邦・州・地方政府、重要インフラ事業者、その他の民間組織に及びます。2021年1月6日の補足ガイダンスでは影響機関にフォレンジック分析を要求し、検出用ツールCHIRPを公開しました。FBI、ODNIと共同でCyber Unified Coordination Groupも結成されました。CISA「Supply Chain Compromise」(2021年1月7日)

事例から見える被害のパターン:自社が攻撃されなくても起きること

上の事例を被害の種類で並べると、自社のシステムが直接攻撃されていなくても、次のような被害が起きうることが分かります。

サプライチェーン攻撃の被害のパターンと、本記事の事例
被害の種類 起きること 本記事の事例
生産・出荷の停止 取引先1社の障害や、利用しているクラウドの停止で、自社の工場や物流が止まる トヨタ自動車と仕入先(2022年3月)、日水物流(IDCFクラウド)
個人情報・メールアドレス等の漏えい 預けた情報が委託先から奪われ、委託元が説明と対応を迫られる 東海ソフト開発(2025年11月)、IDCFクラウドを利用していた企業の公表
データの喪失 クラウド事業者側の障害で、利用者自身のバックアップがないと復元できない IDCFクラウド(2026年10月)
端末の感染・認証情報の窃取 正規の更新、公式サイトのリンク、OSSの部品に悪意あるコードが混ざる EmEditor、npm Shai-Hulud、xz utils
政府機関・重要インフラへの波及 広く使われる管理ソフトが侵害され、利用する機関に緊急の対応が求められる SolarWinds Orion、Kaseya VSA

2026年に入ってからの国内外の被害を、サプライチェーン攻撃以外の手口も含めて確認したいときは、AIハッキングと情報漏洩の被害一覧があります。

足掛かりにされた側の責任:取引停止・損害賠償・報告義務と、契約・保険

自社が取引先から入られる側であるだけでなく、自社が攻撃の足掛かりにされる側にもなりることがあります。IPAの解説書は、攻撃の足掛かりにされた組織は取引先に損害を与えることになり、取引停止や損害賠償を求められることもあると述べています。IPA 10大脅威 2026 解説書 責任の範囲は、事前の契約でほぼ決まります。

個人データが漏れたとき、委託元にも動きが生じる攻撃・漏えいが発覚する速報発覚後3〜5日以内確報30日以内(不正目的は60日)個人情報保護委員会への報告の期限(報告義務の対象となる事態の場合)あわせて、本人への通知と、取引先・委託元への連絡も必要になる
図:個人情報保護委員会への漏えい等報告の期限(個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」)。
責任とリスクに備える項目
項目 備え方
契約 組織間の取引や委託契約で、情報セキュリティ上の責任範囲を明確にし、合意を得ます。賠償に関する契約条項を盛り込みます。委託元が委託先の対策状況と情報資産の管理の実態を、定期的に確認できる契約にするIPA
報告 個人データの漏えい等が報告義務の対象となる場合、個人情報保護委員会への報告は、発覚後、速報を3〜5日以内、確報を30日以内(不正の目的で行われたおそれがある事態は60日以内)に行います。報告書の様式には、委託元と委託先の有無を記入する欄がある個人情報保護委員会
サイバー保険 事故対応費用、損害賠償費用、利益損害・営業継続費用に備える手段の1つです。補償内容は保険会社とプランで異なります。日本では、ランサムウェア被害で支払った身代金は、サイバー保険の対象にならないIPA
外部認証 ISMS、プライバシーマーク、SOC2などの外部認証の取得と、外部レビューを受けることを、取引先と共に進める対策としてIPAが挙げているIPA

サプライチェーン攻撃の対策:全体像と、自社で進める順番

サプライチェーン攻撃への対策は、自社の守りと、取引先・委託先の管理の両方で進めます。自社だけで固めても、入口が取引先や部品にあるためです。

対策の要点は三つあります。第一に、自社が使っている部品(ソフトウェア・ライブラリ・クラウド)を棚卸しして、安全な版に固定すること。第二に、開発者・管理者のアカウントを多要素認証で守り、データは自社でもバックアップしておくこと。第三に、取引先・委託先と、守る対策と事故時の報告を取り決め、評価項目で定期的に確かめることです。AIは、通信やログの異常を人より早く見つけ、部品一覧(SBOM)と脆弱性情報の照合を自動にする補助であり、正規の配布元から届く改ざんを単独で止めきれるわけではありません。以下では、対策を進める順番、取引先の確認のしかた、ソフトウェアの供給網を守る方法、事故が起きたときの体制の順に整理し、AIが役立つ場面と限界は後半にまとめます。

自社でまず進める対策と導入の順番

導入の順番1部品の棚卸し(SBOM)入れ子の依存まで把握2開発者アカウントの保護多要素認証と認証情報の更新3安全な版に固定し通信を監視不審な外向き通信を止める4クラウドのデータを自社で控える事業者の障害に備える5取引先の対策を確認する契約で報告の義務も決める
図:サプライチェーン攻撃への対策の導入の順番。

CISAはnpm Shai-Hulud事案への対応で、組織がとるべき具体的な対策を示しています。CISA(2025年9月23日) これを踏まえ、実施の順番を以下に整理します。

  1. 使っている部品・パッケージの棚卸し(SBOM):lockファイルから入れ子の依存関係まで影響パッケージを特定し、キャッシュ済みパッケージも確認します。CISAはSBOMに最低限含めるべき要素をまとめたガイダンスを公表しています。CISA SBOM
  2. 開発者・管理者アカウントの多要素認証と認証情報の管理:GitHubやnpmでフィッシング耐性のある多要素認証を必須化し、開発者の認証情報をローテーションします。不要なGitHub AppsやOAuthアプリを削除し、ブランチ保護ルール・Secret Scanning・Dependabotのセキュリティ更新を有効化します。
  3. 安全なバージョンへの固定と不審な通信の監視:パッケージを安全が確認されたバージョンに固定し、異常なネットワーク動作と不審ドメインへの外向き通信を監視します。ファイアウォールログを定期確認します。
  4. クラウド上データの自社バックアップ:IDCFクラウドの事案が示すとおり、クラウド事業者側の障害でデータ復元が利用者自身のバックアップに依存する事態が現実に起きました。クラウドサービスのデータを自社でバックアップしておくことは、事業継続の前提条件といえます。
  5. 取引先の対策状況の把握:経済産業省とIPAは、取引先のセキュリティ対策の状況を共通の基準で段階的に見える化する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」を整備しています。確認する項目は、本記事の評価チェックリストにまとめました。IPA SCS評価制度

経済産業省とIPAの「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0」(2023年3月)は、取引先や委託先を含むサプライチェーン全体の対策を、経営者が担当者に指示すべき項目に挙げています。ソフトウェアや製品を提供する側は、脆弱性の報告を受けて対応する窓口(PSIRT)を置き、利用者へ速やかに知らせる体制を整えておきます。

CISAは別資料「Defending Against Software Supply Chain Attacks」で、利用者とベンダーの双方がNISTのC-SCRMとSSDFを使ってリスクを特定・評価・低減する方法を示しています。CISA「Defending Against Software Supply Chain Attacks」

自社の基本対策:今日から見直せる8項目

導入の順番に沿った対策のほかに、日常の衛生管理として次の項目を見直します。どれも、取引先から入られた場合の被害を小さくする役目も持ちます。

サプライチェーン攻撃に備える自社の基本対策
項目 やること 狙い
更新の管理 OSとソフトウェアを最新に保ちます。ただし、更新元が改ざんされる場合に備え、安全が確認された版に固定する運用も併用する 既知の弱点を残さない
EDR・ウイルス対策 端末とサーバーに、不審な動作を検知して止める製品を入れる 入られた後の拡大を抑える
パスワードと多要素認証 推測されにくいパスワードにし、重要な管理画面とクラウドに多要素認証を必須にする 盗まれた認証情報での侵入を防ぐ
権限とデータ共有範囲 取引先に渡すアカウントとデータを必要最小限に絞り、定期的に見直す 踏み台にされても届く範囲を狭める
従業員教育 不審なメールや依頼への対応を、定期的な訓練で確認する 取引先を装う連絡に気づく
未承認サービスの把握 社員が個別に使っているクラウドやアプリを洗い出し、承認したものだけに絞る 把握できない接続を減らす
脆弱性診断 公開しているサーバー、機器、アプリを定期的に診断し、弱点を先に見つける 入られる前に塞ぐ
ログの監視 外向き通信やログインのログを残し、異常を見られる体制をつくる 侵入に早く気づく

全項目を同時に始める必要はありません。何を優先するかは、(1) 取引先に渡している情報の重要度、(2) 外部とつながる接続の数、(3) 自社で動かせる人手と費用で決めます。まずは棚卸し、多要素認証、バックアップの3点から着手し、残りを順に足していく進め方が現実的です。費用の面で難しい中小企業は、経済産業省が案内する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」のように、必要な対策をまとめて安価に導入できる仕組みも使えます。

取引先・委託先の管理:求める対策と、確認のしかた

自社の対策だけでは、取引先から入られる経路は塞げません。取引先・委託先については、次の順で決めておくと、事故が起きたときに連絡と対応が遅れにくくなります。以下は実務での確認項目の例で、制度や契約の細部は、自社の法務や経済産業省・IPAの公式案内で確認してください。

  1. 取引先の一覧と、渡している情報・接続の洗い出し:どの会社に、どんなデータを渡し、どのネットワークやアカウントでつないでいるかを一覧にします。再委託先がある場合は、そこまで含めます。
  2. 守ってもらう対策を契約や取り決めに書く:多要素認証、ソフトウェアの更新、バックアップなど、最低限の対策を文書にします。
  3. 事故が起きたときの連絡先・期限・手順を決める:取引先で不正アクセスやウイルス感染が疑われたとき、いつまでに誰へ報告するかを決めます。
  4. 定期的に確認する:対策状況の確認を年1回などの頻度で行います。経済産業省とIPAは、取引先の対策状況を共通の基準で見える化する「SCS評価制度」を整備しており、確認する項目は次の節で整理します。IPA SCS評価制度
  5. つないでいる範囲を絞る:取引先に与えるアカウントの権限と、接続できるシステムを必要な範囲に限ります。

取引先が中小企業で、何から手を付ければよいか分からない場合は、経済産業省が案内する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」のように、必要最低限の対策を安価にまとめて導入できる仕組みがあります。同省の調査では、導入企業の5割以上が導入は容易と答え、3割以上が費用対効果を実感しています。経済産業省(2025年2月19日)

取引先・委託先のセキュリティ評価チェックリスト:何を、どの基準で確認するか

取引先を評価するときに困るのは、「何を聞けば十分か」が決まっていないことです。IPAが運営するSCS評価制度は、その物差しになります。IPAは2026年4月21日に、★3と★4の要求事項と評価基準を公開しました。★3は一般的なサイバー脅威への対処を水準とし、専門家確認付きの自己評価で、有効期間は1年。★4は被害拡大の防止まで求め、評価機関の審査と技術検証を受けて、有効期間は3年です。IPA SCS評価制度 制度の運用開始前でも、要求事項は、自社が取引先に確認するチェックシートを作るときの項目の元として使えます。

SCS評価制度:★3と★4の要求事項の数★3:専門家確認付き自己評価(有効期間1年)26件★4:第三者評価と技術検証(有効期間3年)43件
図:IPAが2026年4月に公開した「要求事項・評価基準」の要求事項数。★4は★3の要求事項をすべて含む(IPAのSCS評価制度ページ)。

評価の要求事項は、IPAの「要求事項・評価基準」(Excel)にまとまっています。取引先に確認する主な項目を、分野ごとに整理します。IPA 要求事項・評価基準

取引先・委託先に確認する主な項目(SCS評価制度の要求事項から。★は求める段階)
分野 確認する項目 段階
体制と守秘 セキュリティを統括する役員と担当部署の役割・責任、平時の連絡先リストが定められているか。守秘義務のルールを定め、機密を扱う人に誓約書を出させているか ★3・★4
取引先の管理 取引先との間で機密情報の定義・利用制限・返還または廃棄を取り決めているか。取引先自身が、その先の取引先(再委託先にあたる)に対しても、同じ取り決めと確認をしているか ★3・★4
インシデント時の役割 事故が起きたときの、自社と取引先の役割・責任を決めているか ★3・★4
対策状況の把握と契約終了時 機密の提供や事業継続に関わる取引先の対策状況を、年1回以上、★の取得状況の回答・訪問点検・チェックシートのいずれかで把握しているか。契約終了時に、機密情報とアクセス権が回収・破棄されたことを確認する手順があるか ★4
アカウントと多要素認証(MFA) ユーザIDの発行・変更・削除が申請・承認制か。退職時など不要になったIDを速やかに削除しているか。管理者IDを限定して最小限の権限にしているか。重要な機密を扱うクラウドサービスは、常に多要素認証を使っているか ★3・★4
パスワード 初期パスワードの変更、推測されやすい語の禁止、使い回しの禁止のルールを定めて周知しているか ★3・★4
脆弱性の管理(脆弱性診断を含む) 脆弱性情報の収集から対応まで担当部署と手順があるか。公開している機器の脆弱性の残存状況を把握しているか。インターネット境界の機器が、CVSS基本値7.0以上の脆弱性を持たない状態か。更新プログラムは公開から14日以内に適用しているか 更新14日:★3・★4/脆弱性の管理体制と境界機器:★4
ネットワークの防御と検知 ファイアウォールの管理パスワードの変更、認証されていない外からの通信の遮断、不要なルールの削除をしているか。不正アクセスをリアルタイムに検知・遮断する仕組みがあるか ★3・★4
ログ ファイアウォール、プロキシ、認証サーバのログを6か月保管し、認証サーバのログを月1回以上確認しているか ★4
バックアップと復旧 取得対象・頻度・保管期間を決めてバックアップしているか。重要な機密は遠隔地にも保管し、復元手順書があるか。事業上重要なシステムの復旧準備をしているか ★3・★4
インシデント対応 発見報告・初動・調査・復旧・最終報告の手順、社内外の連絡先、報告フォーマットがあるか ★3・★4
クラウド等の外部サービス 機密を扱う外部サービスについて、利用の要件を定め、提供事業者と機密の取扱いを合意しているか ★3・★4

★4では、実地審査に加え、インターネットに公開している機器のうち侵入されると内部に入られるリスクが高いもの(VPN装置・ルータなど)に対して、既知の脆弱性の悪用など一般的な攻撃パターンを試す技術検証も行われます。IPA SCS評価制度 取引先に脆弱性診断を求めるときは、同じ対象(VPN装置・ルータなど)を優先して見るとよいです。

確認の流れは次のとおりです。全取引先に同じ重さで求めると回らないため、IPAの要求事項が示す条件(自社の重要な機密を渡す、事業継続にとって重要、取引先の環境から自社の内部システムにアクセスできる)のいずれかに当てはまる取引先から始めます。IPA 要求事項・評価基準

取引先評価の流れ1取引先を洗い出す渡す情報と接続を一覧にする2対象を絞る機密提供・事業継続・内部接続3チェックシートを送るMFA・脆弱性・バックアップ等4結果を評価する不足は是正を依頼する5年1回以上、確かめ直す契約終了時は回収も確認
図:取引先の対策状況を確かめる流れ(SCS評価制度の要求事項2-1-3・2-1-5をもとに作成)。

自社の取引先を評価するときの把握方法も、IPAの要求事項が3つ例示しています。「★の取得状況の回答を受け取る」「取引先に訪問して点検する」「セキュリティ対策チェックシートを作って回答を受け取る」です。運用開始の時期や評価機関の要件は、IPAが2026年度の公表予定を示している段階であり、IPAは解説書を2026年10月頃に公開するとしています。最新の状況は、IPAのSCS評価制度のページで確認してください。

取引先を装うメールと、公開機器の弱点:メール対策と脆弱性診断

取引先からの連絡は、疑いにくいです。取引先を装うなりすましのメールや、乗っ取られた取引先のアカウントから届くメールは、添付ファイルやリンク、口座変更の依頼を通して被害につながります。仕組みはビジネスメール詐欺(BEC)やフィッシングと同じで、取引先の名前を借りて届く点が違います。取引先経由の対策として確認する項目は次のとおりです。

取引先を装う連絡は、メールとファイルを通って届く偽の取引先なりすましメール担当者添付ファイル・リンク・口座変更依頼被害感染・認証情報の窃取・誤送金メールの検査マルウェア・不正サイトファイルの確認受け取ったファイルを検査確認手順別経路で依頼を確かめる
図:取引先を装うメールが被害につながる経路と、途中で止める対策。
メールと公開機器に関する確認項目(SCS評価制度の要求事項から)
分野 確認する項目 段階
メールの検査 メールゲートウェイやメールサーバでマルウェアのチェックをします。不正なWebサイトへのアクセスを制限する ★4
受け取ったファイル 外部から受け取ったファイルは、マルウェア対策ソフトのリアルタイムスキャン、または仮想環境で安全性を確認する ★4
取引先との情報のやり取り 取引先との情報共有と送信のルールを定めて周知します。依頼を受けたときの確認手順(口座の変更依頼は、既知の連絡先に別の経路で確認する、など)は、自社で決めておく実務の例だ ★4(ルール)
教育と訓練 経営層を含むすべての要員にセキュリティの意識向上の教育を行い、インシデント発生時の対応の教育・訓練も行う 教育・訓練:★3・★4
脆弱性診断(公開している機器の確認) ネットワークと機器を把握し、脆弱性情報の収集から対応まで担当部署と手順を決めます。公開機器の脆弱性の残存状況を把握し、更新プログラムは公開から14日以内に適用します。インターネット境界の機器は、CVSS基本値7.0以上の脆弱性を持たない状態にする 更新14日:★3・★4/その他:★4

脆弱性診断の対象は、攻撃者から見える機器から決めます。SCS評価制度の★4の技術検証が、VPN装置やルータを対象にしているのは、侵入されると内部へ入られるリスクが高いからです。IPA SCS評価制度 VPN機器のように外部に公開している機器の弱点は、VPNの脆弱性を狙う侵入の典型です。使っている製品が、公開された脆弱性の対象かどうか判断がつかないときは、脆弱性の監視サービスに製品名と版を伝えれば、公開情報にもとづく確認とお知らせを受けられます(お客様のシステムの操作や、侵入を試す診断は行いません)。IPA 要求事項・評価基準

ソフトウェアと製品の供給網を守る:SBOM・SCA・SLSAと調達

ソフトウェアや製品を「作る側」と「使う側」の両方に、部品の出どころを確かめる対策があります。攻撃が確認された場所と対策を、供給網の順に整理します。

ソフトウェアの供給網のどこが狙われるかソース・部品ビルド配布取り込み運用OSS・部品に混入xz utilsnpm Shai-Hulud更新に混入SolarWinds Orion配布元の改ざんEmEditor公式サイト運用を任せた事業者Kaseya VSAIDCFクラウド対策:部品の棚卸し(SBOM)・安全な版への固定・署名の確認・ビルドの改ざん防止(SLSA)
図:ソフトウェアの供給網(開発から運用まで)のうち、攻撃が確認された場所と事例。
ソフトウェアと製品の供給網を守る仕組み
仕組み 何をするか 主な対象
SBOM(ソフトウェア部品構成表) ソフトウェアに組み込まれた部品の一覧を作り、脆弱性情報と突き合わせます。IPAの解説書が納品物の検証として導入の検討を示し、経済産業省が手引を公開している経済産業省 作る側・使う側
SCA(ソフトウェア構成分析) 利用しているOSSなどの部品を自動で洗い出し、既知の脆弱性を確認します。SBOMの作成や照合に使われる一般的な手法 作る側
SLSA 段階的に導入できるサプライチェーンセキュリティのガイドラインで、ソースからバイナリまでの扱いを追跡し、ソース管理の後の改変や、想定外のビルド基盤での成果物の作成などの改ざんから守ることを目指します。v1.0はビルドの段階(Level 1〜3)を扱い、ソースや依存関係への不正な変更は将来の対象とされているSLSA 作る側
製品・ハードウェアの調達 納品物に組み込まれているソフトウェアやハードウェアを把握して脆弱性対策を行います。調達先や委託先は、契約時に取引先の規則を確認し、信頼性評価(ISMAPなど)や品質基準を踏まえて、複数の候補から選ぶIPA NISTは、悪意ある機能を含みうる製品、偽造品、開発・製造の不備による脆弱性も、供給網のリスクとして挙げているNIST SP 800-161 Rev.1 使う側(調達)
ファイルの権限管理(IRM) 取引先に渡すファイルに、閲覧・編集・印刷などの権限を付け、渡した後も制御します。取引先で複製や転送をされても、権限で制限できる 情報を渡す側
業界の基準 防衛産業サイバーセキュリティ基準(防衛装備庁、2022年4月整備、2023年度から適用)は、米国のNIST SP 800-171を参考にし、契約の特約事項として、保護すべき情報を扱う下請企業も対象とするScanNetSecurity 自動車産業では、日本自動車工業会(JAMA)のガイドラインがある 業界ごと

使う側は、自社の取引先が作るソフトウェアについても、部品の一覧と更新の手順を求められます。作る側は、部品を一覧にし、ビルドと配布の経路を保護して、外部から脆弱性の報告を受ける窓口(PSIRT)を置きます。

ゼロトラスト・EDR/XDR・SASE:取引先経由の侵入に、どう効くのか

取引先や委託先のアカウント、接続、ソフトウェアが乗っ取られると、「正規のつながり」を通って入られます。そのため、つながりを前提に信頼する守り方を見直す考え方と、入られた後に早く見つける製品が使われます。名前は多いが、役割は次のように整理できます。以下は一般的な説明で、特定の製品の仕様ではありません。

「つないだら信頼する」から「毎回確かめる」へ境界型の守り社内ネットワーク一度入ると広く動ける取引先の接続も社内扱い乗っ取られると素通りゼロトラストの考え方業務システム毎回認証ファイル許可した人だけ接続元の人・端末・状況を確認必要な資源にだけ許可する
図:境界型の守りとゼロトラストの考え方の違い(NIST SP 800-207の説明をもとに作成)。
取引先経由の侵入に備える仕組みと役割
仕組み 何をするか サプライチェーン攻撃への効き方
ゼロトラスト NISTは、防御を広いネットワーク境界から、個々のリソース(システムやデータ)に絞り込む考え方だと説明しているNIST 場所に関係なく、アクセスのたびに本人・端末を確認し、必要な資源にだけ許可する 取引先の接続や、盗まれた正規アカウントでも、入ってから広く動けないようにします。権限を最小にし、重要なサーバを専用のネットワークに分ける対策と合わせる
EDR/XDR EDRは端末(パソコン・サーバ)の動作を監視し、不審な挙動を検知して止めます。XDRはその範囲を、メール・ネットワーク・クラウドなど複数の層に広げ、まとめて分析する 正規の更新や取引先の接続に紛れて入った不審な動作を、入った後に見つけます。SCS評価制度の要求事項では、マルウェア対策ソフトの導入とソフトウェアの挙動監視が該当する
SASE Webの閲覧制御やゼロトラスト型のアクセス制御などのセキュリティ機能と、ネットワーク接続を、クラウドで一体に提供する考え方 拠点・在宅・取引先からの接続を一つの入口にまとめ、同じ基準で確認できます。導入は、自社のネットワーク構成を見てから決める
ネットワークの監視 社内外の境界や端末で、不正アクセスをリアルタイムに検知・遮断し、ログとアラートを分析する 外部へのデータ送信や、不審な接続を早く見つけます。SCS評価制度では★3の水準で求められる

ゼロトラストやSASEは、製品を1つ入れれば完成するものではありません。取引先経由の被害を小さくする順番は、まず棚卸しと多要素認証、権限の絞り込み、バックアップであり、その次にEDRなどの検知を重ねます。AIが補える部分は、後半の「AIで補う方法」で扱います。

インシデント対応の体制をつくる:CSIRTとPSIRTの決めごと

取引先から入られたとき、被害の大きさを左右するのは、気づいてからの動きです。IPAの解説書も、経営者層が行う対策の最初に「インシデント対応体制の整備」を挙げています。IPA 10大脅威 2026 解説書 社内のセキュリティ事故に対応するチームをCSIRT、自社が提供する製品・サービスの脆弱性に対応するチームをPSIRT(Product Security Incident Response Team)と呼びます。JPCERT/CCの実態調査では、CSIRTの構築を検討する際に決めておくべき項目として、次の6点が挙がっています。ScanNetSecurity(JPCERT/CC調査)

CSIRT構築時に決める6項目と、対応するSCS評価制度の要求事項
決める項目 決める内容 対応する要求事項(SCS評価制度)
サービス範囲 どの種類の事象に対応するか。インシデントのレベルごとに対象範囲を分ける 5-2-1 インシデントのレベルごとの対象範囲(★4)
権限 被害を止めるために、誰がどこまで判断・指示できるか 6-1-1 役員・担当部署の役割・責任
配置部署と構成メンバー 統括する役員、担当部署、各部門の担当者 1-2-1 セキュリティ推進活動部門
連絡窓口 社内外の連絡先(関係当局・所管省庁を含む)と、取引先との連絡ルート 6-1-1 連絡先と報告・情報共有ルート
報告体制 報告フォーマットと、経営層への報告の流れ 6-1-1 報告フォーマットの整備
活動の定期的な見直し 体制の点検、事例と対応策の社内共有 6-1-1 年1回以上の点検と事例共有
インシデント対応の5段階1①発見報告気づいた人が窓口へ連絡する2②初動被害の拡大を止める3③調査・対応原因と影響の範囲を調べる4④復旧事業上重要なシステムから戻す5⑤最終報告経営層へ報告し、事例を社内に共有
図:セキュリティインシデントへの対応手順(SCS評価制度の評価基準6-1-1-1に示された5段階)。

SCS評価制度の★3の水準でも、インシデント対応の手順(発見報告・初動・調査と対応・復旧・最終報告)、連絡先、役割・責任、報告フォーマットを定め、体制を年1回以上点検することが求められます。IPA 要求事項・評価基準 専任の部署がなくても、これらを文書にして、取引先との連絡ルートまで決めておくことが、最初の一歩になります。

ソフトウェアや製品を提供する側は、PSIRTの役目を持つ窓口を置きます。外部から脆弱性の報告を受け付け、影響を調べ、利用者へ速やかに知らせる流れを決めておきます。提供する側が連絡できなければ、利用する側(取引先)は、攻撃に気づく手段を持ちません。納品物に組み込まれているソフトウェアの把握には、SBOM(ソフトウェア部品構成表)の導入をIPAの解説書が検討するよう示しており、経済産業省がSBOMを使った脆弱性管理の手引を公開しています。経済産業省

対策を進める際の注意点:優先順位・IT部門だけに任せない・費用

対策の項目は多いため、進め方を誤ると途中で止まります。次の3点に注意します。

対策を進めるときの3つの注意点1全取引先を同じ重さで始めない2IT部門だけに任せない3費用は段階を分けて考える
図:優先順位、体制、費用の3つの注意点。
  1. 全取引先を同じ重さで始めない:機密を渡している、事業継続に重要、取引先の環境から自社の内部システムに入れる、のいずれかに当てはまる取引先から確認します。残りは、重要度に応じて頻度と深さを変えます。IPA 要求事項・評価基準
  2. IT部門だけに任せない:IPAの解説書は、経営者層が、インシデント対応体制の整備、サイバー保険の検討、予算の確保、脅威インテリジェンスの推進に取り組むことを挙げています。IPA 10大脅威 2026 解説書 SCS評価制度の要求事項も、セキュリティリスクは経営に重大な影響を及ぼすことを前提に、経営層が参加する委員会などで経営判断ができる体制を置くことを求めています。IPA
  3. 費用は段階を分けて考える:★3に当たる基本の対策から始め、取引先との関係で必要になったら★4に進みます。★3は専門家確認付きの自己評価で、有効期間は1年、★4は第三者評価で3年です。IPA SCS評価制度 費用の面で難しい中小企業は、先に触れた「サイバーセキュリティお助け隊サービス」も使えます。

参考にできるガイドラインと制度

取引先を含めた対策の考え方は、国内外のガイドラインにまとまっています。自社の体制づくりや、取引先への要請の根拠として使えます。

サプライチェーン対策で参照できる主なガイドライン
ガイドライン 示している内容
サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0(経済産業省・IPA、2023年3月) 取引先や委託先を含むサプライチェーン全体の対策を、経営者が担当者に指示すべき項目に挙げている
NIST サイバーセキュリティフレームワーク(CSF)2.0(2024年2月26日) 新たに加わったGOVERN(統治)機能の中に、サプライチェーンのリスク管理(GV.SC)のカテゴリがあり、管理のプロセスを特定・確立・運用・監視・改善することを求めているNIST CSWP 29
NIST SP 800-161 Rev.1(2022年5月公表、2024年11月に更新版へ置き換え) 組織のあらゆる階層で、サプライチェーン全体のサイバーセキュリティリスクを特定・評価・軽減するための指針を示しているNIST CSRC
CISA「Defending Against Software Supply Chain Attacks」 利用者とベンダーの双方が、C-SCRMとSSDFを使ってリスクを特定・評価・低減する方法を示している
SCS評価制度(経済産業省・IPA) 取引先の対策状況を共通の基準で段階的に見える化する制度。IPAが運営し、2026年4月21日に★3(26要求事項)と★4(43要求事項)の要求事項・評価基準を公開しました。★5は検討中IPA
情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書(IPA、2026年1月) 委託先・取引先の管理として、信頼できる委託先の選定、責任範囲と賠償を明記した契約、委託先の対策状況を定期的に確認できる契約、納品物の検証(SBOM)、委託先・取引先のIDとネットワーク接続の把握を挙げているIPA
外部委託等における情報セキュリティ上のサプライチェーン・リスク対応のための仕様書策定手引書(国家サイバー統括室) IPAの解説書が、公的機関が公開している資料として紹介している国家サイバー統括室

AIで補う方法:段階ごとの仕組みと貢献できる領域

AIが働く4つの段階1依存関係の把握SBOMと脆弱性情報を自動で照合2外向き通信の監視NDR・UEBAで不審な送信を検知3認証情報の異常利用ITDR・UEBAでいつもと違う利用を検知4パッケージの改ざん確認ハッシュと署名を自動で検証
図:サプライチェーン攻撃に対して、AIが働く4つの段階。

AIセキュリティには、AIを守る・AIで守る・AIに攻められるという三つの見方があり、ここで扱うのは「AIで守る」側です。サプライチェーン攻撃は、人手では追いきれない数の部品・通信・ログの中に紛れ込みます。そこで、CISAがnpm事案で推奨した検知・監視の対策を、AIを使う一般的な仕組み(SBOM管理ツール・NDR・UEBA・ITDR・EDR)に当てはめると次のようになります。AIの役割は、異常を人より早く見つけて知らせ、照合を自動にすることです。

サプライチェーン攻撃対策の段階とAIが貢献できる領域(2026年10月時点)
対策の段階 課題 AIが貢献できる領域 対応するCISA推奨対策
① 依存関係の把握と照合 入れ子の依存まで人手で追うことは困難 SBOM管理ツールがlockファイルから推移的依存を自動抽出し、既知の脆弱性情報と照合する lockファイルから入れ子の依存を特定、キャッシュ済みパッケージも確認(CISA 2025年9月23日)
② 不審な外向き通信の監視 侵入後、データ窃取の通信を見落としやすい NDR・UEBAが通信パターンを学習し、不審ドメインへの外向き通信を見つけやすくする 異常なネットワーク動作の監視、不審ドメインへの外向き通信のブロック(CISA 2025年9月23日)
③ 認証情報の異常利用の検知 盗んだ認証情報での正規ログインは見分けにくい ITDR・UEBAが普段と異なるログインパターン・API利用を見つけやすくする 開発者認証情報のローテーション、MFA必須化(CISA 2025年9月23日)
④ パッケージの完全性確認 改ざんされた版の配布に気づきにくい ハッシュ・署名の自動検証で改ざんを見つけやすくする 安全なバージョンへの固定(CISA 2025年9月23日)

AIによる異常検知は、人手では追いきれない通信量・ログ量を扱う場面で有効性が高いです。一方で、自動化はあくまで「見つけやすくする」補助であり、判断・対応・委託先との契約管理を代替するものではありません。

AIの限界と注意点:見抜きにくい攻撃のパターン

AI搭載の検知ツールにも、構造的に対応しにくい攻撃パターンがあります。事例の事実から整理すると、主に二つの局面で限界が生じます。

一つ目は、「正規の更新や正規のリポジトリ経由」で届く場合です。SolarWinds Orionのように正規の更新に悪意が混じる場合や、xz utilsのように正規のオープンソース成果物に混入する場合、配布元が「正しい」ことを前提とするシステムでは見抜きにくいです。CISAがxz utilsで求めた対応は、侵害されていないバージョンへの切り戻しと調査であり、「防ぐ」ではなく「早期に気づいて戻す」アプローチでした。

二つ目は、クラウド事業者側が侵害される場合です。IDCFクラウドの事案では、利用者側の設定・監視がどれほど適切であっても、クラウド基盤自体が攻撃を受けると利用者側での防御に限界があります。顧客データの復元が困難な見通しが示され、復元手段は顧客自身のバックアップのみとされた(IDCフロンティア第3報)。この事実は、自社でのバックアップ管理が不可欠であることを示しています。

AIを含む検知の仕組みは、侵入後の被害拡大を抑えるための一手段であり、サプライチェーン全体のリスクを網羅的に遮断できるものではありません。

ほかの侵入の手口と対策

サプライチェーン攻撃は、ほかの手口と組み合わせて使われることが多い攻撃です。入口が違うだけで、侵入したあとの動きは次の手口と重なることがあります。

関係するほかの侵入の手口
手口(詳しい解説へ) どんな攻撃か
VPNの脆弱性を狙う侵入 VPN機器など外部に公開している機器の、修正されていない弱点から入り込む攻撃
フィッシング 本物そっくりのメールやサイトでID・パスワードを入力させて盗む手口
多要素認証の突破 承認通知の連打・中継型の偽サイト・SIMの乗っ取りで、2段階目の確認をすり抜ける手口
ブルートフォース攻撃 パスワードの総当たりや、流出したID・パスワードの使い回しを試してログインする攻撃
ラテラルムーブメント 侵入した後、社内ネットワークを横に移動して管理者の権限や重要なデータへ近づく行為
内部不正 社員・退職者・委託先が、与えられた権限を悪用して情報を持ち出す行為
ビジネスメール詐欺(BEC) 取引先や経営者になりすましたメールで、偽の口座へ送金させる詐欺
DDoS攻撃 多数の機器から大量の通信を送りつけ、サイトやサービスを止める攻撃

よくある質問

Q. サプライチェーン攻撃は国内でどれくらい重大な脅威か

IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編で2位に位置づけられています。2019年に初選出され、8年連続8回目の選出だ(2026年1月29日発表)。IPA 1位のランサムウェア攻撃(11年連続)と並び、組織が最優先で対処すべき脅威の一つとなっています。

Q. 利用中のオープンソースが改ざんされたらどう動くか

CISAはnpm事案で、lockファイルから入れ子の依存関係まで影響パッケージを特定し、安全なバージョンへ固定し、開発者の認証情報をローテーションするよう推奨しています。xz utilsでは5.6.0・5.6.1が影響バージョンであり、5.4.6 Stableなどへのダウングレードが推奨されました。侵害を疑う場合はまずバージョンの切り戻しと調査を優先します。

Q. クラウド事業者が攻撃を受けると、利用企業にどんな影響が出るか

IDCFクラウドの事例では、2026年10月7日に東日本リージョン1が停止し495の企業・自治体が影響を受けました。顧客データの復元が困難な見通しが示され、復元は顧客自身のバックアップからのみ可能との見解が公表されました。利用組織側でもメールアドレス等の漏えい可能性の公表や事業停止が生じた(2026年10月時点)。クラウドサービスのデータを自社でもバックアップしておくことが不可欠です。

Q. 取引先の対策状況はどう確認すればよいか

まずは取引先との契約で、守るべき対策と事故時の報告義務を決めておきます。そのうえで、多要素認証・脆弱性の管理・バックアップ・インシデント対応の手順などを、年1回以上、チェックシートで確かめます。確認項目は、IPAのSCS評価制度の要求事項を元に、本記事の評価チェックリストにまとめました。IPA 要求事項・評価基準


参考文献

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監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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