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ビジネスメール詐欺(BEC)とは?手口・事例と対策、AIで防ぐ方法【2026年】
文:クリスタルメソッド編集部 監修:河合 継(代表取締役)

結論:ビジネスメール詐欺の対策は、送金前の別経路での確認と承認ルールが最後の砦
ビジネスメール詐欺(BEC:Business E-mail Compromise)とは、取引先や経営者になりすました偽メールで従業員をだまし、攻撃者の用意した口座へ送金させる詐欺である。メールの文面・送信元の異常をAIで検知して入口で止めることはできる。しかし送金の最終防衛線は「メール以外の経路での確認」と「承認ルールの整備」だ。AIは補助であって、ルールと人の判断を代替しない。
FBI IC3の2025年版統計(2026年10月時点の最新年版)によれば、米国でのBEC苦情件数は24,768件、報告損失額は約30.5億ドルに上る。サイバー犯罪の損失額として投資詐欺に次ぐ2位の規模であり、対策の遅れが直接的な資金流出につながることを示している。
出典:FBI IC3「2025 Internet Crime Report」https://www.ic3.gov/AnnualReport/Reports/2025_IC3Report.pdf
関連記事フィッシング対策にAIを使う方法は? / 多要素認証の突破の手口とAIで防ぐ方法は? / AIセキュリティ対策で今すぐできることは?
ビジネスメール詐欺とは何か:攻撃の流れと手口の種類
IPA(情報処理推進機構)は、ビジネスメール詐欺を「巧妙なだましの手口を駆使した偽のメールを企業組織に送り付け、従業員をだまして攻撃者の用意した口座へ送金させる詐欺の手口」と定義し、特定の企業組織を標的として行われる点を強調している。
出典:IPA「企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策」(2026年8月3日)https://www.ipa.go.jp/security/support/rcu1hd0000019vmo-att/20260803_1.pdf
攻撃の流れ(図解)
手口の2タイプ(IPA分類)
IPAは手口を以下の2タイプに整理している。
| タイプ | 主な標的 | 攻撃の流れ | 典型的な偽メールの内容 |
|---|---|---|---|
| タイプ1 取引先の請求書偽装 |
経理・購買担当者 | 海外取引先とのやりとりを盗み見てから途中で割り込み、取引先になりすます。正規アカウント乗っ取りの場合は会話の流れに自然に溶け込む。IPAの相談窓口への相談ではこのタイプが多くを占める。 | 「送金先口座が変更になりました」 |
| タイプ2 経営者等なりすまし |
経理・総務担当者 | CEO・役員のメールアドレスを事前に調査し、なりすます。「CEO詐欺」「企業幹部詐欺」とも呼ばれる。フリーメールの正規アカウントから送るケースでは、多くの場合フィルタを回避して受信箱に届く(IPA)。 | 「至急、指定口座へ送金してください」 |
なりすましの具体的な方法としてIPAは2パターンを挙げている。①なりすます人物のメールアカウントを乗っ取って正規アカウントから送る、②組織ドメインに酷似した別ドメインを取得して送る——の2つだ。正規アカウントから送られる場合は会話の途中に自然に割り込むため、受信者には気付きにくい。
出典:IPA「企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策」(2026年8月3日)https://www.ipa.go.jp/security/support/rcu1hd0000019vmo-att/20260803_1.pdf
実際の被害事例:国内外の教訓
日本航空(2017年)
2017年12月20日、日本航空が公表した事例では、支払先担当者を装った人物からの請求書に記載された香港の銀行口座へ送金し、合計約3億8,000万円を詐取された。内訳はボーイング777-300ER型機のリース料約3億6,000万円と、米国拠点の貨物地上業務の委託料約2,400万円。指定口座は偽のもので、資金の行方は不明と報じられた。海外口座への送金後の資金回収が極めて困難になることを示す典型例である。
出典:J-CASTニュース(2017年12月20日)https://www.j-cast.com/2017/12/20317156.html
英Arup(香港拠点、2024年)
英エンジニアリング大手Arupの香港拠点で、従業員が英国本社CFOを名乗るメッセージを受け取り、続いて参加したビデオ会議ではCFOらしき人物と複数の同僚がデジタルで再現されていたと報じられている。従業員は15回に分けて計2億香港ドル相当を送金し、本社に確認して詐欺と判明した。この事例は、メールフィルタが効かない型——ビデオ会議での複数人なりすまし——の危険性を示している。
出典:Computing「Deepfake fraud costs engineering giant Arup £20m」https://www.computing.co.uk/news/4209651/deepfake-fraud-costs-engineering-giant-arup-gbp20m
迅速な通報で資金を取り戻した米国事例(2025年)
IC3の2025年報告書には、FBIの回収チーム(RAT)が受取口座の凍結を速やかに依頼した結果、後続の被害者であるオレゴン州の市の機関への600万ドル超の送金が組戻されたケースが記録されている。「送金後でも即時連絡で取り戻せる可能性がある」という根拠であり、被害時の初動の重要性を示す実例だ。
出典:FBI IC3「2025 Internet Crime Report」https://www.ic3.gov/AnnualReport/Reports/2025_IC3Report.pdf
AIを活用した攻撃の最新動向についてはAIハッキングと情報漏洩の被害一覧も参考になる。
AIでビジネスメール詐欺を防ぐ仕組みと段階
AIはBEC対策の各段階で補助的な役割を担う。ただし各段階に限界があることを前提として導入判断を行う必要がある。
| 段階 | AIの役割(一般的な仕組み) | 限界・注意点 | 出典・根拠 |
|---|---|---|---|
| ①受信前後 なりすまし検知 |
文面・送信元ドメインの類似・普段のやりとりとの差異からなりすましを判定 | フリーメールの正規アカウントや乗っ取られた正規アカウントからの送信はフィルタを回避しやすい | IPA(2026年8月3日) |
| ②送信ドメイン認証との組み合わせ | SPF・DMARCと連動して差出人ドメインの正当性を補強 | 送信元組織がSPF・DMARC等を未対応の場合、差出人表示は偽装可能 | IPA(2026年8月3日、注3) |
| ③アカウント保護 不審ログイン検知 |
ログイン挙動の異常・外部転送設定の変化を検知 | 検知後でも乗っ取り期間中の盗み見は終わっていないため早期発見が前提 | 警察庁 |
| ④送金直前 口座変更・緊急依頼の検出 |
口座変更・緊急送金の依頼を自動で拾い上げ、承認フローへ回す補助 | 最終判断は人とルール。ビデオ会議でのなりすましはメール判定の外側にある | IPA(2026年8月3日、3.1節) |
攻撃者もAIを活用していることを忘れてはならない。IC3によれば、チャット型生成AIを使えばCEO等を模した本物らしいメール文面を素早く作成でき、音声クローンで送金を依頼することも可能になっている。AI生成のコンテンツはAIによる検知も難しくなっており、技術的対策だけで完結させようとする発想には根本的なリスクがある。2025年にIC3が受けたAI関連の苦情は22,364件、調整後の損失は8億9,300万ドル超に上り、そのうちAIが絡むBECで企業が報告した損失は3,000万ドル超だ。
AIセキュリティ対策の全体像についてはAIセキュリティ対策の解説も参照されたい。
AIによる検知技術の具体例:文体の学習と、やり取りの相手の学習
- 文体の学習:トレンドマイクロの「Writing Style DNA」は、経営幹部などの文体を7,000以上の特徴で学習し、なりすましが疑われるメールをその文体と照らし合わせて見つける。見つけたときは、なりすまされた本人・受信者・IT部門に知らせる(トレンドマイクロの発表)。
- やり取りの相手の学習:Microsoft Defender for Office 365の「メールボックスインテリジェンス」は、利用者がふだんやり取りする相手とのメールの傾向をAIで学習し、正規の送信者と、なりすました送信者を見分ける助けにする(Microsoft Learn)。
Microsoftは、攻撃者がそっくりなドメインを取得して送信ドメイン認証の設定を正しく行えば、SPF・DKIM・DMARCの確認を通過しうると明記している。判定の厳しさを上げるほど、正常なメールを誤って止める件数も増える(Microsoft Learn)。AIの検知は、送金前の確認ルールを置き換えるものではない。
次に読む:フィッシング対策にAIを使う方法は?
AIが効かない場面と、過信してはいけない理由
BEC対策においてAIを過信することには、具体的なリスクがある。
第一に、正規アカウントから送られた偽メールはフィルタをすり抜けやすい。IPAは「取引先の正規アカウントに不正ログインして送る場合、やりとりの途中に自然に割り込むため不正に気付きにくい」と明記している。文面の不自然さが出にくく、AIの異常検知が機能しにくい状況だ。
第二に、フリーメールの正規アカウントからの偽メールも同様に「多くの場合フィルタをすり抜けて受信箱に届く」とIPAは指摘する。ディスプレイ名に役員名を表示しつつ実際の送信元はフリーメールというケースで、特に2025年12月中旬以降、不特定多数にばらまく型の事例が報告されている。
第三に、Arupの事例(報道)のようなビデオ会議でのなりすましは、メールフィルタの対象外である。複数人がデジタルで再現された会議室での指示は、メール検知の仕組みでは捕捉できない。
第四に、差出人表示の過信は禁物だ。送信元組織がSPFやDMARC等の送信元詐称対策を適切に行っていない場合、メールソフトに表示される差出人は偽装が可能である(IPA)。
内部の人が関わっている可能性も考える
JPCERT/CCの調査(2020年公表)では、決裁金額の上限にきわめて近い金額の請求が繰り返された例などから、外部の者が知り得ない情報を使ったBECがあり、内部の事情に詳しい関係者が関わっている可能性も否定できないと指摘している。関係者として役職員・退職者・取引先を挙げ、情報に触れられる人を必要な範囲に絞る、アクセスの記録を監視するといった対策を示した。警察庁も、内部の犯行の可能性があるため、原因の調査は最小限の関係者で進めるよう注意を促している。
JPCERT/CCは、送金の手続きに「客観的な立場から冷静な二次チェックができる体制」を組み込む必要があるとも述べている。営業部門の確認に加えて経理部門も確認するといった二重の承認は、外からのなりすましと内部の関与の両方への備えになる。
ビジネスメール詐欺の対策:導入の優先順位
費用対効果と即効性から、次の順序で対策を整備することが合理的だ。警察庁・警視庁・IPAの推奨を整理した。
優先度1:別経路確認と承認ルール(費用なし・最大効果)
送金内容、特に口座変更や緊急送金の依頼は、メール記載の連絡先ではなく、名刺や自分のアドレス帳に登録された連絡先への電話で確認する。送金の承認ルールを整備し、複数担当者によるチェック体制を設ける。警察庁・警視庁・IPAの三者が共通して最重要対策として挙げている。
優先度2:多要素認証とメールアカウント保護
インターネットから直接アクセスできるSaaS・メール等のサービスには多要素認証を必須化する(IPA、2026年8月3日、3.1節)。不正ログイン・外部転送設定・普段見ないフォルダへの振り分け設定がないかを定期的に確認する(警察庁)。メールアカウントの乗っ取りはタイプ1の起点になるため、ここを塞ぐことでやりとりの盗み見を防ぐ。
優先度3:送信ドメイン認証(SPF・DMARC)とAIメールフィルタ
自組織の送信ドメインにSPF・DMARCを設定する。これにより、自組織ドメインからのなりすましメールを取引先に届きにくくする効果がある。AIメールフィルタはこれと組み合わせて、類似ドメインや文面の異常を検知する補助として導入する。
優先度4:従業員教育と被害時の即時連絡体制
IPAは「まず職員に手口を知ってもらう必要があり、多層防御の考えで対策を実施する」よう求めている。手口の存在を全従業員に周知し、不審なメールを組織内で共有する仕組みを整える。被害が発生した場合は、送金元の銀行に即時連絡して組戻しを依頼し、警察に通報する。IC3の事例が示すように、迅速な通報が回収の可能性を高める。
OS・ソフトウェアの更新、ウイルス対策ソフト、電子署名の活用、添付ファイルのパスワード設定も基本として整備する(警察庁、警視庁)。
ほかの侵入の手口と対策
ビジネスメール詐欺(BEC)は、ほかの手口と組み合わせて使われることが多い。関係する手口の仕組みと対策は、それぞれの解説ページにまとめている。
| 手口(詳しい解説へ) | どんな攻撃か |
|---|---|
| サプライチェーン攻撃 | 委託先・取引先・OSS・クラウドなど、自社の外にあるつながりを経由して侵入する攻撃 |
| VPNの脆弱性を狙う侵入 | VPN機器など外部に公開している機器の、修正されていない弱点から入り込む攻撃 |
| フィッシング | 本物そっくりのメールやサイトでID・パスワードを入力させて盗む手口 |
| 多要素認証の突破 | 承認通知の連打・中継型の偽サイト・SIMの乗っ取りで、2段階目の確認をすり抜ける手口 |
| ブルートフォース攻撃 | パスワードの総当たりや、流出したID・パスワードの使い回しを試してログインする攻撃 |
| ラテラルムーブメント | 侵入した後、社内ネットワークを横に移動して管理者の権限や重要なデータへ近づく行為 |
| 内部不正 | 社員・退職者・委託先が、与えられた権限を悪用して情報を持ち出す行為 |
| DDoS攻撃 | 多数の機器から大量の通信を送りつけ、サイトやサービスを止める攻撃 |
手口全体の見取り図と、AIを使った対策の優先順位はAIセキュリティ対策の解説で扱っている。
よくある質問
Q. ビジネスメール詐欺(BEC)とはどのような詐欺か?
取引先や経営者になりすました偽メールで従業員をだまし、攻撃者の口座へ送金させる詐欺である。IPAは「取引先との請求書偽装」と「経営者等へのなりすまし」の2タイプに分類している。特定の企業を標的に、事前に組織のメールのやりとりを調査した上で実行されるため精度が高い。
Q. 被害の規模はどの程度か?
FBI IC3の2025年版統計(2026年10月時点の最新年版)では、米国のBEC苦情は24,768件、報告損失額は約30.5億ドルで、サイバー犯罪の中で投資詐欺に次ぐ2位の損失規模だ。国内では2017年に日本航空が約3億8,000万円を詐取された事例がある。
Q. 送金先変更のメールが来たらどう対応すべきか?
メールに記載された連絡先ではなく、名刺や自分のアドレス帳に登録された連絡先に電話で確認する。送信元ドメインが正規のものに酷似していないかも確認する。メールだけで判断して送金することは避ける(警察庁、警視庁)。
Q. AIでBECを完全に防ぐことはできるか?
AIはメールの文面・送信元の異常を検知する段階で有効だが、完全に防ぐことはできない。正規アカウントからの送信やビデオ会議でのなりすましはAIメールフィルタの外側にある。攻撃者もAIで本物らしい文面や音声クローンを作成できるため、AI検知との実質的な軍拡競争になっている。別経路確認と承認ルールの整備が前提であり、AIはその補助として機能させるべきだ。
Q. 誤って送金してしまったら何をすべきか?
直ちに送金元の銀行へ組戻しを依頼する。IC3の事例が示す通り、迅速な凍結依頼が資金回収の可能性を高める。攻撃メールとヘッダ情報を保存し、最寄りの警察署に通報する。ウイルスチェックとパスワード変更、不正アクセス・外部転送設定の調査も合わせて行う。調査は内部関与の可能性を考慮して少人数で進める(警察庁)。
参考文献
- FBI IC3「2021 Internet Crime Report」
https://www.ic3.gov/AnnualReport/Reports/2021_IC3Report.pdf - FBI IC3「2024 Internet Crime Report」
https://www.ic3.gov/AnnualReport/Reports/2024_IC3Report.pdf - トレンドマイクロ(2018年4月17日発表)Writing Style DNA
https://www.trendmicro.com/en_au/about/newsroom/press-releases/2018/2018-04-17.html - Microsoft Learn「Anti-phishing policies in Microsoft Defender for Office 365」
https://learn.microsoft.com/en-us/defender-office-365/anti-phishing-policies-about - JPCERT/CC「ビジネスメール詐欺の実態調査報告書」(2020年3月25日)
https://www.jpcert.or.jp/research/20200325_BEC-survey.pdf - 警察庁「ビジネスメール詐欺対策」
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/bec.html - IPA「ビジネスメール詐欺(BEC)対策」
https://www.ipa.go.jp/security/bec/bec_measures.html - FBI IC3「2025 Internet Crime Report」https://www.ic3.gov/AnnualReport/Reports/2025_IC3Report.pdf
- IPA「企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策」(2026年8月3日)https://www.ipa.go.jp/security/support/rcu1hd0000019vmo-att/20260803_1.pdf
- IPA ビジネスメール詐欺(BEC)対策特設ページ https://www.ipa.go.jp/security/bec/about.html
- 警察庁「ビジネスメール詐欺(BEC)」https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/bec.html
- 警視庁「ビジネスメール詐欺」https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/cyber/notes/business_mail.html
- J-CASTニュース(2017年12月20日)JAL報道 https://www.j-cast.com/2017/12/20317156.html
- Computing「Deepfake fraud costs engineering giant Arup £20m」https://www.computing.co.uk/news/4209651/deepfake-fraud-costs-engineering-giant-arup-gbp20m(検索結果本文経由での確認にとどまる)
監修
河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)
AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
運営会社について | 編集方針
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