blog

DeepSeekの2025年から2026年へ:米中AIの差と日本企業の調達

DeepSeekの2025年から2026年へ:米中AIの差と日本企業の調達

DeepSeekの2025年から2026年10月まで:米中AIの差と日本企業の調達はどう変わったか

2025年1月のDeepSeek-R1の衝撃から約1年9か月がたった。この記事では、2025年に語られた「米中のAIの差は約3か月」という見方が、2026年10月時点でどう評価されているかと、日本企業がAPI料金・オープンウェイト・データの扱いをどう判断すべきかを整理する。結論として、2026年の評価は測り方で割れており(米政府機関は約8か月の遅れ、スタンフォードの指標は差2.7%)、「何か月差」という一つの数字を調達判断の根拠にするのは危うい。一方でAPI料金とMITライセンスのオープンウェイトという実務上の選択肢は、公式ページで確認できる。

DeepSeekをめぐる2025年と2026年の主な出来事2025年1月 DeepSeek-R1(MITライセンス)1月27日 Nvidiaの時価総額が約17%下落3月 李開復氏「中核技術で約3か月遅れ」2月 個人情報保護委員会が情報提供2026年(10月時点)V4-Pro・V4-Flash(MIT・1Mトークン)5月 NIST/CAISI「約8か月遅れ」3月時点 スタンフォード指標「差2.7%」8月 ピーク/オフピーク料金に移行
本文で確認できた事実のみを並べた年表。各項目の出典は本文に記載している。

米中の性能差を日本企業の調達判断にどう使うかは、中国AI DeepSeek 日本企業 活用の現実で解説しています。

関連記事DeepSeekとは?できること・使い方・安全性は?

2025年時点:R1の衝撃と「3か月差」発言

2025年1月27日(月)、DeepSeekの無料AIアシスタントがAppleのApp Storeのダウンロードでチャットボットの首位に立つなか、Nvidiaの株価は「17%弱」下落し、時価総額で5,930億ドルが失われた。ロイターは、ウォール街の株式として1日の時価総額の減少額が過去最大だったと報じた(Khaleej Times配信のロイター記事)。

DeepSeek-R1のモデルカードには、重みとコードがMITライセンスで公開され、商用利用や蒸留も認められると記されている。ベンチマーク表では、AIME 2024(Pass@1)がR1で79.8、OpenAI-o1-1217で79.2とされている(Hugging Faceのモデルカード。DeepSeek自身による報告値)。

2025年3月25日、01.AIの創業者である李開復(Lee Kai-fu)氏は香港でのインタビューで、米中のAIの差について「以前は6〜9か月の遅れで、あらゆる面で遅れていたと思う。いまは中核技術のいくつかで約3か月遅れだろう」と述べ、中国が先行する特定分野もあるとした(ロイター配信、The Standard)。ただしこれは当時の一人の経営者の見方であり、客観的な測定値ではない。2025年3月の発言を2026年の現状として読むことはできない。

次に読む:DeepSeek×ファーウェイはAIインフラを変える?

Nvidia CUDA代替AI半導体と日本企業——DeepSeek×ファーウェイが変えるAIインフラ戦略

2026年10月時点:差の評価は測り方で割れている

2026年に入ってからは、公的な評価が複数出ている。ただし結論が一致していない。

  • 米NIST(CAISI)の評価(2026年5月1日公表):DeepSeek V4の能力は「フロンティアから約8か月遅れている」とした。CAISIの評価(非公開ベンチマークを含む)では、V4は約8か月前に公開されたGPT-5と同程度とされる。9つのベンチマークをサイバー、ソフトウェア工学、自然科学、抽象推論、数学の5分野で実施した。一方でDeepSeek自身の報告では、V4はOpus 4.6やGPT-5.4に近いとされており、評価者によって位置づけが異なる(NIST)。
  • スタンフォード大学のAI Index 2026:2026年3月時点で、米中のモデル性能の差は2.7%まで縮まったと報じられた。Arenaのスコアは、首位のClaude Opus 4.6が1,503、ByteDanceのモデルが1,464で39点差である。2023年5月は17.5〜31.6ポイントの差だった(The Next Web)。

同じ「差」でも、非公開ベンチマークを含む政府機関の評価と、公開リーダーボードに基づく指標では、約8か月の遅れと2.7%の差というまったく違う数字になる。調達の稟議では、どの指標で測った差かを必ず併記したい。なお、NISTは自らの評価でのSWE-Bench Verifiedのスコアが他の評価者より低めに出る傾向があると注記している。

DeepSeekの現行モデルと料金(2026年10月時点)

DeepSeekの公式APIドキュメントによると、2026年10月時点のモデルは次の2つである。deepseek-flash(DeepSeek-V4.1-Flash)とdeepseek-v4-pro(DeepSeek-V4-Pro-0813)で、いずれもコンテキスト長は1Mトークン、思考モードと非思考モードに対応する。画像入力(Vision)に対応するのはdeepseek-flashのみで、deepseek-v4-proは未対応と記載されている(DeepSeek API Docs)。

更新履歴では、2026年8月13日にV4-ProがGA(一般提供)となり、8月16日16:00(UTC)からピーク/オフピーク料金が始まった。2026年9月10日にはV4.1-Flashが公開され、「API価格はそれに伴い引き下げられた」と記載されている(具体額は更新履歴には書かれていない)。

100万トークンあたり(USD) deepseek-flash
オフピーク
deepseek-flash
ピーク
deepseek-v4-pro
オフピーク
deepseek-v4-pro
ピーク
入力(キャッシュヒット) $0.003 $0.006 $0.022 $0.044
入力(キャッシュミス) $0.15 $0.3 $0.66 $1.32
出力 $0.6 $1.2 $1.98 $3.96
同時接続数の上限 2500 2500 500 500

ピーク時間帯は平日(中国の祝日を除く)のUTC 01:00〜04:00と06:00〜10:00で、オフピークの料金はピークの半額である。それ以外の時間帯、週末、中国の祝日は終日オフピークとなる。公式ページには「価格は調整されうる」とあり、価格の適用日は記載されていない。「DeepSeekは常に安い」という2025年の印象を前提にせず、利用する時点の公式ページで確認する必要がある。

NISTは費用面の評価として、DeepSeek V4は7つのベンチマークのうち5つで、費用面の比較対象としたGPT-5.4 miniより安く、その幅は53%安い場合から41%高い場合までだったとしている。比較対象は米国モデルのうちGPT-5.4 miniのみである点に注意が必要だ。

オープンウェイト:自社環境で動かすという選択肢

Hugging Faceのモデルカードによれば、DeepSeek-V4-Proは総パラメータ1.6T(活性化49B)、V4-Flashは総パラメータ284B(活性化13B)のMixture-of-Expertsモデルで、リポジトリとモデルの重みはMITライセンスで公開されている。どちらも100万トークンの文脈に対応する。ローカルでThink Maxを使う場合は、コンテキストを384Kトークン以上に設定するよう案内されている。モデルカードはこの版を「プレビュー版」と説明している点にも留意したい。

MITライセンスの重みを自社のサーバーで動かせば、入力したデータをDeepSeek社のAPIに送らずに済む。ただし、これは「重みを使える」ことを意味するだけで、GPUの調達、運用、モデルの更新対応は自社の負担になる。1.6T規模のモデルを実際に動かすための費用は本記事では確認できていないため、見積もりは各社で実施してほしい。

データ主権・法令上の注意

日本企業にとって、APIとオープンウェイトの最大の違いはデータの行き先である。個人情報保護委員会は2025年2月3日付(2025年3月5日更新)の「DeepSeekに関する情報提供」で、DeepSeekのサービスを利用して取得されるデータが中華人民共和国に所在するサーバーに保存されること、そのデータには中国の個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、国家情報法などが適用されることを示している。同ページは、日本国内にサービス提供体制がある他の生成AIとは異なり留意すべき点があるとしている。

この情報提供は2025年のものであり、2026年10月時点の最新の利用規約や運用が同じかどうかは本記事では確認していない。実際に利用する場合は、現行のプライバシーポリシーと利用規約を確認し、法務部門に相談する必要がある。公式APIに個人情報、顧客情報、未公表の情報、契約書などを入力してよいかは、この確認が済むまで保留するのが堅実だ。

次の一手

以下は事実に基づく見解であり、効果を保証するものではない。

  1. 扱うデータで経路を分ける。公開情報の要約など非機密の用途はAPIで検証し、機密を含む業務はセルフホストか、データを外に出さない別の選択肢を検討する。
  2. 「何か月差」より自社の業務での比較を重視する。2026年の評価は約8か月遅れから差2.7%まで幅がある。自社の業務データに近い課題で、現在使っているモデルと並べて試すほうが判断に使える。
  3. 料金は時間帯とモデルで試算する。ピーク/オフピークで2倍の差があり、バッチ処理を週末や時間帯に寄せられるかが費用に効く。
  4. 半年に一度は見直す。2026年だけでもV4-ProのGA(8月)、V4.1-Flashの公開と価格引き下げ(9月)があった。最新の動向は最新LLMの動向も参照してほしい。

〈参考文献〉

AIニュースのまとめをメールで

毎週月曜、海外AIニュースの日次ダイジェストを1週間分まとめてお届けします。無料・いつでも配信を停止できます。

監修

河合 継(クリスタルメソッド株式会社 代表取締役)

AI・ディープラーニングに関する特許16件の発明者。過去、国立がん研究センターとの共同研究や、テレビ番組でのAI解説実績を持つAI研究者として、AIの研究開発を主導している。
運営会社について | 編集方針

Read next

あわせて読みたい

  • Intel CEOが認めた中国AIの実力:DeepSeek・Kimi・GLMは「十分使える」——日本企業はコスト差をどう活かすか

    中国AI DeepSeek 日本企業 活用の現実:Intel CEOが「十分使える」と認めたコスト差をどう判断するか

    Intel CEOが認めた中国AIモデルの現在地:発言の意味を解く 2026年10月12日、シンガポールでのDBS銀行主催パネルディスカッションにて、Intel...

  • DeepSeekとHuaweiがNvidiaのソフトウェア覇権に挑戦——日本企業はAIインフラ戦略を見直すべきか

    Nvidia CUDA代替AI半導体と日本企業——DeepSeek×ファーウェイが変えるAIインフラ戦略

    Nvidia CUDA代替の現実味:DeepSeekとファーウェイが2026年9月に動かしたこと 2026年9月30日、DeepSeekとファーウェイがAsce...

  • ローカル・OSS LLMのイメージ

    DeepSeekとは?できること・使い方・モデル・安全性を初心者向けにやさしく解説【2026年版】

    「DeepSeek(ディープシーク)って、安くて賢いって聞くけど実際どうなの?」「無料で使えるの?安全なの?」——そんな方に向けて、このページではDeepSee...

View more