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内部不正とは?退職者の情報持ち出しの手口・事例と対策、AIで見つける方法【2026年】

内部不正 対策の基本と手順——AIを重ねる前に整えるべきこと

結論:内部不正対策はまず「権限管理と退職手続き」から始める

内部不正とは、従業員・元従業員など組織の内部関係者が、付与された権限や在職中に得た知識を使って、秘密情報の持ち出し・第三者への提供・改ざん・削除を行うことである。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026(組織編)」では7位に位置し、2016年から11年連続で選出されている(IPA 10大脅威2026解説書)。

対策の要点は次の2点に集約できる。

  • ふだんと異なる操作(大量ダウンロード・夜間アクセスなど)を利用者ごとに把握し、管理者に通知する仕組みを作る。
  • AIによるふるまい監視は、権限管理・退職時のID削除・就業規則の整備といった基本対策の上に重ねて初めて機能する。

AIツールを導入する前に土台が整っていなければ、高精度なシステムを入れても効果は限定的である。以降で順序立てて解説する。

なお、AIセキュリティ対策の全体像については AIセキュリティ対策の解説 も参照されたい。

関連記事AIによる情報漏洩の2つの経路とは? / AIセキュリティ対策で今すぐできることは? / AIハッキングの主な被害一覧は?

内部不正とは——手口の流れと分類

IPAは内部不正による情報漏えいを、意図的な不正行為のほか、情報管理規則に背いた持ち出しや不注意による紛失も含めて定義している(IPA 10大脅威2026解説書)。動機として挙げられるのは、職場への私怨、金銭の授受、転職先での優位確保、外部からの勧誘・買収である。

下図は、内部不正が発生するまでの典型的な流れと、各段階で有効な対策フェーズを示している。

動機の発生私怨・金銭・転職権限の悪用正規ID・共用端末情報の持ち出しメール・USB・印刷開示・競合提供不正競争防止法違反①予防職場環境・教育②権限管理最小権限・ID削除③AI検知UEBA・DLP・ログ監視④事後対応証跡保全・処罰
内部不正の攻撃フローと対策フェーズ:動機発生から権限悪用・情報持ち出し・外部開示までの4段階と、各フェーズで有効な対策を示す。AIによる検知(③)は①②の土台が整って初めて有効になる。

手口は次の3類型に整理できる(IPA 10大脅威2026解説書)。

内部不正の手口分類(出典:IPA 10大脅威2026解説書)
類型 具体的な行為 見えにくい理由
アクセス権限の悪用 付与された正当な権限を使って重要情報にアクセス・複製 操作自体は正規ログとして記録される
退職後のアカウント悪用 在職中のIDで外部から社内システムに不正アクセス ID削除が漏れていると発覚まで時間がかかる
物理的・通信的な持ち出し USBメモリー・メール・印刷・スマホカメラ・口頭伝達 日常業務の操作に紛れ込む

口頭伝達のケースが示すとおり、証拠を残さない持ち出しも存在する。IPAは、自組織に持ち込まれた情報が不正に取得されたものと知りつつ使用すると、不正競争防止法違反となり刑事罰の対象になることもあると指摘している(IPA 10大脅威2026解説書)。技術的な対策だけで完全に封じることはできないが、法的なリスクを含む全体像を把握したうえで対策を設計することが重要である。

実際の事例——警察庁データが示す2025年の実態

警察庁「令和7年における生活経済事犯の検挙状況等について」(2026年)によると、2025年(令和7年)の営業秘密侵害事犯の検挙は38事件で前年より16事件(72.7%)増加した。過去10年の推移を見ると、平成28年から令和6年まで18〜29件の範囲で推移していたが、令和7年は38件と突出している。転職・独立時に営業秘密を持ち出す事犯が多く、雇用の流動化や外国への技術情報流出の懸念から社会的関心は高まっているとされる(警察庁、2026年)。

なお、相談受理件数は令和7年が74件で前年比5件減となったが、警察庁は「高止まり」と評している(同上)。

具体的な検挙事例(いずれも出典:警察庁、同上)は次のとおりである。

  • 2025年10月検挙(兵庫):精密金型製造販売業者の元社員ら3人が、在職中に金型図面を自身のメールアドレスへ送信して領得し、さらに中国所在の法人へ送信・開示。不正競争防止法違反(営業秘密の領得・開示)で検挙。
  • 2025年1月検挙(青森):介護サービス事業者の元社員が、会社のパソコンで介護利用者情報を複合機から印刷して複製を作成し領得。不正競争防止法違反(営業秘密の領得)で検挙。
  • 2025年10月までに検挙(宮崎):ぱちんこ店の元従業員ら3人が、遊技機の設定情報を携帯電話に入力して複製し、知人にメール送信して開示。不正競争防止法違反(営業秘密の領得・開示等)で検挙。

印刷・メール送信・携帯電話への入力と、いずれも日常業務で用いる操作で行われている点が共通している。技術的なハッキングではなく、正規の端末と権限が悪用されるため、未然防止の難度が高い。

転職時の持ち出しは民事訴訟に発展するケースもある。2026年3月に東京地裁が判決を出した民事訴訟では、5G関連の営業秘密を転職先の業務サーバーに保存・開示したとして、東京地裁が元社員に約250万円の支払いを命じた(熊本日日新聞・共同通信配信、2026年3月26日、https://kumanichi.com/articles/1973327)。この元社員は刑事でも不正競争防止法違反で有罪が確定しており、内部不正が刑事・民事の両面の訴訟リスクに直結することを示す事案である。

2025年6月には、ソフトバンクの委託先企業の元社員が情報管理端末にUSBメモリーを接続した様子が監視カメラで確認され、約14万件の顧客情報漏えいの可能性が公表された(IPA 10大脅威2026解説書。ソフトバンク公式発表:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250611_01/)。委託先を含む人的管理の範囲についても、発注企業側で確認しておく必要がある。

AIを絡めた情報漏洩リスクの全体像については AIによる情報漏洩とは も参照されたい。

AIで強化する内部不正対策——段階別の仕組みと役割

AIが働く4つの段階1予防権限を最小にする(AIの役割は小さい)2操作中UEBAがいつもと違う操作を検知3退職の前後合意の上で記録を重点的に確認4事後ログの検索と経緯の再構成
図:内部不正対策でAIが働く4つの段階。

IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン 第5版」(2022年4月公開、最終更新2025年5月19日)は、重要情報を格納するシステムにおいて時間・アクセス数量等の条件による制御を望ましいとし、具体例として「夜間に重要情報へアクセスすることを制限」「重要情報を一括してダウンロードすると上司等に通知される」を挙げる。そのうえで「重要情報に対する通常とは異なるふるまいの監視は、AI等を組み込んだ内部不正モニタリングシステムを用いることで強化することができる」と明記している(IPA 内部不正防止ガイドライン第5版 本文PDF)。

AIを活用した検知手法として参照されるのがUEBA(ユーザーとエンティティの行動分析)である。機械学習でユーザーごとの通常の行動パターンを学習し、そこから外れた動きを管理者に通知する。例として、データ要求数が通常の1時間あたり1,000件から10,000件に急増した場合に検知・通知するといった運用が挙げられる(Splunk「UEBA(ユーザーとエンティティの行動分析)」)。分析に使うデータはファイアウォールログ、Webプロキシ、DNSレコード、VPNアクティビティ等である。内部脅威を含む異常検知に使われるが、判断の最終責任は人間の専門家が担う。

また、IPA解説書はDLP(Data Loss Prevention:情報漏えい対策)も検討対象のツールとして挙げている。内容や持ち出し先に基づいてデータの移動を制御する仕組みであるが、AIで機密かどうかを判定する機能を持つ製品もあるが、判定の精度は製品と設定によって異なる。

段階ごとに対策とAIの役割を整理する。

段階別の内部不正対策とAIの役割(出典:IPA 10大脅威2026解説書・ガイドライン第5版・Splunk)
段階 主な対策 AIの役割 備考
予防(権限設計) アクセス権の最小化・ID共用禁止・不要IDの即時削除 限定的。基本対策が中心 IPA 10大脅威2026解説書
操作中の検知 夜間アクセス制限・一括DL通知・UEBA・DLP導入 ベースライン学習と逸脱検知(UEBA) IPA ガイドライン第5版・Splunk
退職前後の監視強化 退職予定者のログ監視強化・労使合意と周知が前提 特定期間のアクティビティを優先的にフラグ IPA 10大脅威2026解説書
事後対応 報告・連絡・相談・処罰・証跡保全 ログの検索・タイムライン再構成の補助 IPA 10大脅威2026解説書

2026年以降の被害事例の一覧については AIハッキングと情報漏洩の被害一覧 も参照されたい。

AIの限界と注意点——過信が招くリスク

AIによるふるまい検知には、運用上の制約と組織倫理上の注意点がある。意思決定の前に把握しておくべき主な限界を示す。

誤検知と運用負荷

異常ベースの検出は未知の脅威を発見できる一方、誤検知率が高いという問題を抱える。アラートの精度確認と対応判断には人間の専門家が必要であり、クラウド環境との統合が難しく検知のギャップが生じることもある。また、プライバシー保護の要求により行動監視が制限される場合もある(Splunk UEBAガイド、前掲)。「導入すれば自動で解決する」という期待は、運用コストの見積もり誤りと担当者の疲弊につながる。

プライバシーと労使関係

IPA内部不正防止ガイドライン第5版は、経営者がモニタリングに傾注するあまり「役職員を原則として信頼せず、行動を疑いの目で密かに見張る」立場に偏ると、プライバシー・人権の侵害に関する役職員の不信感が増し、紛争に発展することも懸念されると指摘する。また、役職員のプライバシー・人権保護の観点では法務部門の協力が必要となる場合があるとされる(IPA ガイドライン第5版、前掲)。

同ガイドラインが示す運用の要件は次のとおりである。

  • モニタリングが内部不正をしていないことの証明に貢献することを示す。
  • モニタリングデータは内部不正監視の目的以外では使用しない。
  • 特定の人物に重点を置く監視も含め、労使の合意と全員への周知の下で運用する。
  • 就業規則等で組織が従業員を保護する目的であることを広く周知し、個人情報保護法等を遵守した管理体制を構築する。

退職予定者の監視強化はガイドライン上は推奨されるが、「特定の人物に重点を置く監視」に該当するため、上記の要件を事前に満たしておく必要がある。

正規操作への限界

警察庁の事例が示すとおり、複合機での印刷・メール送信・携帯電話への入力といった日常の正規操作が持ち出しに使われる。UEBAは量や時間の逸脱を検知するが、権限の範囲内で少量ずつ行われる持ち出しは見逃しやすい。機械的なルールとAIのどちらにも死角がある点を前提として対策設計する必要がある。

AIだけに頼らない基本対策と、整備すべき順序

整備の順序1重要情報の洗い出しと格付け守る対象を決める2権限の最小化とIDの削除手順異動・退職ですぐ削除3就業規則・誓約書と周知監視の目的も伝える4記録媒体の制限とログ取得USB・印刷の履歴を残す5AIによるふるまい監視UEBA・DLPを重ねる
図:内部不正対策の整備の順序。

IPA 10大脅威2026解説書とIPAガイドライン第5版が示す基本対策を、実装の優先順に整理する。

  1. 重要情報の洗い出しと格付け:情報資産の把握と重要度の格付けを行う。対象が明確でなければアクセス権の設計もログの監視範囲も定まらない。
  2. アクセス権の最小化とID削除手順の整備:部門・職位・業務に応じ必要最小限の権限を付与し、異動・離職時に不要IDを直ちに削除する手順を定める。ID共用を禁止し、誰がアクセスしたかを特定できる状態にする。
  3. 就業規則・誓約書・モニタリング目的の周知(労使合意):内部不正者への懲戒処分を規定した就業規則を整備し、必要に応じて秘密保持義務を課す誓約書への署名を取得する。モニタリングの目的と条件を全員に周知したうえで運用する。
  4. ログ取得と記録媒体の制限:USBメモリー・スマートフォン・プリンターの利用制限と利用履歴の管理を導入し、廃棄時には復元不可能なデータ消去を行う。システム操作履歴を記録し、監視していることを従業員に周知することで不正を抑止する効果もある(IPA 10大脅威2026解説書)。
  5. AIによるふるまい監視(UEBA・DLP)の重層化:上記が整った状態でAI等を組み込んだ内部不正モニタリングシステムを重ねる。夜間アクセスや一括ダウンロードといった通常とは異なるふるまいの検知が強化される(IPA ガイドライン第5版)。

なお、IPAガイドライン第5版は、退職時の内部不正を予防するために在職中の不満を緩和する職場環境の改善にも積極的に取り組むことを挙げている。技術的な管理と職場環境の改善は車の両輪であり、どちらか一方への偏重は効果を損なう。

ほかの侵入の手口と対策

内部不正は、ほかの手口と組み合わせて使われることが多い。関係する手口の仕組みと対策は、それぞれの解説ページにまとめている。

関係するほかの侵入の手口
手口(詳しい解説へ) どんな攻撃か
サプライチェーン攻撃 委託先・取引先・OSS・クラウドなど、自社の外にあるつながりを経由して侵入する攻撃
VPNの脆弱性を狙う侵入 VPN機器など外部に公開している機器の、修正されていない弱点から入り込む攻撃
フィッシング 本物そっくりのメールやサイトでID・パスワードを入力させて盗む手口
多要素認証の突破 承認通知の連打・中継型の偽サイト・SIMの乗っ取りで、2段階目の確認をすり抜ける手口
ブルートフォース攻撃 パスワードの総当たりや、流出したID・パスワードの使い回しを試してログインする攻撃
ラテラルムーブメント 侵入した後、社内ネットワークを横に移動して管理者の権限や重要なデータへ近づく行為
ビジネスメール詐欺(BEC) 取引先や経営者になりすましたメールで、偽の口座へ送金させる詐欺
DDoS攻撃 多数の機器から大量の通信を送りつけ、サイトやサービスを止める攻撃

手口全体の見取り図と、AIを使った対策の優先順位はAIセキュリティ対策の解説で扱っている。

よくある質問

内部不正とは何か

従業員・元従業員など内部関係者による、秘密情報の持ち出し・第三者への提供・公開・改ざん・削除等の不正行為を指す(IPA 10大脅威2026)。情報管理規則に背いた持ち出しや不注意による紛失も内部不正による情報漏えいに含まれる。

内部不正はどの程度起きているか

警察庁によると、2025年(令和7年)の営業秘密侵害事犯の検挙は38事件で前年より16事件(72.7%)増加した。転職・独立時に営業秘密を持ち出す事犯が多いとされる。IPA 10大脅威2026では組織向け7位で、2016年から11年連続の選出(2026年10月時点)。

AIで内部不正を防げるのか

IPAガイドラインは、夜間アクセスの制限や一括ダウンロードの通知に加え、通常とは異なるふるまいの監視をAI等を組み込んだシステムで強化できるとしている。ただし誤検知があり、判断には人が必要で、権限管理や退職時のID削除などの基本対策が整っていることが前提になる。

退職予定者を監視してよいか

IPA解説書は退職前後の監視強化を推奨する。ただしIPAガイドラインは、特定の人物に重点を置く監視も含め、労使の合意と全員への周知の下で運用し、データを目的外に使わないこと、プライバシー・人権の保護に法務部門の協力が必要になる場合があることを示している。

退職時に最低限やることは

異動・離職で不要になった利用者IDとアクセス権を直ちに削除することがIPA解説書で明示されている。離職者のIDが残っていると、在職中のアカウントで外部から不正アクセスされるおそれがある。必要に応じて秘密保持義務を課す誓約書への署名も推奨されている。


参考文献

監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
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