blog
AIブログ
フィッシング対策にAIを使う方法とは?2026年の最新手口・事例と防ぎ方
文:クリスタルメソッド編集部 監修:河合 継(代表取締役)

結論:フィッシングをAIで防ぐ2つの柱
フィッシングとは、実在の企業や機関をかたるメール・SMS・QRコードなどで偽サイトへ誘導し、ID・パスワードやカード情報を盗む手口だ。AIで防ぐ要点は次の2点に集約される。
- 文面・送信元・リンク先をAIで機械的に判定し、届く前後で止める
- 偽サイトに入力されても破られないパスキー等の認証に切り替える
ただし、AIの判定だけでは見落としが残る。攻撃側も生成AIを使って偽サイトを数分で量産できる時代になっており(後述)、認証の強化と運用ルールを組み合わせることが不可欠だ。
企業全体のAIセキュリティ対策の文脈を把握したい場合は、AIセキュリティ対策の解説も参照されたい。
関連記事多要素認証の突破の手口とAIで防ぐ方法は? / ビジネスメール詐欺の手口と対策は? / AIセキュリティ対策で今すぐできることは?
フィッシングとは何か:攻撃の流れと手口の種類
フィッシング(Phishing)は、金融機関・通信会社・宅配業者・EC事業者などをかたり、「個人情報の漏えい」「不正アクセス検知」「取引の停止」などの切迫感を与える文面でリンクをクリックさせ、偽サイトで認証情報を入力させる攻撃だ。送信元の名称やアドレスを偽装するため、表示だけでは真偽を判断しにくく、スマートフォン上ではさらに困難になる(警察庁「フィッシング対策」)。
下図は、フィッシング攻撃が被害に至るまでの典型的な流れと、AIおよび認証対策がどの段階に効くかを示したものだ。
主な手口の種類と特徴を以下の表にまとめる。
| 手口 | 経路 | 典型的な文面・手法 | 主な出典 |
|---|---|---|---|
| メールフィッシング | 電子メール | Amazon・Apple・ANAなどをかたる。2026年8月はEC系が約43.3%、クレジット・信販系約29.0%、上位5ブランドが報告件数の約69.9%を占めた | フィッシング対策協議会「2026/08報告」 |
| スミッシング | SMS | 宅配不在・ポイント期限切れ・未払いを装う短文でURLを送る。攻撃者は数日単位でブランドと文面を切り替える | 警察庁・フィッシング対策協議会 |
| クイッシング | QRコード | ①偽メールへのQRコード添付、②返金を装った送金用QRコードの送付、③店舗の正規QRコード上への偽シール貼付の3類型 | 警視庁(2026年7月10日更新) |
| 正規ドメイン悪用 | メール | amazonaws.com・docs.google.com・sendgrid.netなど実在サービスのドメインを踏み台にする。2026年8月は約32.3%が実在ドメインのなりすまし | フィッシング対策協議会「2026/08報告」 |
| 偽アプリ経由 | アプリストア等 | 偽アプリにマルウェアを仕込み、電話帳を盗んだり端末からSMSを大量送信させたりする | 警察庁「フィッシング対策」 |
2026年の実態と被害事例
フィッシング報告は増加が続いている。フィッシング対策協議会の「2026/08 フィッシング報告状況」(2026年9月18日公開)によると、2026年8月の報告件数は82,338件で前月比約24.5%増だった。悪用されたブランドは96件に及び、攻撃者は数日単位で文面とブランドを切り替えている。フィッシングサイトのURL件数(重複なし)は39,800件だった。
証券口座への影響も深刻だ。金融庁は2026年10月9日更新の注意喚起で、実在する証券会社のサイトを装ったフィッシングサイト等でログインIDとパスワードを盗み、被害者の口座で株式等を売却・買付する手口を注意喚起している。2025年(令和7年)のインターネットバンキング不正送金は4,747件・被害額は約103億9,700万円で、その約9割がフィッシングによるとされる(@IT、2026年4月27日)。
さらに深刻なのは、生成AIによる偽サイト作成の容易化だ。ANN(テレビ朝日系)が2026年10月13日に報じたところによると、ハンガリー・ブダペストを拠点とするホワイトハッカー集団「ホワイト・ハット」の協力のもと、ChatGPTに英語で1行の指示を入力したところ、わずか2分弱で偽のログインページが生成された。Microsoft のロゴは「本物に近い出来ばえ」だったとされる。同グループ責任者のデネス・フォドール氏は「どんなAIでも簡単にできることです」と述べ、盗まれた認証情報で同僚にメールが送られると疑われにくくなると指摘した。ロゴや文面の不自然さを人の目で見抜ける前提は、すでに成立しなくなりつつある。
QRコードを使う手口についても、警視庁が実態として3類型を示している(2026年7月10日更新)。フードコート等で正規QRコードの上に偽シールを貼るケースは、印刷物の外見だけでは判別が難しい。
AIによる情報漏洩リスクの全体像についてはAIによる情報漏洩とはで詳しく整理している。また2026年7月から10月にかけての具体的な被害事例はAIハッキングと情報漏洩の被害一覧を参照されたい。
フィッシングをAIで防ぐ仕組み:段階別の効果と限界
AIを活用したフィッシング対策は、攻撃の各段階に応じて異なる仕組みが機能する。「到達前」「クリック時」「入力時」「侵入後」の4段階で整理する。
| 段階 | AIの仕組み | 防げること | 限界・注意点 |
|---|---|---|---|
| 到達前(メール・SMS) | AIメールフィルタが文面の緊急性・ブランドかたり・送信元のなりすまし・リンク先の新規ドメインや既知偽サイトとの類似を総合判定して隔離・警告。SPF・DKIM・DMARCと組み合わせて送信元の正当性を強化できる(警察庁推奨) | 大量に送られる定型フィッシングの多くを到達前に止める | 攻撃者が数日単位で文面・ブランドを切り替え、正規ドメイン(amazonaws.com等)を踏み台にする場合は見落としが生じやすい(協議会2026/08報告) |
| クリック時(リンク先) | ブラウザやセキュリティ製品のAIがアクセス先の見た目・URL構造・ドメイン登録日等から偽サイトを判定し表示前に警告 | 新規登録の偽サイトや既知のフィッシングURLへのアクセスを防ぐ | 生成AIで偽ログイン画面が2分以内に作れるため(ANN、2026年10月13日)、見た目の精巧さは防御指標にならない |
| 入力時(認証) | パスキー等のフィッシング耐性のある多要素認証。偽サイトで認証情報が入力されても、正規サイトと紐付いた鍵が使われないため盗んでも使えない | フィルタや判定を通過した場合でも、窃取した認証情報で不正ログインされるリスクを大幅に下げる | 提供していないサービスではまだ使えない。SMS OTPはSIMスワップ等で迂回できる場合がある |
| 侵入後(異常検知) | EDR・UEBA・ITDRなどが通常と異なるログインパターンや異常な送信行動を検知して管理者に通知 | 盗まれた認証情報が使われた後の被害拡大を抑止する | フォドール氏の指摘どおり、盗んだ認証情報で同僚へのメール送信など「正常に見える操作」が続く場合は検知が難しい(ANN、2026年10月13日) |
金融庁は2026年10月9日更新の注意喚起で、「フィッシングに耐性のある多要素認証」(パスキー認証等)が提供されたら速やかに設定するよう明示している。判定精度に依存しない認証強化を先に進める理由がここにある。
AIで作るフィッシングはどれだけ危険か:研究と公的機関の注意喚起
AIで作ったフィッシングメールがどれだけ人をだませるかは、研究でも確かめられている。Heidingらの研究(IEEE Access、2024年)は、参加者112人にメールを送り、リンクを押した人の割合を比べた。
| メールの作り方 | リンクを押した割合 |
|---|---|
| 一般的なフィッシングメール(比較用) | 19〜28% |
| GPT-4が作ったメール | 30〜44% |
| 人が専門の手法(V-Triad)で作ったメール | 69〜79% |
| GPT-4と専門の手法を組み合わせたメール | 43〜81% |
AIは、ありふれたフィッシングより効果の高いメールを、人よりはるかに短い時間で作れる。同じ研究では、AIにメールが「不審かどうか」を尋ねる形にすると、研究で使ったAI作成のメールを不審と判定できたことも報告されている。攻撃にも防御にもAIが使える、ということだ(出典:Heiding et al., arXiv:2308.12287/IEEE Access Vol.12, 2024)。
メール以外の経路でも、AIを使ったなりすましが広がっている。FBIのインターネット犯罪苦情センター(IC3)は2024年12月、犯罪者が生成AIで詐欺の規模と説得力を高めていると注意喚起し、身近な人の声をまねた短い音声や、AIで作った声で本人になりすまして銀行口座に入ろうとする手口を挙げた。2025年5月には、米国の現職・元高官になりすましたテキストとAI生成の音声メッセージで信頼させ、別のアプリに誘って悪意あるリンクを送り、認証情報を盗む事案を公表している(FBI IC3、2024年12月3日・2025年5月15日)。
英Arupの香港拠点では、ビデオ会議に出ていた同僚に見える参加者がAIで作られた偽物で、担当者が計2億香港ドルを送金した。Arupは、偽の声と画像が使われたことを認めている(2024年、香港警察の公表と報道)。声や顔が本物らしく見えても、送金や認証情報の入力の前に、別の経路で本人に確かめる必要がある。
次に読む:多要素認証の突破の手口とAIで防ぐ方法は?
AIの限界と注意点
フィッシング対策にAIを導入しても、完全には防げない。主な理由は3つある。
第一に、攻撃側も生成AIを使う。ChatGPTへの1行の英語指示で偽ログインページが2分以内に生成できることが実証されており(ANN、2026年10月13日)、フォドール氏は「どんなAIでも簡単にできる」と述べた。防御側のモデル更新より攻撃側の変化の方が速い局面もある。
第二に、正規ドメインの悪用はドメイン評判での判定を難しくする。フィッシング対策協議会の2026年8月報告では、amazonaws.comのホスト名が約17.0%、docs.google.comやsendgrid.netなど正規サービスのドメインも悪用されていた。信頼スコアが高いドメインを経由する手口では、フィルタの誤検知回避が狙われる。
第三に、利用者が自分でURLを踏む経路ではフィルタを通らない。金融庁の注意喚起にあるとおり、検索広告やSMSから直接アクセスする場合、組織のメールフィルタを経由しない。この経路は認証側の強化でしか止められない。
誤検知(正常メールの隔離)と見落とし(攻撃メールの通過)の割合は、製品や利用環境によって大きく異なる。「完全には防げない」という前提で、認証強化と報告手順を必ず組み合わせることが求められる。
AIだけに頼らない基本対策と導入の順番
警察庁・金融庁の推奨をもとに、導入の優先順位を次の5段階で整理する。
- 送信ドメイン認証の設定とパスワード使い回しの解消:SPF・DKIM・DMARCを自組織のドメインに設定し、なりすましメールの送出を防ぐ。パスワードの使い回しを禁止し、長く推測されにくいものへ変更する(警察庁推奨)。
- 多要素認証の全面有効化:ログイン時・取引時・出金時の通知と多要素認証を有効にする。ワンタイムパスワードや指紋・顔認証の組み合わせが警察庁の推奨に含まれる。
- パスキー等フィッシング耐性のある認証への切替:金融庁はパスキー認証等が提供されたら速やかに設定するよう求めている(2026年10月9日更新)。利用者にも周知し、設定を促す。
- AIメールフィルタ・ブラウザ保護の導入:メール到達前の判定とブラウザレベルの偽サイト検知を導入する。携帯電話会社の迷惑メッセージブロック機能の活用も警察庁が推奨している。
- 報告手順の整備:従業員が見分けられない前提で、不審メールを見たら通報する手順、リンクを押してしまったら即パスワード変更と警告するフローを整備する。金融機関がIDやパスワードをメール・SMSで問い合わせることはないと周知する(警察庁)。被害時はID・パスワードを使い回している全サービスで速やかに変更し、フィッシング110番または最寄りの警察署に通報・相談する。
QRコードについては、警視庁が具体的な行動指針を示している。読み取る前にQRコードに触れて貼り替えがないかを確認する。返金をQRコード決済と言われたら詐欺を疑う。送金画面が表示されたら操作せず閉じる(警視庁「QRコードに関する注意」2026年7月10日更新)。
サービスには正しいURLを登録したブックマークからアクセスし、メール・SMSのリンクは送信者に見覚えがあっても開かないことが金融庁も推奨する基本動作だ。口座やカードの取引状況をこまめに確認し、OSとセキュリティソフトを最新に保つことも合わせて推奨されている(金融庁、2026年10月9日更新)。
ほかの侵入の手口と対策
フィッシングは、ほかの手口と組み合わせて使われることが多い。関係する手口の仕組みと対策は、それぞれの解説ページにまとめている。
| 手口(詳しい解説へ) | どんな攻撃か |
|---|---|
| サプライチェーン攻撃 | 委託先・取引先・OSS・クラウドなど、自社の外にあるつながりを経由して侵入する攻撃 |
| VPNの脆弱性を狙う侵入 | VPN機器など外部に公開している機器の、修正されていない弱点から入り込む攻撃 |
| 多要素認証の突破 | 承認通知の連打・中継型の偽サイト・SIMの乗っ取りで、2段階目の確認をすり抜ける手口 |
| ブルートフォース攻撃 | パスワードの総当たりや、流出したID・パスワードの使い回しを試してログインする攻撃 |
| ラテラルムーブメント | 侵入した後、社内ネットワークを横に移動して管理者の権限や重要なデータへ近づく行為 |
| 内部不正 | 社員・退職者・委託先が、与えられた権限を悪用して情報を持ち出す行為 |
| ビジネスメール詐欺(BEC) | 取引先や経営者になりすましたメールで、偽の口座へ送金させる詐欺 |
| DDoS攻撃 | 多数の機器から大量の通信を送りつけ、サイトやサービスを止める攻撃 |
手口全体の見取り図と、AIを使った対策の優先順位はAIセキュリティ対策の解説で扱っている。
よくある質問
- Q. フィッシングメールはAIで見抜けるのか。
- 文面・送信元・リンク先の総合判定で止められる部分はある。ただし攻撃側も生成AIで偽サイトを2分以内に作れ(ANN、2026年10月13日)、文面やブランドも数日単位で切り替えるため(協議会2026/08報告)、判定だけでは見落としが残る。認証の強化と必ず組み合わせる。
- Q. パスキーはフィッシングに強いのか。
- 金融庁は「フィッシングに耐性のある多要素認証」(パスキー認証等)が提供されたら速やかに設定するよう求めている(2026年10月9日更新)。偽サイトで認証情報を入力させても正規サイトと紐付いた鍵が使われないため、情報を盗んでもログインに使えない構造になっている。
- Q. QRコードを読み取ったら詐欺だったが、どう確認すればよかったのか。
- 警視庁は、読み取る前にQRコードに触れて貼り替えがないかを確認すること、送金画面が出たら操作せず閉じることを推奨している(2026年7月10日更新)。「返金をQRコード決済で」と言われた場合は詐欺を強く疑う。
- Q. 2026年のフィッシング報告はどのくらいか。
- フィッシング対策協議会の報告では、2026年8月単月で82,338件(前月比約24.5%増)だった。2025年通年のインターネットバンキング不正送金被害は4,747件・約103億9,700万円で、その約9割がフィッシングによるとされる(@IT、2026年4月27日)。
- Q. 騙されてIDとパスワードを入力してしまったら何をするべきか。
- 警察庁の案内にもとづくと、そのIDとパスワードを使い回している全サービスで速やかに変更し、フィッシング110番または最寄りの警察署に通報・相談する。口座やカードを提供した場合は金融機関にも連絡する。
参考文献
- Heiding et al.「Devising and Detecting Phishing: Large Language Models vs. Smaller Human Models」arXiv:2308.12287(IEEE Access Vol.12, 2024に掲載)
https://arxiv.org/html/2308.12287v2 - FBI IC3「Criminals Use Generative Artificial Intelligence to Facilitate Financial Fraud」(2024年12月3日)
https://www.ic3.gov/PSA/2024/PSA241203 - FBI IC3 公共注意喚起(2025年5月15日)
https://www.ic3.gov/PSA/2025/PSA250515 - HRD Asia(Arupの香港拠点の事例)
https://hcamag.com/asia/specialisation/employment-law/firm-targeted-by-hk200-million-deepfake-incident-in-hong-kong-revealed-reports/490683 - フィッシング対策協議会「2026/08 フィッシング報告状況」(2026年9月18日公開)
https://www.antiphishing.jp/report/monthly/202608.html - 警察庁「フィッシング対策」
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/phishing.html - 金融庁「インターネット取引サービスにおける不正アクセス・不正取引」(2026年10月9日更新)
https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/chuui_phishing.html - 警視庁「QRコードに関する注意」(2026年7月10日更新)
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/cyber/notes/qrcord.html - ANN(Yahoo!ニュース、2026年10月13日)「ChatGPTで偽ログインページが2分で生成」
https://news.yahoo.co.jp/articles/55db6a743644f9f0daab3240be39743b15b8f7ad - @IT(ITmedia)「2025年のネットバンク不正送金、被害額103億円超」(2026年4月27日)
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2604/27/news047.html
監修
河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)
AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
運営会社について | 編集方針
Read next
あわせて読みたい
-
多要素認証の突破とは?MFA疲労・AiTMの手口とAIで防ぐ方法【2026年】
結論:多要素認証の突破とは?手口と防ぎ方の要点 多要素認証(MFA)は、知識・所持・生体のうち2つ以上を示してログインする仕組みだ。パスワードが漏れても、第2の...
-
ビジネスメール詐欺(BEC)とは?手口・事例と対策、AIで防ぐ方法【2026年】
結論:ビジネスメール詐欺の対策は、送金前の別経路での確認と承認ルールが最後の砦 ビジネスメール詐欺(BEC:Business E-mail Compromise...
-
AIセキュリティ対策とは?企業が知るべきリスクと今すぐできる対策【2026年】
結論:AIセキュリティ対策とは、AIの利用で生まれるリスクから会社を守ること。まず5つから始める AIセキュリティ対策とは、社内で使う生成AIやAIエージェント...
