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医療AIの試験成績は1年でどう変わったか――中国医師試験レビューと日本の動き

医療AIの試験成績は1年でどう変わったか――中国医師試験レビューと日本の動き

医療AIの試験成績は、2025年から2026年でどこまで進んだのか

2026年10月9日、PLOS Digital Healthに、LLM(大規模言語モデル)が中国の医師国家試験などでどの程度の成績を出したかをまとめたスコーピングレビューが掲載された。文献検索の時点は2025年6月12日で、つまり「2025年前半までの証拠」の整理である。この記事では、その内容を原文で確認したうえで、その後2026年10月までに確認できた進展を整理する。

結論から言えば、試験の点数は日本の医師国家試験でも9割台に乗り、「試験に受かるか」という問いは意味を失いつつある。一方で、2026年に目立つのは点数の更新ではなく、「点数が実臨床の安全性を保証しない」という指摘の増加と、規制側がようやく生成AIの審査の考え方を文書にし始めた点だ。ただし、確認できた進展は限られる。分かる範囲だけを書く。

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2025年時点で分かっていたこと――レビューの中身

対象の論文は、Hui Zongらによる「Performance of large language models in the Chinese National Medical Licensing Examinations and Beyond: Scoping review」である。PLOS Digital Health誌の掲載ページによると、受理は2026年9月24日、公開は2026年10月9日、投稿は2025年7月12日とされている(出典:PLOS Digital Health)。

範囲は、PRISMA-ScRに沿って選んだ14研究・51の評価記録で、評価対象のLLMは9種(GPT-3.5、GPT-4、GPT-4o、ERNIE、DeepSeek-R1、Qwen-72B、Baichuan2-7B、Baichuan2-13B、DISC-MedLLM)、試験は中国医師国家試験に加え、集中治療・放射線腫瘍学・超音波医学などの専門試験を含む8種である。2024年の中国医師国家試験(CNMLE)では、GPT-4oが552点(92.00%)、DeepSeek-R1が523点(87.20%)で最高成績となり、いずれも合格基準の60%を超えた(出典:PLOS Digital Health)。

著者ら自身は、結果の読み方に3つの注意を付けている。

  • データ汚染:ベンチマークの汚染や記憶の影響を「完全には排除できない」
  • テキスト中心:評価は言語モデルとしてのものに「largely limited」(ほぼ限られている)
  • 研究間のばらつき:データセットの入手性、プロンプト設計、モデルの版、合否の報告方法に異質性があり、研究間の比較や一般化が限られる

そのうえで、標準化されたベンチマーク、マルチモーダルなLLMの組み込み、透明で再現可能な評価手順の整備を今後の課題に挙げている(出典:PLOS Digital Health)。

医療AIをめぐる証拠と動き:2025年から2026年10月まで2025年時点中国医師国家試験(2024年)GPT-4o 92.00%/DeepSeek-R1 87.20%日本の医師国家試験(プレプリント)4モデルとも95.6〜97.2%試験の点数が主な論点2026年の進展医師の業務会話で測る評価HealthBench Professional(525課題)ChatGPT Healthのトリアージ検証(Nature Medicine)PMDAが審査ポイント(Draft)を公開変わっていない限界データ汚染を排除しきれない試験の点数は臨床の有用性と直結しない生成AI医療機器の審査実績はまだない出典:PLOS Digital Health/medRxiv/OpenAI/PMDA(いずれも本文参照)
図1:2025年時点の証拠、2026年10月までに確認できた進展、変わっていない限界の整理。数値は本文で出典を示したものに限る。

その後に進んだこと(1)――日本の医師国家試験では9割台が当たり前に

日本語の試験での成績も上がっている。medRxivのプレプリント(2025年9月12日公開、査読前)は、GPT-5、Grok-4、Claude Opus 4.1、Gemini 2.5 Proの4モデルを、日本の医師国家試験の2019年と2025年(合計793問)で評価した。全体の正答率はGemini 2.5 Proが97.2%、GPT-5が96.3%、Claude Opus 4.1が96.1%、Grok-4が95.6%で、著者らはモデル間に有意な差はないと報告している(出典:medRxiv)。

ここで見落としたくないのは、同じ要旨が「画像を使う問題、臨床的な問題、難問では成績に差が残る」「X線やCTの左右を取り違える誤りがあった」とも書いている点だ(出典:medRxiv)。点数が上限近くに張り付くと、試験は優劣を測る道具として働かなくなる。これが次の項で見る「測り方の変化」につながっている。

その後に進んだこと(2)――測り方が「試験」から「実際の使われ方」へ

OpenAIは2026年に、医師がChatGPTに持ち込む実際の業務会話を評価する「HealthBench Professional」の論文を公開した。同論文によると、医師の利用は直近1年で2倍超に増え、現在は毎週数百万人規模の臨床医がChatGPTを使っているという(出典:OpenAI)。

この評価は、診療相談・文書作成・医学研究の3用途で、候補15,079件から選んだ525課題からなる。各課題は医師が作った会話と、3人以上の医師が確定したルーブリックで採点される。難しい課題は選抜時に約3.5倍に厚くされ、課題の約3分の1は医師が意図的にモデルの弱点を突くものだ。最高得点は「ChatGPT for Clinicians」上のGPT-5.4で59.0、素のGPT-5.4は48.1、時間無制限・専門医・ウェブ参照ありの医師の回答は43.7だった(出典:OpenAI)。

この数字の読み方には注意が要る。第一に、論文の著者はOpenAI所属で、評価対象の製品も同社のものだ。第二に、論文自身が「難しい課題を厚くしているため、絶対的な得点は実世界の性能率と直接比較できない」と述べている(出典:OpenAI)。「AIが医師を上回った」と読むのではなく、試験問題の点数が頭打ちになったので、業務に近い形の評価へ移り始めた、と読むのが妥当だ。

その後に進んだこと(3)――「点数が高くても安全とは限らない」という検証

2026年2月23日にNature Medicineで公表された研究(Ramaswamyら)は、ChatGPT Healthのトリアージ(受診の緊急度判断)を検証した。臨床医が作った60の症例を21の臨床領域にわたって16条件で試し、計960回のやり取りを、医師3人の合意と比べた。結果として、医師の合意で救急対応が必要とされた症例のうち51.6%(約52%)で、より緊急度の低い判断になっていた(出典:NBC News、iatrox、dhinsights.org)。OpenAIは、この検証はChatGPT Healthの通常の使われ方を反映していないとコメントしている(NBC News)。

この結果は一つのツールの一つの検証であり、医療AI全般の成績ではない。それでも「国家試験で高得点のモデルが、実際の緊急度判断では見落としを出しうる」ことを具体的な数字で示した点に意味がある。この論文は後述のPMDA文書でも、ベンチマークの限界を示す例として引用されている。

その後に進んだこと(4)――日本の規制・ガイドラインの動き

日本では、PMDA審査センターが2026年9月14日付で「生成AIを活用した医療機器の審査ポイント(Draft)」を公表した。文書は冒頭で、薬事規制の観点では生成AIの評価やリスク管理に「特別な枠組み等は十分に体系化されていないのが現状」だとし、「本審査ポイント発行時点では生成AIを用いた医療機器に関する審査実績はない」と明記している。位置づけは確定版ではなく、広く意見を集めるためのたたき台である(出典:PMDA)。

この文書は別紙で、ベンチマークテストの限界を整理している。臨床的有用性との乖離、データ汚染による過大評価、特定ベンチマークへの過適合、採点方法の限界、平均正答率では見えにくい稀で重大な失敗の取りこぼし、の5点だ。そのうえで「ベンチマークの結果のみを過度に重視するのではなく」、臨床的な位置づけに照らした総合的な評価で判断するのが適切だとしている(出典:PMDA)。本稿の冒頭で見た論文の注意書きと、規制当局の文書が同じ方向を向いていることが分かる。

医療機関側の安全管理については、2026年6月末に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」が公表されたとする案内がある。ただし、その案内が挙げる主な改定点はサイバー攻撃対策の強化と小規模医療機関向けの「保守委託機関編」の新設で、生成AIに関する具体的な改定内容は、今回開いたページでは確認できなかった(出典:医療関係者向けセミナーの案内、digitalpr.jp掲載のプレスリリース)。

現場の利用の例としては、同じ案内に、国立病院機構名古屋医療センターの医師が登壇する講演として、生成AIによる退院サマリー作成支援が紹介されている。案内には、2024年に試行し、2025年10月に正式導入したと書かれている(出典:同プレスリリース)。これは主催側の案内文であり、導入の効果や範囲を示す一次資料ではない。

確認できた2026年10月時点の主な動き
領域 確認できた内容 出典
試験成績 日本の医師国家試験で4モデルが95.6〜97.2%(プレプリント) medRxiv
評価方法 医師の業務会話525課題で評価する新ベンチマークが登場 OpenAI
安全性検証 ChatGPT Healthで救急症例の52%が低緊急度の判断 Nature Medicine(報道経由)
規制 PMDAが生成AI医療機器の審査ポイントをDraftで公表。審査実績はまだない PMDA

まだ変わっていない限界

確認できた範囲で、2025年から変わっていない点が3つある。

試験成績が臨床の有用性を保証しない点。PMDAの文書は、ベンチマークで高得点でも実臨床で求められる判断(情報の不完全性、前提条件の違い、禁忌・例外、説明責任など)に十分な性能があるとは限らないとしている(出典:PMDA)。

データ汚染を排除しきれない点。PLOSのレビューも、PMDAの文書も、同じ問題を挙げている。公開された試験問題は、意図せずモデルが学習済みになっている可能性を排除しにくい。

画像などテキスト以外の扱い。PLOSのレビューはテキスト中心の評価だと述べ、日本の医師国家試験のプレプリントも画像問題での誤りを報告している。

加えて、規制面では、生成AIを用いた医療機器の審査実績が2026年9月時点でないことが、PMDA自身の文書で確認できる。つまり「試験に受かるAI」と「医療機器として承認されたAI」の間には、まだ制度上の距離がある。

日本企業への示唆

以下は、上の事実を踏まえた見解であり、事実そのものではない。

第一に、ベンダーが示す「国家試験で高得点」を稟議の根拠にしない。日本の試験では主要モデルが9割台で横並びになっており、点数は選定の決め手になりにくい。選ぶなら、自社の業務データで、禁忌や緊急度判断のような「外すと重大な」場面を重点的に確かめる必要がある。PMDAの文書が評価設計の考え方として挙げる「クリティカル要件を平均スコアとは別に捉える」という発想は、医療以外の業務評価にも使える。

第二に、用途を規制の内と外で分けて始める。PMDAの審査ポイントは、あくまで医療機器に該当した場合を前提にしており、どこまでを医療機器として扱うか(医療機器該当性)は慎重に議論されていると文書自身が述べている。診断や治療に踏み込む用途は該当性の整理待ちの部分が大きい。事務・文書作成の支援のような用途から入るほうが、現時点では判断材料が多い。

第三に、出力を専門職が確認する運用を前提にする。PMDAの文書は終わりに、当面は生成AIの提案を即座に採用せず、使用者が出力の成否を判断できない場合は内容に精通する医師に確認することを義務づけることも必要かもしれない、と述べている。これは審査側の意見の一つだが、導入設計の出発点として参考になる。

関連する基礎知識は、マルチモーダルAIの基礎、ディープラーニング解説、テキストマイニングの基礎でも整理している。


〈参考文献〉

  • Zong H, et al., “Performance of large language models in the Chinese National Medical Licensing Examinations and Beyond: Scoping review,” PLOS Digital Health 5(10): e0001773(2026年10月9日公開)— journals.plos.org
  • Liu M, et al., “Textbook-Level Medical Knowledge in Large Language Models”(medRxivプレプリント、2025年9月12日)— medrxiv.org
  • Hicks RS, et al., “HealthBench Professional: Evaluating Large Language Models on Real Clinician Chats,” OpenAI — cdn.openai.com
  • NBC News「ChatGPT Health ‘under-triaged’ half of medical emergencies in a new study」(2026年3月3日)— nbcnews.com
  • Ramaswamy A, et al., Nature Medicine(2026年2月23日)の紹介記事 — iatrox.com、dhinsights.org
  • PMDA審査センター「生成AIを活用した医療機器の審査ポイント(Draft)」(2026年9月14日)— pmda.go.jp
  • 医療関係者向けオンラインセミナーの案内(2026年7月23日付プレスリリース)— digitalpr.jp

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監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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